第20話 逆襲開始
「奇遇だね、マルコ。僕も今そう思っていたところだよ」
丸い机の上。彼に応えるかのようにコーデルがつぶやいた。改築された和室の会議室では、忍び数十人が乗り込みあたりを物色していた。まだだれも通信室には気がついていない。
「妙なまねをするなよ」
忍びの一人が子供姿のコーデルに容赦なく刃物を彼の首筋に突きつけている。しかしその瞬間、とてつもない衝撃がその忍びを襲った。顎を撃ち抜かれるように跳ねあげられる。
周囲を警戒していた忍びたちが慌てて駆け寄った。だが、その場にコーデルはいない。
「誰をお探しかな?」
軽く背筋が凍った。一人の忍びが頭の上に重さを感じる。頭の上にコーデルが片手で倒立してみせていた。だらしないジーパンの余った裾がウサギの垂れ耳のように可愛くぶら下がっていた。
忍者たちは思わず声を上げて、各々飛び道具を投げつける。しかし、一点でぶつかり合う。コーデルは類稀なる身体能力で飛び上がっていたのだ。
「僕の名の下に告ぐ(コーデル・ワイス)」
ずん、と押されて真下の忍びが頭を下げる。そして次の瞬間には叩きつけられた。それと同時に、真下の机ごと周りの敵を一気に吹き飛ばす。当人の幼い姿のコーデルは姿を消し、代わりに銀髪の美青年が砕けた机の上に立つ。
残りの忍びは一斉に戦闘態勢に入った。
「かまわん! そいつを殺せ!」
「じゃ、始めよっか」
その音を聞きつけた忍者たちが会議室に迫る。
通信室ではスミレの同僚が部屋に迫り来る敵に慌てふためいていた。
「どうしようミズノちゃん! 敵さん来てるよぉ!」
——はーい、あと2秒後にゲート開きま〜す——
そして2秒後、忍者たちが通信室の扉の前まで走ってきて、勢いのまま扉を蹴破ろうとした。しかし、それと同時に扉には紺色のゲートが開き、忍者たちはその奥になだれ込んで行った。
そして3秒後、扉の上からゲートの奥に消えた忍者たちが加速しながら全て落ちてくる。そのまま床にぶつかり気絶した。
——はーい。誰か掃除頼みま〜す——
● ナビゲートシステムを館内放送に使わないでください。
——ユー・ユーさん。そちらは無事ですか?——
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本堂では妖艶な声が返事をする。
「ええ、無事よ。私のお気に入りだもん、絶対に傷つけさせないわよ」
妖艶な声はあまりに妖艶でその声が耳に入ったものの性欲を分け隔てなく刺激していた。黄色とオレンジのグラデーション、ドレス着物にも取れる優雅な服が、女体の豪勢な佇まいを強調し、常人ならば一歩すらも知り好みするほど圧倒的な存在感なのが彼女だ。
その証拠に彼女の前に群がる大量の忍びたちは一歩たりとも踏み出せずにいる。時に冷酷な彼らすら臆する可憐な存在。まさに圧倒的だ。
後ろには手傷を負ったミーティアが悔しそうにへばっている。
アカリもまだ息をしていた。
「ふふふ、この子、本当に可愛いの。キシヨくんに大切な人を助けに行かせるために、命をかけちゃうのよ。でも、命の安請け合いは禁物。よろしい決断ではなかったわ」
ユー・ユーはあまい溜め息をつき、華やかな扇子を少し広げて目の前の忍者たちに差し向けた。同時に優雅な風が舞う。
「ええ、でも優しい子は強くなるまで守ってあげないと。それが私の役目なのだから」
「く、喰らえっ!」
彼女の優しくあまい雰囲気に恐ろしさすら感じた一人の忍びは、腰が引けながらもクナイを投げつけた。
しかしながら、ユー・ユーは扇子で軽く弾く。その時の音があまりに甲高く、甲鉄の扇子を思わせた。
「ふふふ、なら、始めましょうか。戦慄の戦いを」
そおっと両手に一振りずつの剣を持つ。
その場が静まり返ったのが、戦いの合図だ。
「天つ神。国つ神」
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ズパァァアン!
城全体に響き渡る大きな爆発。それはその原因を見たものたちを震撼させた。
「城の居住区が破壊されたぞ! いや……斬られたのか?」
「居住区が斬られた!? ありえないだろそんなこと!」
ハルトが片眼鏡の位置を調整すると一言、反対側ではクロカズが溜め息をついて、
「うぜぇ、そんなのエクレツェアの連中に決まってんじゃねぇか」
「ひゅ〜、あいつら本当にやりすぎだな。しかもそろそろこっちにくるぞ」
緑の芝が広がる中庭は大量の忍者たちが様々な武器や妖術を構えながら埋め尽くし、東側の高台と西側の高台にはハルトとクロカズが鎮座していた。彼らの脇に控える彼らと同じ髪の毛の色をした忍者たちは異様に西洋的で呆れるほどファッショナブルだった。
すると、居住区の正門に群がっていた忍びたちが吹き飛ばされた。
「ドラゴン舐めんなぁー!」
奥から紳士服を乱した龍矢が服装に似つかわしくない雄叫びをあげて現れた。口には牙を見せ、血を滴らせている。ついでに黒い尻尾がドカンと叩きつけられた。
「破壊拳法・黒鬼で候(そうろう)」
さらに、城の北の塔の一部が破壊され、誰かが飛び出してくる。その人物は身体中を黒い皮膚で覆っていたが、色を少しずつ美白の肌に戻していく。龍矢の隣に降り立った頃には坂鬼の姿に戻っていた。
龍矢は勝ち誇って「俺の方が早かったな、まさに龍速だ」
サカ鬼は首を振る「いんやぁ、城中まわった俺の方が倒した敵の数が多いぜ」
龍矢は首と尻尾を横に振って「いいや、俺の方が体は清潔だ」
サカ鬼はツノをいじって「あぁん? バカ言え、それなら俺の方が酒が強いぞ」
いいや俺が、いや俺がと互いの勝敗がつかなかったのでつい、
「「やんのかコラァ!」」
互いの胸ぐらを掴み合った。
瞬間、中庭の高台からハルトとクロカズの姿が消える。次の瞬間にはサカ鬼と龍矢の命を狙っていた。ハルトは切り裂くようなかかと落としをサカ鬼へ、クロカズは口の前に指を立てて風の刃を龍矢に叩きつけていた。
「うぜぇな! なんなんだよお前らぁ! いちいち暴れんじゃねえ!」
「ひゅ〜、やはりエクレツェアは脅威だな」
二人は余念無く受けるとにやりと笑う。
「「よし、こいつらを先に倒した方が勝者だ」」
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