第18話 ミーティアの決意

 キシヨが駆け寄ると、アカリはまだ生きていた。

 本堂の木床に赤い血が溜まり始める。彼女はぐったりとしていたが、それよりも痛みに息が荒い。背中から左の肺に向かって日本刀が刺さっているが、誰も下手に抜けなかった。刺さっているから血が出ないということもある。


 キシヨは彼女の手を握って強く呼びかけた。

「大丈夫だ。いますぐ病院へ運ぶ。安心しろ」


——いま、医療班を要請しました——


 ミズノがかすかに声を荒らげる。その様子は自体が切迫していると伝えていた。


 アカリは手に力を込めて、

「妾は覚悟していた。母さまの元に生まれて、物心つく頃には皆とは一線を画したまま一生を終えることを……結婚もそうじゃ、妾は結婚などとうの昔に覚悟しておった。年結婚しなかったのは、母さまの納得すような心の強い男がいなかったからじゃ……小さい頃から強いものと結婚するようにと……言われておったからじゃ……でもな……死ぬ覚悟はしておらんぞ……」

「これ以上喋ったら傷に響く!」


 その時、アカリの朱色の瞳から一滴の涙がこぼれる。情けない自分に涙を流し、命の終わりを実感している。

「私は……死ぬのか?」

「いいや、死なない! 絶対にだ!」

「ふふふ……また絶対か。さっき違ったろうに」

「大丈夫だと言ったら大丈夫だ!」


 キシヨが声を荒らげると天からいつも通りのミズノの声がする。さきほどの動揺をすでに振り切ったようだ。

——キシヨさん。鏡さんのところへ向かってください。マリ様の居場所が確認できました——

 その作業的な指示にキシヨは憤る。だまって首を横に振ると、

「ダメだ! まだ敵がいる。医者が来るまで守らないと」

——これは、業務命令です。今すぐ従ってください——

「ふざけるな! 置いて行けるわけないだろ!」


 ミーティアがキシヨの肩に手をかける。

「行ってくださいっす。私が守ってますから」

「だが、一人でなんとか出来る相手じゃ!」

「いいから行ってくださいっす!」

「置いてけるわけないじゃないか!」


 すると、ミーティアが大きな声で叫んだ。


「なめないでくださいっす! 私は全世界で最も気高い赤毛族! 一度守ると決めたからには絶対に守り抜くっす!」


 不意なことにキシヨは目を白黒させている間も彼女は冷静だ。強い視線がキシヨを貫き、さっきまで忍びに追われていたとは思えないほどだ。

 あれほど切りつけられれば少しは怯えるというものだろうに。


「大切な人は手の届くうちに助けておけっす。それができないなら私が助けに行ってくるっす」


 そこでキシヨはようやく本来の目的を思い出した。彼はマリを助けに来たのだ。


「わかった、行ってくる」


 彼はアカリの手に力を込めるとその場において、鏡の元へと向かった。

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