第14話 結婚式防衛大作戦

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 スミレとお鷹の胸は、秘密の眠るというお城の黒い場所、その宝物庫の入り口にいた。その場所は奥に階段が続いているだけで、その他は一つの黒い窓が外と繋がる冷徹な黒い岩の部屋だ。

 鏡がこの奥の家計簿を手に入れるまで、ここで待つことになっている。


『というわけだ。今から敵が攻めてくるよ』


 中央の台座に置かれたノートパソコンの前に、コーデルの姿があった。しかし、彼は青白い光のみで形成され、子ども姿で宙に浮いている。目の前から、リスグランツたちの会話が響いていた。その場にいた二人の耳にも聞こえる。


 スミレが叫ぶ。

「あんた誰よ!」

『コーデルだよ。チームエクレツェアの副リーダーをやってる。今回、鏡が奥の部屋にある家計簿を手に入れるまで私が今回の作戦を担当するからね。電波が届くここからサポートするよ』

「家計簿じゃなくて家系図! どういう原理でそこにいるの!」

『今、会議室からホログラムで姿を転送しているんだよ』

 電波、届くんじゃないかな……?


 その頃、会議室の丸机の上でコーデルがカメラを前に一人話している姿があった。どこか滑稽で、通りかかった妖艶な女性は、小さな子どもの可愛い姿をクスクス笑っている。


『笑わないでくれ、ユー・ユー』

「何の話よ!」

 スミレはおもわず叫ぶ。だが、彼女は親指の爪を噛むと、

「どうして私たちの動きがバレているのよ?」 


 コーデルは軽くなだめるように手を泳がせる。

『方法は知らないけど、突破してくることは予測していたよ。作戦を固めるからね

まずこの城の地図を確認しよう。この城は南に角が向いた正方形に似た形をしているんだけど、居住区は一番南だ。ミズノ、詳しく頼む』


——計算した結果によると、『障壁』が突破されそうな場所は三つ。一つは北西5階の入り口。そこは巨大な障壁のエネルギー密度が低くなっています。相手もその計算をしてくるはず、二つ目の北東5階の入り口も同じです——


『三つ目は中庭1階からの入り口だよ。ここが一番でかい入り口だから、集中的に狙いを定めてくるはずさこの三つ、北西にサカ鬼、北東にミーティア、正門に龍矢を配置しているよ』


 ミズキが補足的に、

——ちなみにぃ、他の入り口は全てエネルギー濃度が高いので突破できないものと思われるですぅ——



 ミーティアが疑問符を浮かべてしゃべったのが、ノートパソコンから聞こえた。どうやら、通信機の役割を果たしているようだ。


『でも、障壁は消えるんっすよね? さっきも言ってたんすけど、一国の兵力は私たちだけではなんとかならないっすよ。忍者は怖いと聞くっす』


『ミーティア、あと3歩下がってね。そこじゃ攻撃が当たるかもしれないよ? ところがそれは問題ないんだよねぇ〜これが』


 お鷹の胸がしっとりと答える。

「私の障壁は三日と半日、展開し続けることができます。彼らにはそのことを教えていませんので三日後直前の今、突撃してくるのでしょう。ですからそこを突きます」


『みんな! 作戦はこうだよ。お鷹の胸があえて解除した『障壁』を、突破したと思って入ってきた敵を再び『障壁』を展開することで閉じ込める。そうして、敵の分断ができれば俺たちでも倒せる人数のはずだ。鏡が家系図を手に入れるまで頑張ってね』


 コーデルはノートパソコンの前に陣取った。

『あとはここから向こうの動向を窺うだけだよ』


 すると、しばし間を空けて敵軍の盗聴が始まる。

『突撃準備をしろ! 『障壁』は弱まっているはずだ! 迫撃砲を用意しろ!』


 敵軍からの指示だ。


 お鷹の胸が部屋の片隅でやれやれと溜息をつく。

「なめられたものですね。迫撃砲とは……私の守護を突破できるわけないじゃないですか……」


 彼女は以外としっかり落ち込んだ。

 コーデルはすかさず指示を出す。


『お鷹の胸、わかっているとは思うがわざと『障壁』を消しておくれよ? あと半日持つとはいえ、消えかけなのは本当だ。迫撃砲以上が出てきては困るから変なプライドは捨ててね?』

「わかっています」


 すると、正門が開き始めた。目の前には黒装束をきた大量の忍び、彼らは全てリスグランツの手下だ。忍びという印象で最も常識的な格好をしていた。

 中庭の爽やかな緑は埋め尽くされて奥が隠れる。

「服装の手入れが行き届いてないな。さては、ドラゴンが潔癖だって知らないな?」

 龍矢が思わずため息をつく。


 しかし、敵軍勢の前には、オレンジ色の半透明な膜が張られている。それは北西、北東も同じで、門も開かれると三方とも迫撃砲を用意していた。


『撃てー!』


 オレンジの膜に命中。爆発とともに少しだけ地響きを感じる。しかし、『障壁』は消えない。それでも敵は撃ってきた。爆発が数回。しかし『障壁』はビクともしないので、敵軍の指揮は下がっていく。


 そこでコーデルがお鷹の胸に指で指示した。


『次で解除してね』

「わかりました」


 そして爆発。お鷹の胸は両手を強く叩いた。瞬間、障壁が消える。すると、一気に敵軍の指揮は上がった。


『突撃だー!』


 黒装束の男たちが、様々な格好と体格をして居住区の廊下へとなだれ込んできた。無論、サカ鬼たちに衝突する。


 コーデルは連絡する

『気をつけて!』

「鬼に心配は無用だ」

 サカ鬼はなんとなく頷いて、両手を前でクロスした。息をしゅこー、と吐きながら腰まで拳を持ってくると、

「赤鬼柔術」

 サカ鬼は両手を右肩の後ろにあげて、手に力を込めた。すると、空間が半投影な赤色に染まる。そのまま赤色の空間を一気に前へと投げつける

「空間・背負い投げ!」


 サカ鬼が投げた空間は、廊下の隅々まで轟音を轟かせ、敵軍に衝突。そのまま黒装束の敵たちは、海岸の砂の山のように、押し返された。



 一方、龍矢はさらに大きな正門の廊下。敵は北西の2倍近くいた。

「まあ、敵を食い止めるだけなら俺が一番適任だな」

 コーデルが龍矢に正門を任せた理由を察すると、彼はポケットからマッチを取り出す。

「あんまり火を吹くのは得意じゃないんだが」

 そう言いながらマッチを擦って火をつける。そのまま口の中に火を咥えてしまった。少しだけむせるとニヤリと笑う。黒い尻尾を床に叩きつけ、大きく息を吸った。

「火龍が如く!」


 龍矢の精巧な唇の間から真っ赤な炎が吹き出し、廊下を全て火の海で覆った。


 敵軍は思わず後退する。

「火遁の術か!」

 炎の向こうからそう聞こえたのでつい、

「いいえ、ドラゴンですから」

 軽く口をぬぐった。



 一方、ミーティアは迫る敵たちに何もしないでいた。だが、目の前の敵に赤毛が怯える。


「コーデルさん! 本当に何もしなくていいんすよね!」

『ああ、大丈夫だよ』

「でも来てるっすよ!」

『大丈夫だって!』


 しかし、迫り来る敵は刃を持って加速し始める。


「やばい、やばい、やばいっす! きちゃダメ! ダメっすー!」


 しゅん、と空を切ってミーティアの眼前に届いた時、『障壁』に刃が刺さった。忍びたちがなだれ込んできて目の前の『障壁』に激突する。


 ミーティアは思わず尻餅をついた。


 「た、たすかったっす」


 展開された『障壁』はなだれ込んできた敵たちを廊下の中に隔離してしまった。その中にはサカ鬼と龍矢も含まれている。


「酒のアテにはなりそうだな」「汚そうだから触れないように倒すぞ?」


 彼らは忍びたちとたった一人で交戦を始めた。しかし、彼らの身のこなし、膂力、体力、そして技、全てが彼らを圧倒的に凌駕している。ものの数分で2割ほどを倒してしまった。


 ミーティアは赤毛を床から引き上げ、コーデルに尋ねる。


「コーデルさん。私はどうすればいいっすか? バリアの外っすよ?」

『君は戦わなくていいよ。それより、ちゃんと『loveless』は『障壁』の向こう側に放り込んでくれたかな?』

「もちろんっす」


 ミーティアが指差したのは鉄でできたキューブを指差した。それは『障壁』の向こう側でガタガタと揺れ始める。

 コーデルは頭に機械の付いたヘルメットをかぶって、

『僕も戦わせてもらおう』


 すると、鉄のキューブはパカリと開いた。断面がせり上がり、またパカリと開いてはせり上がりを繰り返し、一人の人型ロボットが出来上がる。目が輝き、戦闘の意思を見せた。


「コレは一体何のカラクリだ!?」

 だが、完成した瞬間、忍びが駆け寄って棍棒を頭部にフルスイング。

 しかし、まるで効いている様子はなかった。

 その忍びの顔面を掴み、敵集団に投げつけたとろから戦闘が始まる。そして、案の定強く、瞬く間に彼らを蹂躙し始めた。

 唖然として見守るミーティア。彼女は赤毛を垂らして、しばらくそれを観察しているのだった。


     2


 その頃。鏡は一人、巻物に向き合っていた意思の台座の上に緑の巻物。龍の鱗のような柄は貴重なものだとなんとなく匂わせていた。

 青と赤と緑の『障壁』が守るそれは、どういう原理かふわふわと浮いている。だが、お鷹の胸のものとは違い、先ほどから近づこうとするとバリバリと攻撃してくるのだ。


「取れそうだけどその前に俺の腕が取れる!」

● 多分別の方法があるんさね。じっくり解いていったほうがいい。


 その時、胸ポケットの端末から連絡が入る。


『鏡、コーデルだ』

「あ? どうした? 今終わったぜ?」

『今、よしきから連絡があったんだ。きみぃ、財布忘れてカウンセラーを訪ねただろう?』


 その時、鏡は急に顔色を変えて焦り出す。


「——なっ! しまった、あいつの領収書整理してたんだった! もちろん過失だぜ?」

『そのあとに処方されるお薬も今日でないらしから、まだ時間がかかるね』

「わかった……この借りは返すぜ?」


 ザザザザザ……

 盗聴の途切れる音とともに。

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