第12話 作戦開始の合図

 それをカメラから、ノートパソコンで状況の確認している、鏡の姿。こちらはキシヨたちがいる隣。寝殿造りの和室で、畳のいい香りが漂っている。壁は真っ白で少しモダンだが、崩れやすい砂壁より丈夫そうだ。


「どうしたミーティアちゃん? 休んでもいいんだぜ?」


 鏡が彼女のそわそわした態度に疑問を覚える。


「いえ、和室が初めてなもので、ついっす。裸足なもので触り心地がいいっす。さっきの部屋見たもので、こんな部屋があるとはおもわなかったっすよ」

「赤毛族が裸足なのは知っているが、足の裏感覚フェチだとはしらなかったぜ?」

「フェチじゃないっすよ!」


 ミーティアは少し顔を赤くした。

 少し雰囲気が和んだところで、鏡は部屋の隅でたたずむ少女に声をかける。


「おい、スミレとやら。準備しろ。ここからが本番だぜ?」

「一体何の用なのよ……」


 振り返ったスミレはまだ寂しそうな顔をしていた。どうやら、アカリが結婚することにかなりの喪失感を感じているようだ。


 鏡はそんな様子を見かねて、


「おいおい、そんな顔してる場合か? 早く別の方法を考えないと本当に結婚しちまうぜ?」

「……それはどういう意味?」


 鏡は鼻から、仕方ないな、と漏らすと歩き出す。和室を出てこれまた和風の廊下を進むので、ミーティアもあとを追う。

「分からず屋だなぁ。結婚したくないやつを無理やりさせるわけないだろ。お鷹の胸が結婚準備をしている間に、もう一つの継承方法を検討するぜ?」追う。

「いったいどうやってよ?」

 スミレが横に並んで歩いた。


 鏡は巻物を手に取り、

「皇帝の継承とは呪いに近いようだな。キスが継承の方法に上がっているのもそのせいだ。普通そんなまどろっこしい方法は取らないぜ?」

「確かに、皇帝の座は呪いみたいなものだと聞いたことがあるけど。だからってなに?」

「いいか? 皇位を継承するもう一つの方法は、皇帝の家系図に新しく名前を書くことだぜ。緊急措置のようだが、それができればわざわざ接吻も結婚も必要ないってわけだぜ?」

「そんなの、無理に決まってるわ」

「またそれか、頑固だぜ? お前」


 鏡も立ち止まった。

 スミレはできるだけ平静を保ちながら、


「だって、皇族の家系図は封印されているのよ?お鷹の胸様も無理だったそうよ。そんなのにどうやって名前を書くの?」

「うーん、まあ触れなくてもいいんだぜ? 一回見せてくれ。さっきの黒い場所の奥なんだろ?」

「……わかったわ。こっちよ」


 スミレの案内に二人は続く。

 道中、鏡が人差し指を立てたかと思うと、


「ミズキ。この城のスキャンを頼むぜ? マリの位置を調べてくれ」


——はいよ、了解ですぅ〜——


 その場の皆の鼓膜を陽気な声が揺らした。

 スミレが動揺する。

「一体、何?」

 鏡は笑って先に進んだ。

「作戦開始の合図だぜ?」

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