第二十七章 玩具

第二百七十一話


 結局、エルフが治める大陸にある港で、2週間の時間を過ごした。

 実は、この間が新婚旅行っぽかったと思うのは内緒だ。


 模擬戦を申し込まれていた、シロだが連戦連勝してしまって、港の警備を行っていた者たちの心が折れてしまった。4日ほどで、シロもやることが無くなってしまった。二人で、港町の散策をしても、復興の途中だ。邪魔にならないように、欲しい物だけを購入して、宿に戻るような生活をしていた。宿では、無事にイチャイチャすることができた。


 食料も不足気味だったが、さすがは港町。


 エルフから食料の提供が少なくなっている状況に気が付いて、海の恵を早々に確保するように動いた。


 カイとウミも、食料の確保を行った。

 陸地の探索を行いつつ、海での戦闘も行った。


 大型の魔物を狩ってきては、港町に提供した。シロの名前で、提供を行った。俺の名前では、エルフからの反感が出る可能性を考慮したのだが、港町の住民には”カイとウミの主”で認識されているので、意味は無かったのだが、住民たちは、俺が素性を隠していると考えてくれ、深くまで詮索してこなかった。


 モデストとステファナも別口で動いた。

 港を支配するために、いくつかの施策をおこなったようだ。事後報告で構わないと通達してからは、動きが早かった。現状では、ボトルネックになっているのは、動きが遅い森エルフたちだ。愚痴を、シロ経由で聞いているけど、エクトルも動きを阻害はされていないけど、サボタージュで困っているらしい。

 草原エルフは、協力的になっている。沼エルフたちは、草原エルフに歩調を合わせているようだ。だからなのか、森エルフたちは困惑半分、憤慨半分でサボタージュのようだ。ひとまず、エクトルとモデストで、森エルフを牽制しながら協力的な者たちだけで、復興を目指すことにしたようだ。


 モデストから、出港の準備が整ったと連絡を貰った。

 直接、俺が連絡を受け取ったわけではなく、シロがステファナから伝言で、会いに行ったモデストから、事情を説明された。


「カズトさん」


 港までの道は、散策や買い物で何度も歩いている。

 今日は、シロだけではなく、カイとウミも一緒だ。港の治安は安定している。カイとウミが、食料を調達してきているのも大きかったが、エクトルがエルフたちを鍛えなおして、治安維持に向かわせたのも意味が出てきた。

 もともと、港は各大陸とのやり取りを目的としていた。

 エルフ大陸でしか入手できなかった物資は少なくなっているが、いろいろな意味でチアル大陸に来られない者たちに取っては重要な取引先だ。


「出港ができるのか?」


 船の準備ができたと連絡は受けていたが、出港の準備ができたと聞いたのは、先ほどだ。港の修繕を急がせたようだけど・・・。

 そうか、喫水が深くはならないから、港の施設さえ修繕できてしまえば、海底に多少の残骸が残っていても問題にはならないのだろう。


「はい。確認してきました」


 シロが確認してきたのか?

 漁が始まっていれば、出港も可能だろう。他の大陸に向かうような船は、大きくなり荷物も多めに積むのだろう。漁船とは出港が可能な場所は違うと思うのだが、大丈夫なのか?


「やっとだな。船には港に接岸しているのか?」


「そうでした!船は、沖に停泊して、港から漁船で、奥に向かいます」


 それなら、出港する場所だけ確保すれば、いいな。

 それに、エルフ大陸は、この港だけが、他の大陸と繋がる場所だ。大型の船の接岸を許さない方針は正解なのかもしれないな。


「そうか、わかった。すぐに向かおうか?」


 手配したのは、モデストだろう。1週間くらいあれば、チアル大陸に連絡して、船をこちらに向かわせるくらいはできるだろう。そうなると、ルートガーが絡んでいるのだろう。すぐに動かないと文句を言われる。文句くらいならいいが、業務から手を引かれると困る。俺が忙しくなってしまう。もう仕事をしないで、好き勝手に生きていきたい気持ちが強くなっている。


 エルフ大陸に来た時には、気分はまだチアル大陸をどうやって統治していくのかを多少は考えていた。

 でも、港で2週間の足止めを喰らっていると・・・。シロといちゃいちゃしながら、模擬戦を観戦したり、草原で寝っ転がったり、カイとウミに付き合って、眷属と一緒に狩りをして過ごすのも悪くないと思えてくる。

 『新種=できそこない』がほぼ間違いない。そうなると、本当の新種が出て来ることが予測される。それは、俺一人で考えることではないし、責任を感じる必要もない。だから、情報としてルートガーにも流す。中央大陸にも流す。冒険者のノービスたちにも伝えてもいいだろう。他にも、シュナイダーやミーハンたちに伝えてもいい。それだけではなく、ローレンツ・・・。シロの父親を敬愛している派閥の者たちにも流せば、アトフィア教でもある程度は情報が回るだろうアトフィア教は明確な敵だが、”できそこない”に対応するために必要なら、一時的な共闘も考えられる。


「・・・。はい」


 ん?珍しく、シロが何か・・・。奥歯に物が挟まったような返事をしてくる。


「どうした?」


 言いにくそうにしているけど、聞いてほしいときの表情だ。

 最初は解らなかったが、シロは甘えるのが得意ではない。自分だけで完結させてしまう事が多い。特に、自分で”わがまま”だと感じてしまっている時には、”我慢”する方向に思考がむかってしまう。最近は、少しはよくなってきたが、まだ傾向としては強い。


「いいえ・・・。あの・・・」


「なに?」


「カズトさんと、2週間も部屋で過ごせて、楽しかったのが・・・。終わってしまうのが、寂しくて・・・」


「それは、俺も同じだ。シロと一緒に過ごせて、よかったよ。チアル大陸に居ると、ルートの奴や長老衆や・・・。いろいろ邪魔が入るからな」


「はい。ここだと、どちらかというと、僕への・・・」


「ははは。気にしなくていいよ。そのおかげで、モデストやステファナがやりやすかったようだからね」


「はい!」


「チアル大陸に戻ったら、しばらくは処理しなければならない物があるだろうけど、終わったらゆっくりしよう」


「はい!でも、無理はしないでください」


「大丈夫。無理は嫌いだ。それに、仕事の殆どを、ルートに振ってしまえばいい。あと、フラビアやリカルダに手伝わせる。ギュアンとフリーゼも、使えるようになっているだろう」


「そうですね。全部、カズトさんが処理しなければ、ならないのは、間違っています。僕も手伝います。早く終わらせて、ゆっくりしましょう」


「そうだな。荷物の整理は終わっているし、港に向かうか?」


「はい」


 今度は、しっかりと納得した表情で頷いてくれる。

 俺以外に、そんな顔を見せないよう・・・。俺がシロのこんな可愛らしい表情を見た奴に嫉妬してしまう。


 シロが、俺に腕を絡めて来る。


 そのまま港に向かうと、リヒャルトが頭を下げて、俺たちを出迎えてきた。


「ツクモ様。お迎えに上がりました」


「!!ん。あっ。ルートの指金か?」


「ハハハ。それと、長老衆と、フラビア殿とリカルダ殿と、わが娘のカトリナからの要請です」


「ん?なぜ?」


「私以外にも、候補は居たのですが、クリスティーネ様とか、メリエーラ様とか、シュナイダー様が、御身をお迎えに行くと・・・」


「それは・・・」


「さすがに、問題になりそうだったので、私がきました。ルートガー様からの指示があり・・・。船を所有していた私に白羽の矢が立ちました」


「そうか・・・。なんとなく、事情は解ったが、エリンがよく飛び出さなかったな?」


「・・・。いえ、飛び出しそうになったのは、竜帝が抑え込んでいました。なので、申し訳ないのですが、ゆっくり寄り道して帰ることができません」


「わかった。わかった。そこまで、無理は言わない。シロもいいよな?」


 シロを見ると、頷いている。

 出て来る名前から厄介ごとではないが、何か、問題があったのだろう。それとも、俺を迎えに来るという建前を利用して、休もうとしているとか・・。メリエーラとシュナイダーならありそうだ。フラビアとリカルダは、シロに一刻に早く会いたいのだろう。


 シロが俺の顔を覗き込んできたので、頭を撫でてやる。嬉しそうに、抱きついてくる。


「相変わらずで、うらやましい」


 リヒャルトの言葉を無視して、船に乗り込む。沖合に停泊している船に向かう。


 短くも長かった、エルフ大陸での新婚旅行も終わりだな。

 帰ったら、また忙しくなるのだろう。

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