第二百七十話


 アトフィア教の連中の尋問は、港町で生き残った者たちに任せた。

 エクトルにも使者を出したのですぐにやってくるだろう。


 俺は、シロと宿屋の部屋に入った。港が混乱しているから、すぐには出港できる状況ではない。


 状況は収まっているが、破壊された港の修復も必要だ。

 死んでしまった者たちの埋葬や送り出しを行う必要がある。俺たちが関与すべき事柄でないので、今は”待つ”しかやることがない。


「カズトさん」


 もちろん、シロは一緒だけど、俺もシロもやることがなくて、ディメンジョンホームで鍛錬をしている。


「どうした?」


「エリンを呼び寄せて、帰るのではダメなのでしょうか?」


「それも考えたけど、そうすると俺たちの最大戦力が知られてしまう」


「え?でも」


「あぁ来る時に、エリンを見せているけど、帰りにも見せるのは別だよ」


「え?」


「実際に、来る時にエリンが居たけど、飛び立った所は見られたかもしれない。それ以降は、エリンを見ていない。さて、どう考える?」


 俺の問いかけに、シロが考え始める。

 時間がある時なので、考えているシロを眺めている。こんな時間も久しぶりだ。


 何かを考えついたようだ。


「うーん。まだ、カズトさんがエルフ大陸にいる?」


 一番の目的ではないが、結果的に生じる事象だ。

 まず、俺たちだと解っていない可能性が高い。エクトルやモデストは、エルフ族と交渉を行っている。俺たちも森エルフと対峙して戦闘を行ったが、奴らが港の者たちと交渉しているとは思えない。

 したがって、”力あるもの”がエルフ大陸に残っている。と、監視者たちが考えてくれれば十分だと思っている。


「そう考えてくれれば、面白いな」


 シロの考えは間違ってはいない。

 しかり、エルフ大陸に俺がいるように見せかける必要は皆無だ。チアル大陸に戻れば、隠していても、俺が帰ってきたと知られてしまう。


 あと、力を見せつける必要もない。

 カイとウミが港にいる者たちに力を見せつけている。俺の眷属だと理解している者も多い。十分な成果だと言える。


「他にもあるのですか?」


「俺たちだと知らない者たちが、エルフ大陸に力を持つ者が興味を持っている。特に、エルフ大陸に進出を考えているだろう、アトフィア教への牽制にならないか?」


「あっ」


 アトフィア教がエルフ大陸を狙っている。俺が考えたのは、辞めさせるのは難しいが、エルフ大陸に”竜族”を従える者がいるという誤解を、アトフィア教の侵攻の牽制に使えないかということだ。

 この程度で騙せるとは思っていないが、捕えた者たちは殺されるだろう。工作部隊が帰ってこないとなったら、奴らも少しは慎重になるだろう。そのうえで、エルフ大陸がエクトルたちに寄って、変革されれば、簡単には手が出せなくなる。

 目的がはっきりしないのが気持ち悪いが、奴らのやろうとしている事は、俺の気分の問題で潰させてもらおう。


「それに、カイとウミがいるのに、この上でエリンまで、俺の眷属だと知られたら、恐怖の対象にならないか?アトフィア教には、恐怖して貰ったほうがいいが、エルフ大陸では、これ以上の恐怖は必要ない」


「わかりました。あっ!カズトさん。一つお願いがあるのですが・・・」


「なに?」


「模擬戦を申し込まれたのですが、受けていいでしょうか?」


「シロが?」


「はい」


「ダメじゃないけど、相手を殺さないように、あと、ウミを連れていくこと」


「ありがとうございます」


 シロが立ち上がって、部屋から出ていく・・・。近くにいたウミに目を向けると、”やれやれ”という表情をして、シロの後を追いかけた。ウミじゃなくて、カイにお願いした方がよかったか?

 でも、シロの対戦相手が心配だから、ウミの方がいいだろう。シロにも、スキルカードを持たせているが、相手の攻撃次第では手加減が難しい場面があるかもしれない。


 心配のし過ぎは、悪いかな。主に、相手の身体が・・・。シロが壊さなければいいな。


「カイ」


『カズト様。港の周辺を見てきたく思います』


「あぁそうだな。”できそこない”が、まだ居る可能性があるな」


『はい。単独では、対処が難しいと思います。発見、次第、戻ってまいります』


 カイが少しだけ悔しそうにするが、確かに”できそこない”を相手にするのなら、カイだけでは難しい。カイとウミで対処しなければならない。俺や、シロが足止めにスキルを使えば、戦いやすい可能性もあるが、防御を考えると理想的な状況にならない。カイが戻ってきたら、ウミと一緒に対応する。俺とシロで、港を守る。役割分担での対応が必要だろう。


「わかった。”できそこない”が居たら、ウミを向かわせる。俺とシロは、スキルを使って防御に徹する」


『はい』


 カイは、窓から外にでて、屋根伝いに街の外に向かって走っていった。


 一人になった部屋。

 ベッドに身体を投げ出す。俺たちが使っているベッドとは違うが、装飾などは上等な部類だ。布団の手触りは悪いし、クッション性もないが、十分に気を使ってもらっている。


 天井を見ながら、これからのことを考えてみる。

 俺たちの拠点は、かなり生活水準が上がってきている。エルフ大陸の港町を見ても、格段に過ごしやすい。中央大陸と比べても同じだ。


 SAにも、上下水道を通したい。

 それだけの技術は持っている。生活も落ち着いてきている。余裕がある住民も増えてきた。


 生活基盤がしっかりしてきたら、今度は娯楽を欲するのは当然の流れだ。


 生活を豊かにするには余裕が必要だ。余裕を産む施策はしてきた。芽吹くまで時間が必要な事も多い。しかし、芽吹いてから、娯楽の準備を初めても手遅れだ。娯楽は、心の余裕がないとダメだけど、根付くまでに時間が必要だ。


 娯楽施設は作ってきたが、今度は”おもちゃ”を考えた方がいいかもしれない。


 定番ものは放出している。もう少しだけ子供をターゲットにした”おもちゃ”でもいいかもしれない。


 あとは、”できそこない”への対応だが、出たところ勝負は変わらない。まだ生態が解っていない。カイが対峙した感覚では、魔物の進化が失敗した時に発生する”何か”が影響しているのだろう。眷属たちは、進化に失敗したことがない。そもそも、”進化”の条件は?

 考え出すと、解っていない事が多すぎる。スキルカードも”こういう物”だと理解しているが、考え出すと”なぜ”が止まらない。


 スキルカードは、考えてもしょうがない。何か、解ってから改めて考えればいい。


 娯楽・・・。玩具・・・。

 身体を動かすものは、ダンジョンがあるから必要はないだろう。頭を使うような玩具の方がいいだろうな。


 知育玩具でも作ってみるか?

 ”かるた”とか、数字を使った玩具?とかだと意味が出てきそうだな。面白いかは別にして、知育玩具はいいかもしれないな。積み木とか、子供ができるような物を作ってみよう。

 受けなければ、その時に考えればいい。


 外に向けての販売は難しいだろうな。エルフ大陸と中央大陸の一部しか見ていないが、まず子供が労働力なのは同じだ。”遊び”を提供しても、子供が”遊ぶ”余裕がないだろう。労働力として期待されている状況もあるが、”手伝い”レベルの労働でも、子供には負担だ。疲れて、遊びを行う余裕はない。俺たちの大陸なら、子供は労働力として期待されている部分が全くないとは、考えていないが、他の大陸よりは余裕がある。


 ”遊び”に興じる余裕は存在している。


 方向性は、子供の”遊び”に使える”玩具”でいいだろう。


 年齢別に考えてもいいだろう。

 成人というよりも、自分たちで”遊べる”年齢になるまで手助けができれば十分だ。


 ルートと作られそうな物を相談してから提供方法を考えればいいだろう。外に向けての販売は、最初は考えない。内部で回そう。商人たちが勝手に外に持ち出すだろう。別に禁止をしなければいい。禁止する理由もない。


 どのくらいの時間が経過したのだろう。

 窓から差し込む日差しも大分やわらかくなってきている。シロとウミは、まだ帰ってきていない。カイも同じだ。


 まぁ大丈夫だろう。


 考え事をする為に、窓を閉めてから、目を閉じた。

 こんな日もたまにはいいだろう。

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