第百八十三話


「シロ。スキルで援護。カイとエリン、ウミとアズリはそのままシロの護衛」

「わかった」

『はっ!』「うん」

『わかった』「了解!」


「オリヴィエとレイニーとエーファはコボルトキングまでの道を作れ」

「「「はっ!」」」


「リーリアとステファナ。コボルトの数を減らせ、同時にオリヴィエたちの援護」

「「はっ」」


「ティア、ティタ、レッチェ、レッシュ、エルマン、エステル。俺と一緒に、キングを狙うぞ」


 眷属から返事が返ってくる。


 魔法陣が消える。

「行くぞ!」


 オリヴィエとレイニーがコボルトの群れに突っ込んでいく、エーファは少し遅れる形になる。


 右側にオリヴィエ、左側にレイニーが居て、突撃当初は並んでいた2人だが、徐々に間隔を開けていく、開いた場所にエーファが入り込む。そのまま、エーファが真っ直ぐに進む。


 その後ろに俺と眷属が続く。

 最近になって試している形だ。オリヴィエとレイニーが楔を打ち込んで、そこから、斜めに広がり、広がった部分にエーファが切り込んで、扇型に魔物の群れを圧迫する。エーファがボスまでの道をある程度作ったら、眷属が2体ずつ交互に突撃を繰り返す。

 その間に圧迫されている魔物の群れをシロとリーリアとステファナが弓やスキルで攻撃を行う。


 コボルトキングが動き出す。


「エーファ!」


 俺の声に反応して、エーファが左側に飛ぶ。

 エーファが居た場所に突っ込む。コボルドキングは、エーファの動きに目をとられた。

 がら空きの左側からレッチェとレッシュが高速飛行で攻撃を繰り出す。


 牽制には十分だ。これだけバランスが崩れれば、俺の剣技でも当てる事ができる。


 刀を構えて、レッチェとレッシュが攻撃をした方向でコボルトキングの意識外から攻撃を行う。


 ちっ浅いか。

 腕一本を切り飛ばせただけだ。


 一旦距離を取る。上位種だから、スキルは使用しないとは思うが、奥の手があるかもしれない。


「エーファ!」

「はい」


 コボルトキングの後方に廻っていたエーファがバランスを崩しているコボルトキングの首をはねる。


 コボルトキングが落ちた。

 統率が取れなくなるコボルトの上位種を撃破していく。


「カイ!エリン!ウミ!アズリ!頼む。他は、一旦下がれ!」


 戦闘がこれで終わりならいいが、そうでなかった事を想定すると、一度オリヴィエとレイニーを下がらせて、殲滅を得意とする者たちに任せたほうがいい。それに戦わせないと、カイ以外は戦えなかったからと休憩時に模擬戦を挑まれる事がある。


 オリヴィエとレイニーとエーファが後方に下がってくる。


 4人?の戦闘を見ている。

「ご主人様。終わりましたね」

「そうだな」


 後方で支援していた、リーリアもすでに戦闘モードを解除している。

 シロ以外は武装を解除している。


「カズトさん」

「今回はダメだ。次はシロも俺と一緒に戦ってもらう事にする」

「はい!」


 三回に一回はシロを後ろに下がらせている。

 下がった次は俺と一緒に前に出る。

 その次は俺が後ろに下がって指示に集中してシロが前に出る。


 基本は基本として、戦闘時には俺の指示に従う事が絶対条件になっている。

 シロもそれはわかっているので問題はない。


 5分後、大量にいたコボルトの上位種が居なくなった。

 ここで気がついたのだが、この部屋では倒された魔物がダンジョン?神殿?に吸収されていくようだ。スキルカードと魔核が残されているだけだ。


「マスター」


 オリヴィエが怪訝な表情をして、俺に拾ったスキルカードを渡してきた。

 受け取った俺も、オリヴィエが何を不思議に思ったのかわかった。


 スキルカードは、レベル1だ。

 周りに落ちている物を見ても、全部レベル1の様だ。

 魔核も同じくレベル1だ。救いなのが、レベル1でスキルスロットが2-3個空いている事だ。


 今までもレベル1の魔核にスキルスロットが空いている事があったが、多くても2つでほとんどの場合が一つしか空いていなかった。スキル道具を作る事を考えると、スロットが2-3個ある低レベルの魔核は貴重なのだ。

 スキルカードは・・・。拾わなくても別にいいかな・・・・。必要にはならないと思うけど、せっかくなので全部拾っておく。


 気がつくと入ってきた扉と上の階に行くであろう扉が開いている。


「マスター。どうしますか?」

「ペネム。どうだ?」

『支配領域にはできません』


「うーん。休憩はまた後で考えるとして、武装の確認と軽く食事だけしておくか?」

「かしこまりました」


 順番に武器の手入れをしていく。

 防具の方はまだ大丈夫そうだ。武器も、エーファの武器が少し傷んでいる以外は大丈夫そうだ。


 武器の調整も終わった。

 歪んでいる物はなかったが、軽く研いでから磨いておくことにした。それだけでもだいぶ違ってくる。


 リーリアとステファナが用意した軽食を摘んでいる。

 時間でいうと、30分くらい経過しただろうか?


「旦那様」


 最初に異変に気がついたのは、誰なのかわからないが、声を出したのはレイニーで間違いないだろう。

 入ってきた扉が自動的に閉まった。


 それから、魔法陣がまた現れたのだ。


 くっ。


「戦闘準備!」


 皆が一斉に戦闘態勢を取る。


 魔法陣の中央には、先程と同じでコボルトキングが現れる。

 もう一戦か?時間の経過で、同じ事が繰り返されるのか?


「カイ。ウミ。エリン。アズリ。今回は遠慮いらない。最初から全力で頼む」


 位置取りが悪い。

 分散してしまっている。ステファナとリーリアは入ってきた扉付近に居るので、大丈夫だろう。

 まずいのは、シロとエーファだ。出口の近くに移動していた。完全に孤立してしまっている。一番近くに居るのはアズリだな。


「アズリ。シロとエーファの護衛を頼む。シロとエーファは、アズリを支援」

「「「はい!」」」


 先程と同じように、魔法陣の周りが点滅している。

 時間的な猶予があるとはいえ、取れる対応は多くない。魔法陣の中に足を踏み入れればその時点で襲われるのは、今までの経験から判明している。

 はじめから中に居た場合にどうなるのかはわからない。今回も偶然なのか、必然なのかわからないが、魔法陣の中には誰も居ない。もしかしたら、魔法陣の領域に人が誰も居ない状況だと扉が自動的に閉まって、階層主が出現してくるのかもしれない。

 検証しないとわからない。検証が必要になってくるだろう。


 魔法陣が消える。

 コボルトキングと上位種で間違いない。数も先程と同じくらいだろう。


 俺をオリヴィエと眷属が取り囲んでガードする。

 階層主たちは、カイたちが突撃した事で、数を減らしていく。


 戦闘時間は、15分くらいだろうか?

 最後にコボルトキングがカイの攻撃で胴体を真っ二つにされて倒されて終わった。


 やはり、スキルカードはレベル1の物しか出ていない。

 魔核もレベル1だが、こちらは使いみちがありそうな物が多い。


「オリヴィエ。大丈夫か?」

「大丈夫です」

「そうか、リーリアとステファナも大丈夫か?」

「はい」「大丈夫です。食料も大丈夫です」

「シロ!」

「カズトさん。エーファも僕も大丈夫です」


 俺の周りに居た眷属も大丈夫な様子だ。


「ペネム!ティリノ!」

『主上様。申し訳ありません』

「どうした?」

『主上様を危険にさらしてしまいました』

「だから、どうした?危険というほどではなかったぞ?」

『結果は、確かに危険ではなかったのですが、階層主がこんなにすぐに現れるとは考えませんでした』

「それはいいけど、短時間にでるのは問題だな。何か解ったのか?」

『いえ、何もわかりませんでした』

「そうか・・・。まだ続くと思うか?」

『はい。時間的な事はわかりませんが、同じことが繰り返されると思います』


 そうだよな。

 どうしようか?


 今の戦いでの損耗は殆ど無い。

 早めに状況を把握しておきたい。今は、コボルトだが今後の展開次第では、違う魔物が出てくるかもしれない。休憩を余儀なくされる事も考えられる。

 通路で休む事も考えなきゃならないだろうな。


 まずは、もう一度、コボルトキングが現れるかだな。

 魔法陣の場所から離れて、入ってきた扉を閉めればいいだけだろう。


 何度か実験を行った。


 まずは普通に入ってきたのと同じようにして扉を閉めた。きっちり魔法陣は出現した。


 次に実験したのが、自動的に閉まる時間の計測だが約30分で自動的に閉まる。この時に、魔法陣の出現場所に誰かが入っていれば、魔法陣は出現しなかった。初回も同じようにできるのかはわからないので、上の階で試してみる事になった。ただ、魔法陣が出なかったときには、扉が閉められてしまって、移動が困難になるので、現実的には戦う必要が出てくる。魔法陣の領域から全員が出た段階で魔法陣が出現する事も確認した。


 魔法陣以外ならどこに居ても大丈夫なようだ。出現する魔物の方向は入り口の方を向くと考えて問題無いようだ。


 そして、一つわかったことがある。

「ペネム。ティリノ。お前たちのダンジョンで、レベル1のスキルカードと魔核だけを出す事はできるか?」

『無理です』『無理』


 やはりな。

 チアルダンジョンは、可能にしている。


「そうか・・・。何か方法があるのだろうな。それとも、チアルダンジョンの固有スキルか?」


 ダンジョンコアによって個性がある。

 これはペネムとティリノを見ていても解る。


 そして、このチアルダンジョンも、最下層まで踏破してきて思うのは、ペネムともティリノとも違う個性だ。

 もしかしたら、コアではなくダンジョンマスターなのかもしれないが、なかなか楽しい趣向を考えてくれる。この連続で、階層主と戦うのも考え方によっては、驚異を感じる罠だろう。俺達は対処できるだけの戦力があるが、そうでない場合にはここで攻略が終わってしまう可能性だってある。

 罠の一つ一つが単純だけど効率的に戦力を削ぎ落とす事が可能になっていると思える。そんな楽しいいやらしい罠が多いのだ。


 さて検証も十分できたし、レベル1でスキルスロットが2-3個空いている魔核もかなりの数を稼げたから次の階層に行こう。新しい階層主に会えるかもしれない。

 最下層から上に登るというのも変な感じだけどそういう造りになっているのでしょうがない。


 最下層にある神殿の最上階にチアルダンジョンのコアとマスターが居るのだろう。


「さて、次にコボルトキングを倒したら、扉を出て上を目指そう」

「マスター。配置はどういたしましょうか?」

「そうだな。最後に確認の意味もあるから、周りを取り囲んでやってみよう」

「かしこまりました」


 オリヴィエの指示で見ながら魔法陣の出現場所を取り囲む。

 斜線に入らないように注意しながら配置を終えてから、扉を閉める。


 魔法陣が現れる。

 今回は一斉に攻撃を始める。ほぼ瞬殺に近い時間で倒す事ができるだろう。


 予想通り、5分ほどで殲滅が終了する。

 スキルを全開で使えば、苦戦する事なく倒せる事がわかっただけでも大いなる収穫だな。


 スキルカードと魔核を拾い集めて、上の階を目指そう。


 入ってきたのとは違う扉を抜けると、スロープになっていた。

 階段かと思ったのだが、緩やかな上り坂になっているスロープだ。神殿を半周ほど回るようになっている。


 入る場所は一定方向になっているのだろうか?

 なにか意味があるのか?それとも様式美なのだろうか?


 考えても答えは出ないだろう。

 扉の前に来た。ステファナとレイニーが扉を開ける。今回も全員で挑むタイプのようだ。1階と同じ罠なら全員で挑むようにしないと意味があまりないのかもしれない。


「レッチェ。レッシュ。エルマン。エステル。予定通りに頼む」

『はい』『かしこまりました』『はい』『了解です』


 扉を締める前に、レッチェとレッシュとエルマンとエステルに等間隔で一直線に並んでもらう。

 これで、扉を閉めた時に、魔法陣が現れなかったら、抑止されていると考えて良いだろう。


 戦う事になるのは間違いないのだが、扉が自動的に閉まる事も考えられるので、こちらの準備が整う時間くらいは確保できる。


「いくぞ!」


 レッチェとレッシュとエルマンとエステルが勢いよく部屋に入っていく、しっかりと一直線に並んで、床に降り立った。

 残りのメンバーもそれに続いた。


 全員が部屋に入ったが、魔法陣は現れない。

 扉を閉めないとダメなのだろう。


 扉を閉めないでしばらく待っていると、扉が自動的に閉まり始めた。

 近くに居るステファナとレイニーが持っていた、鉱石の塊で扉が閉まらないように細工を行う。


 下の階層でも試したのだが最終確認の意味も込めてやってみる事にした。


 扉が鉱石に触れて、少し停滞したら、下の階層と同じように、鉱石が吸収された。やはりダメなようだな。


 完全に扉が閉まる。

 魔法陣は現れない。実験は成功と考えていいだろう。


「レッチェ。レッシュ。エルマン。エステル。奥から、戻ってこい」


 魔法陣の位置を確認する為にも、奥から順次戻らせる。

 戦闘の準備はできているので問題はないが、場所が解れば戦いやすい。


 一番奥に居るレッチェが戻る前に、手前に居るレッシュの位置まで俺達は前線を上げる。レッチェが戻ってきた時に、魔法陣が現れなければ、エルマンの所まで下がる。


 エルマンが戻ってきても、魔法陣は現れなかった。

 かなり大きい魔法陣だと思える。


 部屋の広さはコボルトのフロアと同じくらいで、直径で大体で800mくらいある。

 コボルトのときには、その中心に直径200mくらいが魔法陣が現れる場所だったのだが、今回は、倍を越えている。


 半分以上の直径500mくらいの魔法陣が現れる。

 大型の魔物が出るのか?

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