第百八十二話


 少しだけうんざりした気分になってきている。

 最初の部屋は休憩にちょうど良かった。一日休んで、身体も心もリフレッシュして、新たな気持ちで探索を再開する事ができた。


 すぐに回廊に扉が設置されていた。休んでまだ半日も経過していなかったので、皆で話し合って、部屋で休む必要はないと判断した。それが悪かったのか、次から回廊の一部が罠のように発動して、セーフエリアを作るようになってきた。回廊の前後を壁で仕切られる。時間が来るまで壁が降りない仕組みになっている。


 それも、回廊を一周した程度の距離で強制セーフエリアが作られる状態だ。


「オリヴィエ?」

「マスター。これで、7回目です」


 6時間程度の距離を移動してから一日休憩。

 確かに、探索するにはいいのかもしれないが、疲れてもいないのに、強制的に休まされると疲れてしまう。


 それにやっと神殿がしっかり見えてきて、進み具合がわかってきた状況なので、気持ちだけが先走ってしまっている。

 そして、また休憩のトラップだ。


 うんざりしてもしょうがないだろう。


「7回目か・・・」

「はい」

「ステファナ。レイニー。何かわかったか?」

「旦那様。だめです。発動の瞬間もわかりませんでした」


「カズトさん。ティリノがなにか報告があるようです」

「本当か?」


『主上様。我とペネムでは何もできないことがわかりました』


 支配領域の上書きができないか確認してもらっていたがだめだったようだ。

 上書きができれば、俺たちのタイミングで解除できるのではと思ったのだ。


「そうか、ありがとう」

『いえ、何もできなくて、申し訳ありません』

「いいよ。”できない”ことがわかっただけでも一歩前進だからな。チアルダンジョンは、ペネムやティリノよりも支配領域が強いってことだろう?」

『はい』


 グダグダ考えても結局は一日休まされてしまうのが同じなら楽しむことにした。

 好きに過ごして良い時間とした。俺とシロはスキル道具の作成を行う。リーリアかステファナにも手伝ってもらうことにした。手が空いている方が、眷属の世話をすることになる。

 眷属たちは、戻ることも進むこともできないので、セーフエリアで模擬戦をして過ごしている。スキルの使用は禁止した。それでは簡単に決着がついてしまうからだ。


 持っていた鉱石を利用して、2つ目の浴場を作った。

 これは、リーリアとステファナとレイニーの意見を取り入れた、眷属用の浴場となった。俺は別に気にしなかったのだが、エーファが浴槽に毛が抜けるのを気にした。エリンは時々鱗が生え変わって居るので、それも気にしていた。

 浴場を作ったもう一つの理由が、エルマンとエステルからお湯の温度が高くて熱いということだった。レッチェやレッシュも同意している。エーファは大丈夫だけど、ティアとティタは少し熱いようだ。

 そこで、温度を下げた浴場を作ることにした。

 この際だから、眷属の意見を取り入れた、眷属用の浴場を作ることにしたのだ。


 眷属たちも嬉しい。世話をすることが多い、リーリアやステファナやレイニーの評判もいい。

 俺とシロの暇つぶしにもなったし、シロがスキル道具作成に興味を持ったのも嬉しい出来事だ。ルートガーに領主の座を譲ったあとで、引きこもってもシロと二人でスキル道具の開発を続けることができそうだ。


 今回の強制休養もカウントが60を切ってきた。


「片付けと準備は?」

「始めます」

「頼む!」


 なれたもので撤収作業は、30分あれば終わる。

 武装を整える時間を入れても、45分で十分だ。


 セーフエリアが解除されたらいきなり襲われることは過去6回で一度もなかったが、次が初めての状況にならないとも限らない。いきなり挟まれている状況を想定して、前後に戦力を分散して対応できるようにしている。


 カウントが0になって、前後に展開されていた壁が消えた。

 今回も魔物の襲撃は無いようだ。


「行くぞ!」


 それから、13回の強制休養を挟んで、俺たちは101階層の最下層にたどり着いた。

 変な表現だが、101階層は回廊と神殿で構成されているようだ。


 ペネムにもティリノに聞いて見当を頼んだが、同じような階層を100階層を超えた場所に作るのは無理だと言っている。チアルダンジョンはそれだけ古く強いダンジョンなのだろう。


 強い魔物を配置することよりも、ダンジョンの構造や強制休養の罠で侵入者を撃退するのを目的に作られているのかもしれない。魔物も、ベヒモスが階層主として出てきたのを最後に超大型の魔物は出てきていない。


 神殿の入り口を探すのに半日かかってしまった。

 降りたところに入り口を作っておくのがマナーだと思ったのだが・・・。なかった、次点で真裏かと思って、真裏に回ってみたが違った。そのまま回ってみて、降りてきた回廊の脇に扉があり、いつもの休憩場所かと思って無視していたら、そこが神殿につながる扉になっているようだ。


 リーリアとオリヴィエの視線が痛い。

 シロが不思議そうな顔をしている。そうだろうなシロが洞窟に来る前の話だ。


「マスター?」「ご主人様?」


 やはり、俺は関係ないと釈明しないとダメだろうな。

 リーリアとオリヴィエが驚いているのと同様に俺も驚いているし、動揺している。


 この部屋が最後のセーフエリアなのだろう。

 俺ならそうする。回廊は別にして、この部屋の作りや扉の罠。神殿への入り口のトラップ。全部も見覚えがある。リーリアとオリヴィエも同じなのだろう。

 それもそのはずだ。俺がログハウスの改修を行うときに指示した方法にそっくりなのだ。


 現状ログハウスは、岩山を登ってくるしか方法がない。

 見える入り口はそこだけだ。実際には、居住区からでも行くことができるようにして、本命の入り口は別の離れたところにして、そこからしかログハウスにたどり着けなくしようとした。わかりやすいところから入ったり、違った手順で入ろうとしても、罠にはまったり、ダンジョンに強制転移させられるようにしている。


 全体コンセプトとして似ているが、この神殿には表面だった罠は設置されていない。

 中に入れば違うだろうが、コンセプトとしては食料を・・・。兵站を圧迫して、自滅を待つようになっている。その上で、罠を多用して侵入者の精神を追いつけることになっている。


 兵站は、ライのおかげで俺たちは気にしなくて良い。

 罠は、ペネムとティリノが対応してしまう。眷属が優秀なので、消耗もほとんど考えなくていい状況だ。出てくる魔物で人型が多かったのも精神的な苦痛を与えるのを狙ったのかもしれない。合わせて食料の補給をさせないことがコンセプトなのかもしれない。途中に最後の補給ができる階層でも、鑑定やエルフ種が居ないと採取も難しい。


 最後のセーフエリアなのかもしれないが101階層の最初と同じで3日分のカウントが始まっている。


 この部屋が今までと違って、最終ではないかと判断したのは、部屋の大きさということもあるが、入り口以外の扉が三箇所箇所あり、その二箇所は別々の部屋につながっている。1箇所は神殿につながっているのだろう。

 二箇所の別々の部屋は一度閉めて、改めて部屋にはいると魔物が出現するのだ。今の所、ベヒモスを以外の階層主が現れる。戦闘の確認と時間つぶしの両立ができる素晴らしい場所だ。


 戦闘訓練を繰り返して(残念ながら、スキルカードや魔核は落とさなかった)風呂に入ってテントで寝ることにしている。

 ヘビロテになっているのだが、魔物が毎回違うので新しい刺激になって丁度よい。


 カイとウミとエリンとアズリが眷属を連れて何度も部屋で戦闘訓練を繰り返している。

 それはそれは嬉しそうに、そして楽しそうに行っている。


 カウントが、600を切ったところで戦闘訓練は終わりにして、風呂にゆっくり入って、武装の点検を行って、仮眠を取って30分のカウントが始まる前に集まることにした。


「カズトさん?」

「どうした?」

「やっと最後なのかな?と思って」

「どうだろうな?神殿の高さを見ると、14-5階はありそうだからな」

「そうですね」


 扉の上のカウントを見ると、25になっている。

 神殿の中では戦うことになるのだろう。ダンジョンマスターなのか、ダンジョンコアなのかわからないけど、楽しい仕掛けをたくさん作ってくれている。最後は、俺のアイディアを参考にしてくれたのかもしれない。


 皆が揃っている。

 シロは少し緊張した面持ちでカウントを見ている。聖騎士だったときの服装ではなく、軽装を好んで使うようになっている。聖騎士の武装では対人に特化しすぎていて、魔物に対応できないことが多い。特に速度重視の魔物の場合には何もできないことが考えられる。低階層なら技量でなんとかなるかもしれないが、中間層からは無理だろう。

 剣は、前から使っていた物を俺が作り直した、あと俺が持っているという事から刀も持っている。盾を使った軽タンクの役目を受け持つこともある。遠隔攻撃用に、単弓と長弓も持っている。チアルダンジョンに潜ってから開発したクロスボウも持たせている。スキル道具として作成した銃も装備しているのだが、銃に関しては危険すぎるので、公表するかは帰ってからルートガーに相談することにする。シロや俺のパーティーが使うのは問題ないだろう。


 カイは本来の姿に戻っている。俺の横に寄り添うように立っている姿は、幼かったフォレストキャットの面影が残るだけで、十分に魔物の王の風格を持っている。

 ウミも本来の姿になって、シロに頭を撫でられながら寄り添っている。

 ライはお気に入りのバッグに入っている。バッグはシロが肩からかけている戦闘になったら、ウミに預ける事になる。

 エリンはお気に入りのワンピースを着ている。エリンは防具はそれほど必要としない。竜族が持っている固有の防具?である竜鱗で体を守っているからだ。生半可の攻撃は通らない。そのために防具は身を守るよりは体を隠す意味のほうが大きい。武器も一番は自分の爪だが人型のときには爪がないので、拳や足で攻撃する。剣も使えるのだが、触りたくない相手のときにしか使わない。エリンの力に耐えられるように、とにかく頑丈な剣を用意して渡してある。エリンはカイの上に乗っている。可愛いので許すのだが、戦いに行くという雰囲気は皆無なのだ。

 オリヴィエはいつもの執事姿になっているが、腰に刀を下げている。スキルを付与した腕輪もしている。

 リーリアもメイド服に着替えている。自分の戦闘服はメイド服だと言っていた。弓を背負いながら短剣を2本腰から下げている。スカートの中には暗器が隠されているのを知っている。


 アズリは、本来の姿にはならないで戦うようだ。話を聞くと、リッチだと武器や防具を装備できないし、かわいい服が着られないからとすごく利己的な返事が返ってきた。今日の服装は、エリンとお揃いにしている。アズリも防具に関しては最低限にしている。リッチの特性なのか、物理攻撃がほとんど効かない。その上、スキルに関しては耐性がついたヌラの糸で作った下着をつけている。スキル道具での結界や障壁を発動して、固有スキルで結界を張っている。攻撃に関しては、近接では短剣と鉤爪と暗器を使うことが多い。ダミーで単弓を背負っていることも多い。そして、シロに撫でられて気持ちよくなっているウミの上に乗っている。シロの護衛としては頼もしい限りだ。

 ステファナは、リーリアと同じでメイド服を着用している。リーリアの教育の賜物なのか、メイド服は戦闘服とでも思っているのだろう。武器は単弓と長弓を使い分ける。シロに渡したクロスボウと銃も渡してある。シロには、短銃だがステファナには長銃を渡している。シロは前線に出て、二丁の短銃を使って近接戦闘を好む。ステファナは遠距離からの狙撃を好む。戦闘スタイルで分けた銃の選択だが、作ってよかったのか未だに考えている。

 レイニーもメイド服だが、特別に作ったズボンタイプのメイド服だ。執事服にも見える。最初レイニーもスカートタイプのメイド服を着て前線に突入していたのだが、それだといろいろ見えてしまう。本人は気にしていなかったのだが、俺が気になる。それで、ズボンタイプのメイド服・・・ほぼ、執事服を作成してレイニーに渡した。銃の代わりだ。レイニーには、銃や弓は渡していない。苦無を渡してある。あとは脇差だ。ほぼ”くノ一”だ。本人も気に入っているのようだ。

 エーファの武装は、武器はレイニーと同じようになっている。防具は、ステファナと同じでメイド服を着ている。獣型になることもあるがそのときには、収納に格納すると言っていた。一度見せてもらったのだが、獣型から人型になるときに、全裸になってしまうので、ギミックを一つつけたスキル道具を渡した。煙と閃光が全身を覆うようになって、着替えているのが見えないようにした。着替えは1秒もあれば終わるようなので、一種の煙と閃光で十分なようだ。ちょっと戦隊モノのようでかっこいいと思ったのは内緒だ。


 レッチェとレッシュとティアとティタとエルマンとエステルは、まだ人型にはなれない。

 話を聞くと、ティアとティタは子供サイズになってから、エーファと同じように大人のサイズになれるようになるということだ。レッチェとレッシュは人型にはなれないらしい。そのかわり、カイやウミやライのように大型になることができるようになって、その後は小型化ができるように、進化するということだ。その先の進化はわからないと言っていた。

 エルマンとエステルは、人型にはなれるようだが、妖精サイズにしかなれないということだ。変体ではなく、コピーが作成されるということだ。俺たちが行っている操作のような感じだと説明された。その先にも進化はあるらしいが、不明だと言っている。


 皆の武装と状況を確認した。

 カウントは、2分をきった。120秒からカウントを減らしている。


 10・9・8・7・6・5・4・3・2・1・・・・。


 扉が空いた。

 神殿の1階層につながる通路が伸びている。

 通路を通って、1階層に出る。


 扉がある。

 扉を開くと、中が見えない。皆を見るとうなずいている。もうわかっている。今回は全員で挑む階層主だ。


 全員が部屋に入って、ステファナとレイニーが扉を閉める。

 部屋の中心に魔法陣が現れる。


 コボルト?

 違う。コボルトキングだ!


 最上位種をまとめる者が出てきた!

 お供に、数百のコボルトの上位種が付き従っている。全部コボルト種のようだ。


 舐められたものだな。


 魔法陣の周りを点滅した光が動いている。あれが一周したら戦闘開始なのだろう。

 皆を見るが何もいわないでも大丈夫なようだ。


 オリヴィエとレイニーとエーファが前に出る。

 シロが俺の横に来る。

 レイニーとステファナが後ろに下がる。


 カイとウミがエリンとアズリを載せたまま俺とシロの横に控える。


 眷属たちが遊撃できる位置に移動する。


 さて、殲滅しよう!

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