第十六章 眷属

第百六十一話


 え?無反応?


 リッチ的な何かかと思ったのだけど違うのか?


 カイとウミとライが、倒した魔物の処理を始めている。


 ローブをまとっている者を、カイやウミやライだけではなくオリヴィエもリーリアも脅威とは見ていない様子だ。


 どうしようかな?

 シロを見る。シロは、ローブを凝視している。


「シロ?シロ?」

「カズトさん。あのローブ。アトフィア教の司祭が身につける物に似ています」

「似ているのだな?」

「はい。僕が知っている物と大きくは違わないのですが、細部が違っています」

「そうか、年代が古いとか、そういう事なのかもしれないな」

「そう思います」


 シロを見るが、アトフィア教に関しては、単なる知識になっているようだ。


『我が主。あの者は、ティリノでは無いようです』

『どういう事だ?』

『我が主。鑑定で確認してみてください』


 そうだった。

 スキル鑑定を使えばよかった。


// 名前:アズリ・フェデリーゴ

// 種族:エルダー・リッチ

// 年齢:256歳

// 固有スキル:魔物核生成(レベル3)

// 固有スキル:眷属召喚(レベル1)

// 固有スキル:憑依(レベル1)

// スキル枠:鑑定

// スキル枠:---

// スキル枠:---

// スキル枠:---

// スキル枠:---

// スキル枠:---

// スキル枠:---

// 体力:D

// 魔力:D

// 眷属:ティリノ


// 固有スキル:魔物核生成

// 特定の魔物を魔力が続く限り生み出す珠を生成する

// 込められる魔力に依存して生成される魔物が確定する


 さてどうしたものか?

 ダンジョンマスターという感じだけど、肝心のティリノが見当たらないし、エルダー・リッチが何も行動に出てこないのも気になってしまう。


「あのローブの魔物は、アズリというようだ。エルダー・リッチだと出ているな」

「エルダー・リッチ?」

「どうした?ステファナ?」


 少しだけ興奮したステファナが説明してくれた所では、エルダー・リッチは死霊系の魔物の王となる魔物だと言っている。エントやドリュアスの、スーンのような存在だと話している。

 そう言われると少しだけ納得してしまう。


 でも、それではゴブリンとオークとオーガしか魔物が出てこないのは不思議だ。

 意思疎通ができない事には何も始まらないな。倒すにしろ、浄化するにしろ、何か対応を考える必要がある。


『アズリ』


 念話で話しかけてみる。


『・・・』


 反応があった


『アズリ。貴殿は、アトフィア教の関係者なのか?』


 アトフィア教の所で反応があった。


『ここいるシロは元アトフィア教の聖騎士だ。浄化を望むのなら手伝おう』


『ア・・・トフィ・・・ア・・・教。聖騎・・・士さ・・・ま?浄・・・化?』


『そうだ。俺は違うが、シロが、俺の妻が、元聖騎士だ』


『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!』


 どうした急にテンションが上がったようだ。


「我が名は、アズリ・フェデリーゴ」


 シロがビクッと身体を震わせる。

 驚いたという雰囲気が出ている。


「シロ。フェデリーゴという姓に覚えはあるのか?」

「はい。アトフィア教の聖騎士になる時に、”フェデリーゴ”は”魔の力”を持って、教会から追放されたと教えられました。そして、フェデリーゴの様になるなとも言われます」


 どうやら、このエルダー・リッチは、シロが説明された”フェデリーゴ”で間違いないようだ。

 シロが一歩前に出る。アズリがふらぁと動いたからだ。


 なんだ動けるのか?

 ステファナとレイニーはことの成り行きを観察するような目で見ている。


「シロ様。聖騎士様!!!!」


 どうした?

 本当に、何がどうなっているのかわからない。


「わかった、興奮するな。説明しろ」

「お前は?」


「貴様!僕の旦那様に向かって!僕は聖騎士だ!」


 シロが、アズリに殺気を込めた言葉を投げかける。

 殺気に当てられたのだろう、少しだけたじろいだが、シロの前まで進み出た。


 移動もできるようだ。

 玉座でいいのかな?アズリが座っていた場所には、一つの珠が残されていた。


 ローブの影になって気が付かなかった。存在を完全に消している。


// 名前:ティリノ

// 種族:ダンジョン・コア

// 固有スキル:ダンジョン創造

// 称号:アズリの眷属

// 体力:H

// 魔力:B+

// 状態:混濁


 間違いないようだ。

 ただ、状態異常になってしまっているようだ。アズリの眷属という所から、問題はティリノではなく、アズリ側に有ったのかもしれない。


『ティリノ!ティリノ!』


 呼びかけてみるが反応がない。


 どうしよう。

 やってみるか?


 一つの可能性を試してみる事にした。

 それで壊れてしまったのなら、それはそれで考えればいい。


 皆には結界を発動してもらう。


 スキル眷属を発動して、アズリからティリノを切り離す。上手く行けば、ティリノから事情が聞けるかもしれない。その上で、眷属化する事ができれば、魔の森に出現する魔物の対応を含めて対処できる可能性だってある。


『ペネム。ティリノを見ていてくれ』

『承りました』


 スキル眷属を発動。

 アズリからティリノを引き剥がす。


 まずは、眷属状態を解除する。


 問題なく実行された。

 ティリノに向かって眷属化を行う。


 失敗した。

 意識が混濁している状態だからなのか?


 それなら、魔の森の異変やダンジョンを終息させるために壊してしまったら?


『ペネム。ティリノ状態は?』

『眷属状態が外れましたが、それ以外は代わりありません』


「カズトさん!」


 今度は、シロの方か?

 アズリになにか有ったのか?


 シロを見ると、シロの前で、アズリが五体投地の状態になっている。

 司祭と聖騎士だと、聖騎士の方が身分は上だったよな。それか、鑑定でシロの種族を見てしまったのか?

 ヒュームに関して今と違った信仰だったのかもしれない。


「シロ。アズリの話を聞いてみろ」

「え?あっわかりました」


 これで、シロの方はひとまず放置して問題ないだろう。

 五体投地状態になっている者から攻撃を受ける事は考えられない。そもそも、シロをどうにかできるわけがない。


『我が主、スキル隷属はお持ちですか?』

『レベル5隷属化でいいのか?』

『はい。ティリノに発動してください』

『わかった』


 失敗しても、レベル5程度なら問題はない。


 スキルを発動した。

 今度は、上手くできたようだ。鑑定で確認すると、ティリノが隷属化された事が認識できた。


『我が主。ティリノが隷属できましたので、スキル治療を使ってください』

『おっおぉ』


 ペネムが積極的だ。弟分ができると思っているのか?

 スキル治療もまだ持っている。取り出して使う。


// 名前:ティリノ

// 種族:ダンジョン・コア

// 称号:カズトの奴隷

// 固有スキル:ダンジョン創造

// 体力:H

// 魔力:B+


 状態異常が消えた。

 これで問題はないのかな?奴隷を解除する。


// 名前:ティリノ

// 種族:ダンジョン・コア

// 固有スキル:ダンジョン創造

// 体力:H

// 魔力:A-


 よし!

 シロを見ると、アズリと何か話しているようだ。


 もう一度、ティリノを見る。

 黒かった珠が、白濁色の珠に変わっている。浄化でもされたかのようだ


『わっはははは!愚かなる者よ。我に従え!』


 破壊されるのを望むのかな?

 それとも、ダンジョン・コアってみんな馬鹿なの?


 ペネムから恥ずかしいと言った感情が伝わってくる。

 自分の黒歴史でも刺激されたのだろうか?


 とりあえず、刀を取り出して、魔力を込めてから、ティリノに刀を触れるか触れないかの距離で止める。


「さて、ダンジョン・コアのティリノ。俺に従うか、破壊されるか?すきな方を選べ」

『マイロード!貴方様に従います』


 早いな。


『おい。ペネム。ダンジョン・コアはこんなに脆弱なのか?』

『我が主。申し訳なく、でも、我とティリノでは、我のほうが』『デタラメを申すな。お主は、チアル様の近くから離れられなくて、あのような場所でダンジョンを作った軟弱者ではないか!』


『2人とも醜い争いはするな。壊すぞ!』

『かしこまりました。我が主』『かしこまりました。マイロード』


『ティリノ。俺の眷属になるのだな』

『はい!お許しいただけるのなら、眷属の列に加わる許可をいただきたい』


『いい心がけじゃなティリノ。我の『ペネム。少し黙ろうか?』はい。我が主』


 スキル眷属を発動する。

 今度は、成功した。


// 名前:ティリノ

// 種族:ダンジョン・コア

// 称号:カズトの眷属

// 固有スキル:ダンジョン創造

// スキル:念話

// スキル:変体

// 体力:H

// 魔力:B+


 ペネムに合わせるように、スキルも付与する。これで、ティリノから話しかける事ができるだろう。


「カズトさん」


 シロが困った声をあげている。


「どうした?」

「アズリさんが」「シロ様。私の事に、”さん”など必要ありません。アズリと呼び捨てにしてください」


「え?アズリ?が、僕の眷属になりたいみたいだけどどうしたらいい?僕、カイ兄様やウミ姉さまのような、もふもふがいい・・・。こんな、骨と皮とローブだけなんてヤダ!」


 アズリから、”ゲフッ”とダメージが通る音が聞こえてきそうな。ピンポイントなディスり方だ。

 確かに、俺も眷属にするのなら、カイやウミの方がいいな。アズリが知性があっても、アンデッドだからな。エルダー・リッチは眷属にしたほうがいいのだけど、ライを見ると、跳ねてどっかに言ってしまった。

 ライも嫌なようだ。それに、スーンがいるから必要性も感じないのだろうな。エリンも興味なしという雰囲気だし、オリヴィエとリーリアも、終わったかのような雰囲気を出している。ステファナとレイニーも、魔物のドロップ品の整理をしている。


「カズトさん・・・」


 シロが情けない声を出している。


「アズリ。俺ではダメなのか?」

「ツクモ様にはすでに優秀な眷属がいらっしゃいます」

「まぁそうだな」


「カズトさん!!」

「シロ。アズリがこう言っているのだし眷属化を行ってみるのもいいかもしれないぞ?」

「え?」「!!」


 それにしても、アズリは表現豊かだな。

 だんだんと意識が戻ってきたのか?


「アズリ。シロが眷属化する前に、なんでお前がダンジョンマスターのような事をしていたのだ?」

「話せば長くなります」

「短めで頼む」

「・・・はい。私は、アトフィア教の司祭でしたが、司祭として地方の布教活動をしていたのですが・・・」


 今と変わらない活動方針で、人族に布教活動をしていたのだが、地方に出かければ魔物も出る頻度が多くなっている。聖騎士と一緒に魔物を倒していたら、固有スキルが産まれてしまった。

 それが”魔物核生成”だった。これが教会のトップにバレて、異端児や魔物の手先と言われて、アトフィア教から追放された。

 行き着いたのが、魔の森だったと言う話だ。それから、ダンジョンコアにどうやって会ったかは覚えて居ないそうだ。それでも何らかの交渉があって、眷属化したのだと言っている。

 その後、ダンジョンマスターになるときに、エルダー・リッチになってしまったということらしい。


 大事な部分がかなり抜けているのだが、本人が覚えていないという事なので、深掘りしないようにしておこう。


 シロじゃ無いけど、エルダー・リッチが近くにいたら嫌だよな。


「なぁアズリ。お前、生前の姿にはなれないのか?」

「え?できますが?この方が、ダンジョンマスターっぽいと言われたのですが?」

「誰に?いや、答えなくてもいい。ティリノだな」

「はい。私が、生前の姿でいると、舐められると言われて、それにこの姿なら食事が必要ないので・・・」


 ティリノへの説教は後回しで、アズリが無事シロの眷属になる事ができるようにサポートしよう。


「わかった。ティリノには後でしっかり、きっちり説明しておく」

「はい。そういう事でしたら」


 エルダー・リッチの姿では、身長?は、190くらい有ったのだが、元の姿に戻ると、身長140センチくらいの小さい男の子にみえる。女の子になった。


「え?アズリって女の子だったのか?」

「酷いですぅ」


 酷いと言われても、あの見た目で性別を判断しろというのが無理な話だ。


「シロ。これならどうだ?アズリ。後で種族を偽装するけど問題ないよな?」


 シロがアズリを見ている。

 ガン見している。


 シロは見た目も可愛いのだが、可愛い物が大好きなのだ。エリンの事をかわいがったのも、”可愛い”がすきに由来している。


「可愛い!!!!!!」


 シロが生前の姿に戻ったティリノに抱きつきそうになったのを、ステファナとレイニーが止めた。

 2人ともタイミングといい”グッド”だ。


 これなら問題ないだろう。


 シロは、眷属化の方法を俺に聞きながら実行した。

 アズリもそれを受け入れた。シロに初めての眷属ができた事になる。


 そして、魔の森が全部ダンジョン化しているのに、転移門がなかった理由もわかった。ティリノの魔力では転移門の設置ができないようだ。


 魔の森の異変は、アズリの意識が混濁して暴走したのが原因だったようだ。

 孤独に耐えられなくなったのだと言っている。真相はわからないままだが問題は解決したと思って間違いないだろう。


 魔物生成核イミテーション・モンスター・コアはアズリが全部アデルが回収した。これで、魔物が新しく湧き出る事はない。自然発生も有るのだが、魔物生成核イミテーション・モンスター・コアがなければ生態系が崩れるような事は少ないだろう。


 地上に一気に戻れると思っていたので、残念で仕方がない。

 最下層で一泊してから、一気に駆け上がる事にした。


 久しぶりの地上のような気がする。

 アズリは、ステファナとレイニーに預けられる事になる。まずは、メイドの仕事を覚えるのだと息巻いていた。


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