第百六十話
そりゃぁすんなり踏破とは行かないよな。
60階層のオーガの上位種と進化体を相手に戦った。
戦い事態はそれほど困難ではなかったのだが、数が多かった。
正確には、数が多くなってしまった。オーガの進化体が手ごわかった。ウミとエリンが対応したのだが、元々力が強いオーガが固有スキルを持つのだ厄介になるのは当然だろう。
ウミとエリンで進化体を相手にしている間に、俺たちは上位種を倒していたのだが、
200を超えた辺りで数えるのが馬鹿らしく思えてしまった。最終的には、300以上になったのは間違いなさそうだ。
死闘ではなかったが、数の暴力という言葉を思い出すには十分な圧力を感じた。
死体の吸収を終えて、最終階層に降りる事にした、61階層に降りていきなり戦闘になる事も予測していたが、大丈夫だった事もあり、当初の予定通り、61階層に降りてすぐの場所で休む事にした。
『ペネム、どうだ?』
『我が主よ。広く確保するのは無理な様だ』
『全く出来ないわけじゃないのだな』
『うむ。この部屋くらいが精一杯じゃな』
『十分だ。それで頼む』
休む場所として、ペネムに支配領域の作成を頼んだら、今までのように広げる事が出来ないと言われた。
それで、どの程度ならできるのかを聞いた結果、この部屋くらいまでが限界という事だ。休むだけだし、馬車が出せれば問題ない。書類を信じれば、降りた場所は一種のセーフエリアになっている。結界だけでも大丈夫だとは思うが万が一のために、ペネムに支配領域を作ってもらうことにしたのだ。
『我が主よ。支配領域の作成ができました。草原にしなくてよいのか?』
『あぁ今回はこの広さだしな。少しだけ明るくするだけで十分だ』
『わかりました』
ペネムは俺の指示に従って、ダンジョンの明るさだけを調整した。
「マスター。お食事はどうしましょうか?まだ時間が早いように思えます」
「そうだな。もう少ししたら軽い食事にしよう。あとは、各々身体を休めるように」
「かしこまりました」
オリヴィエが何か言いたい様子だ
「どうした?何かあるのか?」
「いえ、湯浴みはどうされますか?」
「そうだな。面倒でなければ頼む」
「かしこまりました。リーリアと作成します」
「それほど広くなくてもいいからな」
「はい」
オリヴィエが、リーリアの所に走り寄ってなにやら話している。
リーリアは、食事の支度を始めようとしていたのを一旦やめて、湯浴み・・・浴槽を作る事にしたようだ。食事は、ステファナとレイニーが作る事になったようだ。
指示されている所を見ると、ホットドッグもどきの様だ。軽いし丁度いいだろう。ガッツリ食べたくなったら、数を食べればいいだけだけだし、調整がしやすいのだろう。ステファナがホットドッグの仕上げをしている横で、レイニーがスープを作り始めている。
ダンジョンの中で気温の変化はさほど無いのだが、疲れた身体には温かいスープはありがたい。
疲れたわけでは無いのだろうが、やる事が無いので、カイとウミとライとエリンは1ヶ所にまとまって寝てしまっている。
食事になれば起き出すだろうし、今はそっとしておく事にしよう。
「カズトさん」
「手入れは終わったのか?」
「はい。カズトさんから貰った剣は殆ど手入れが必要ないのですが、確認だけはしておきました」
「ありがとうな」
「いえ、つ、妻として当然の事です!」
”フンス”とでも表現した方がいいのか?
かなり気合を入れて手入れをしてくれたようだ。
言葉では大した事はしていない様に話しているが、皆が野営の準備を始めたときに、やることがないと言ってきた時とは比べ物にならないくらいに気合が入っている。
「そうか、俺は、いい奥さんを得たのだな」
「え・・・。あっうん。カズトさん」
照れるのなら言わなければいいのに、照れている顔が可愛いから許すけど・・・。
「シロ。風呂が出来たようだから、一緒に入るか?」
「はい!」
そっちは照れないのだよな。
シロが照れる基準がわからない。
「マスター。準備が出来ました」
「ありがとう」
「奥様が先でお願いします」
「わかった。シロ。先に入ってくれ」
「はい」
同じく、食事の準備を終えた、ステファナとレイニーがシロを脱がして、風呂に入れるようだ。
身体を洗うのを手伝うのだろう。シロが自分でできると言っても、2人は自分たちの特権だと言わんばかりに、それだけは譲らない。
シロが先に入るのは、ステファナとレイニーも全裸になって入るための配慮なのだろう。
2人とも、俺に裸を見られるのは抵抗無いようだが、シロが少しだけ嫌がったので、先に入るようにさせたようだ。
「オリヴィエ。悪いな」
「いえ、ステファナとレイニーから相談されましたので、マスターにはご不快かと思いますがご容赦ください」
「いや別にかまわない。それに、シロが順番を決めたような感じだからな、俺としてはそれに従うだけだ」
「はい」
「そうだ、オリヴィエ。明日は、最終戦になるだろうから、スキルカードの調整を行うぞ」
「かしこまりました。マスター。リーリアと一緒にやっておきますか?」
「そうか、任せていいか?」
「もちろんでございます」
「わかった。それじゃ、俺が預かったスキルカードだけ渡しておく、ウミとリーリアと話しをして分配を決めてくれ」
「はい」
オリヴィエとリーリアならしっかりやってくれるだろう。
最終確認は必要にはなるだろうが、全面的に任せるのもいいだろう。今回の探索で一番の収穫はもしかしたら、オリヴィエの成長なのかもしれない。先回りして準備しておくのはまだ出来ていないが、俺の意図した事を汲み取って動いてくれている。スーンが全体を見てくれている状態で、オリヴィエが俺の周りの事を片付けてくれれば、だいぶ楽になるのは間違いない。
「マスター」
「あぁもう大丈夫なのか?」
「そのようです。出られましたら、すぐお休みになりますか?」
「そのつもりだ」
「かしこまりました」
一礼してから、ライの所に移動した。
休むと言っただけで、馬車を用意して寝具の準備をしてくれるのだろう。
風呂から出たらすぐにでも休めるようにしてくれるようだ。
浴室に向かうと、満足した顔のステファナとすれ違った。レイニーは少し疲れているのが印象的だ。
「そうだ。レイニー」
「はっはい」
そんなに身構えなくてもいいのにな
「ダンジョンから出て、ログハウスに戻ったら、カイとウミを風呂に入れてくれ、遠征で汚れているだろうからな」
「はい!でも、よろしいのですか?」
「ん?なんで?」
「私が、その、カイ様とウミ様に、あの・・・」
「俺から、カイとウミには言っておくから大丈夫だ。それに、ブラッシングとかはさせてくれるのだろう?」
「はい!」
「それなら、その延長で風呂に入れてしっかり洗わせてくれるだろう」
「はい!承ります」
ステファナが少しだけ羨ましそうな顔をする。
「ステファナ。ログハウスに戻ったら、スーンを交えて、新しいスキルの実験の相談をするから、お前も参加するか?」
「よろしいのですか?」
「興味が有るのだろう?」
「はい。でも・・・」
ステファナは、最初こそ戸惑っていたが、スキルカードを上手く使いこなす事ができるようだ。
湯水のようにとはいいすぎかもしれないがスキルカードの利用に制限を設けていないので、戦闘時にいろいろ工夫しながらスキルカードを使っているのは解っていた。
俺とスーンが進めている実験に関しても、興味を持っているようだ。
実験区は少し特殊なので、あそこに入れるのかは別問題だが、スキルカードの使い方の実験をしている場所はスキル道具の工房なんかは入っても問題ないだろう。
シロが待っているだろう。風呂に急ぐ。ステファナとレイニーと少しだけだけど話し込んでしまった。
「シロ、入るぞ?」
「はい!」
なんでこの娘は風呂になると大胆になるのかわからない。
今も、全裸でこちらを向いている。全部見えている。体毛も綺麗にしたようだ。
「カズトさん。今日は、僕が洗います。いいですよね?」
「そうだな。任せる」
「はい!」
嬉しそうにしているので、全部任せる事にした。
一通り身体を洗ってもらってから、湯船に身体を預ける。シロも、再度湯で身体を洗い流してから湯船に入ってくる。
「なぁシロ」
「なんでしょう?」
「ごめんな」
「??」
そんなに首を傾げなくてもいいのに、計算なのか?
可愛く見せるための計算なのか?
違うのは解っている。シロは本当に自分の容姿が可愛いと思っていない。
エリンやクリスの事を可愛いと感じているようだ。
「正式な結婚を先延ばしにしてしまっているからな」
「あっ・・・。大丈夫です。こうして、一緒に入られます」
「そうだな。それでもな」
「大丈夫です。僕は、いつでも、カズトさんのお考えに従います」
「そうか、タイミング的には落ち着いてからとは思っている。チアルダンジョンを攻略してからになるとはおもうがいいよな」
「はい!もちろん、僕もチアルダンジョンには一緒に行きます。足手まといになるかもしれないのだけど」
シロが申し訳なさそうに言葉少なげに不安な真情を吐露する。
「大丈夫だ。シロ。十分
「え?そんな事ないと思いますが?」
「本当にそう思うか?」
「御免なさい。嘘です。でも、カズトさんやエリンちゃんを見ていると、僕はまだまだだと思えてしまって」
「そりゃぁ下地が違うからな。でも、シロも十分戦えているよな?」
「はい!それは実感しています」
「うん。それで十分じゃないのか?」
「はい。カズトさん。あの・・・僕、奥さんとしてはどうですか?何も出来ていないと思うのです」
これも、何度も聞かされている。
その都度否定しているのだが、自分の中で折り合いがついていないようだ。
簡単にいうと、身体を重ねていないのが原因なのだ。心の片隅に、何かが引っかかっているようだ。それは、いままで”教皇の孫娘”として政略の道具としか見られていなかった事が原因なのだ。
抱く事はできる、シロはそれで一時的には安心もできるだろう。
そうしたら、今度は子供が出来ない事を悩む事になるかもしれない。正直、今子供ができると戦力的に困ってしまう。シロは遠征には必須な人材なのだ。
シロの頭を軽く叩いてから
「俺は、シロに助けられている。確かに、少し考えすぎのところはあるが、俺はシロに依存しているぞ?」
「・・・」
「それに、シロの事が大好きだ」
「・・・。はい。僕も、カズトさんの事が、好きです」
「今はこれで我慢してくれな」
シロを抱き寄せてキスをする。
全裸の胸が身体に当たる。感触を感じてしまう。反応するのが抑えられない。シロも解っているのだろう。少しだけ嬉しそうにして、舌を絡めてくる。どのくらいキスを交わしていのかわからないくらいキスをしてから、身体を離した。
「カズトさん。大好きです!」
そういって、シロは俺の上にまたがるようにして身体を預けてくる。
しっかり抱きしめてそのままシロの感触を楽しむ事にした。
お互いに少し落ち着いたので、身体を離して、湯船を出てお互いの身体を拭いてから、寝巻きを着て馬車に入った。
時間的には早いのは解っているが、身体を横にすることにした。他愛もない話をしていると、シロから可愛い寝息が聞こえ始めた。俺も、シロの寝息を子守唄代わりにして目を閉じた。
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どのくらい寝たのかわからないが、気分よく目覚める事ができた。
シロはまだ寝ていたようだが、俺が起き上がった事でシロも起きた。
俺が起きた事が解ったのかオリヴィエが話しかけてくる。
「マスター。皆の準備はできております」
早いな
違うな。俺とシロが遅くなってしまったのだな。
「わかった。ステファナとレイニーにシロの支度を手伝わせろ」
「はっ」
ステファナとレイニーが馬車の中に入ってきて、シロを連れてもう一つの馬車に向かう。
「オリヴィエ。リーリア。撤収を頼む。それから、昨日の残りでいい。軽く食べてから、ティリノに会いに行くぞ!」
「はい!」
それからは早かった。
シロの武装もそれほど時間がかからない。普段からなれているので、ドレスを着るよりも早く着替えて準備を整える。気持ちの準備も問題ないようだ。馬車の撤収もライに収納を頼むだけだ。中の片付けは一応行うのだが、あまり意味が無いのは経験則で解っている。
『ペネム。支配領域の解除はできるか?』
『問題ないです』
『頼む!』
支配領域が消えて、ダンジョンの雰囲気がガラッと変わる。
正確には、元に戻った。
皆で少し移動すると扉があるのがわかる。
61階層に降りてきた部屋からは一本道になっている。武装とスキルカードの確認を行う。突入順番は、俺とシロが先に入る。オリヴィエとリーリアが続く、その後ろにステファナとレイニーがつづく、前回の60階層のときに試したのだが、カイとウミとライとエリンは俺の眷属なので、呼子で呼び寄せる事が解っている。人数制限を超える事ができる。
扉を開けて中に入る。
全員入っても扉が閉まらない。カイとウミもライもエリンも問題なく入る事ができた。
”勇敢なる挑戦者よ。最期の試練を乗り越えてみせよ!”
声がどこからともなく聞こえてきた。話し終えると、扉が閉まった。
三方向に
合計で、9つの
あれが最終ボスなのだろう。まずは前哨戦を行う。
ゴブリンをステファナとリーリアとカイとウミで相手をさせる。
オークをオリヴィエとリーリアとライで相手をさせる。
中央のオーガを、俺とシロとエリンで相手をする。
正直、俺の所が一番しんどいとは思うけど、負けそうになったらエリンに竜体になってもらう事も考える。
「よし!いくぞ!」
戦闘が始まる。
他の所にも気を配らなければならないのは解るが、そんな余裕はない。
「シロ、オーガの標準種は任せる。スキルを存分に使って倒せ」
「はい。早く片付けて、カズトさんの所に行きます」
「頼む!」
シロには標準種の相手を頼む。多分、ギリギリだとは思うが、スキルカードを上手く使ってしのいでもらう。
「エリン。上位種を頼む」
「わかった!」
エリンは心配していない。
今日はなれない武器ではなく、素手で倒している。エリンの種族がバレても問題ないとおもったので、全力で対応するように伝えてある。サイズの問題から竜体になるときには、俺からお願いする事にしているだけだ。
俺は、進化体を相手にする。
数こそ少ないが、手強さではかなりの部類だろう。
まずは、ゴブリンに向かっていたカイとウミが
上位種と進化体を倒してから、標準種ならステファナとレイニーで大丈夫と判断して、オークの進化体を倒しに向かう。ウミはエリンと合流したようだ。これで、だいぶ楽になる。
次に
エリンとウミは、上位種が見せたすきを見逃さないで、
どのくらい戦っていたかわからないが、徐々に圧力が弱くなっていくのが解る。
戦況を見回す余裕が出てきた。後方のローブを身にまとった者は動きを見せていない。
最期に残っていたグリーン・オーガに俺の刀が届いた。
グリーン・オーガが倒れたのを見て、ローブに刀を向ける。
「ティリノ。後はお前だけだ!俺の軍門に下れ!」
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