第百五十九話
「マスター。マスター」
もう起きる時間か?
シロは、起きているようだ。寝るときに感じていた暖かさがない。
「オリヴィエ。皆、起きているのか?」
「はい」
律儀に馬車の外から話しかけてくれている。
「そうか、悪かったな」
「いえ、お休みの所申し訳ありません」
「いや、問題ない。それよりも、何か有ったのか?」
『我が主よ』
「オリヴィエ。すまん。少しペネムがなにかあるようだ」
「はい」
『なんだよ。急に、何か有ったのか?それに、我が主ってなんだよ?』
『ダメなのか?』
『別に呼び方なんて何でもいいけど、それよりも何か有ったのか?』
『そうであった。何度か対峙していた、黒い珠が有っただろう?』
『あぁ階層主と一緒に出てきた奴な』
『我が主よ。勘違いなんじゃよ』
言葉遣いが試行錯誤している状態なのか?
安定しないやつだな。威厳を持ちたいのか、それとも、いろんな奴と話して、ごちゃまぜになってしまったのか?
『勘違い?』
『あの黒い珠が階層主なのじゃよ』
『え?』
『我も知らなかったが、20階層のときに、エリン殿が破壊した後で魔物の動きが変わっただろう?』
『そうか?感じなかったけどな?』
ペネムの説明では、黒い珠が階層主で、あれがスタンピード(モドキ)を引き起こしているのではないかと予測されている。
階層主との戦いの時に、観察していたペネムが言うには、黒い珠を壊すまでは、魔物は統率されていたのだが、壊された途端に、統率が崩れたという事だ。
黒い珠が何者かわからないのだが、仮称としてイミテーション・コアと名付けておこう。
ペネムには作る事ができない魔物?だという事だ。
『わかった。30階層の階層主との戦いのときに注意してみるよ』
ペネムの情報は、魔の森で発生している問題の核心じゃないのか?
「オリヴィエ。それで何か有ったのか?」
着替えを終わらせて、馬車を出る。
「マスター。ペネム支配下の外側に魔物が溢れています。このまま解除すれば、後方から魔物に襲われる可能性があります」
ダンジョン・コアが回復をおこなったのか、それともペネムからの報告にあったイミテーション・コアから魔物が溢れ出したのか?
このまま解除して、ボス戦に入ってもいいが、ボス部屋に入られなかった者たち戦う事を考慮すると、対処しておいたほうがいいだろう。
「食事をしてから、対応だな」
「はい」
皆を見ると、完全武装している。魔物の対処が先だと思って、武装を整えていたのだな。
それにしても厄介なダンジョンだな。俺達じゃなければ攻略は難しいだろうな。これで出てくる魔物がもう少し美味しければ残しておいても良かったのだけどな。ゴブリンとオークとオーガとその上位種だけだからな。
イミテーション・コアの作成方法?をペネムが習得できれば、ペネムダンジョンが面白く改造できるとは思うけど、難しいのだろう。
”ナイトメア”モードでも作って、永遠と魔物と戦い続けるようなダンジョンがあっても面白いとは思うけど、死者が大量に出そうだから決められた者しか行けないようにする必要はあるな。
「カイ。ウミ。エリンとオリヴィエ。後方の魔物を頼む」
「はい!」
「かしこまりました」
カイとウミからも了承が伝えられる。
「マスター」
「解っているよ。後方が落ち着くまで、階層主の部屋には入らないよ」
「お願いします」
エリンはすぐにでも後方の魔物の退治を行いたいようだ。
食事を軽くしてから、ペネムに支配領域の解除を行わせた。
解除しなくても良かったのだが、1ヶ所にまとまっているよりも、少しでもバラけたほうが戦いやすいだろうという判断だ。
カイとウミとエリンには、必要がない気遣いだったようだ。
どのくらいの魔物が居たのかわからないが、20分くらいしてから戻ってきた。
戻ってきたオリヴィエに状況を確認したが、
気を取り直して、階層主に挑む事にする。
30階層の階層主は、オーガと上位種になってくるのだろう。問題は数だが、今までと同じ程度なら大丈夫だろう。
前回の約束通り
エリンとウミ。俺とシロ。オリヴィエとステファナが入る事になったのだが、オリヴィエが連続になるために、代わりにライを入れる事になった。
作戦は同じでいいだろう。
エリンとウミが後方に回って、
それまで、俺とシロとライとステファナがオーガの通常種を倒す。
淡い期待を持っていたが、6人(?)が入った時点で扉がしまった。ライも一人と数えるらしい。
部屋に入られなかった者には、後方の警戒を頼んでいる。
カイが居るから大丈夫だろうと思いたい。
「ウミ。エリン。頼む」
「うん!」
『うん』
ウミとエリンは、襲ってくるオーガの後方に有るであろう
オーガは目の前に居るだけでも、200を越えそうな勢いだ。
「ライ。ステファナを頼む」
『はぁーい』
「ステファナは、ライと一緒に居て、シロに補助スキルをかけろ」
「はい!」
「シロ!」
「はい。カズトさんのフォローをします」
「頼む」
前回は、線で支えたのだが、今回は点で支える。ライが前線に出れば大丈夫だろうとは思うが、少し、オーガ達を観察していたいので、今回は点で支える事にした。
上位種の一体が倒れた。
続いてすぐにもう一体も倒れた。
「パパ。黒い珠壊すよ!」
エリンには、壊す前に声をかけるように指示を出している。しっかり覚えていてくれたようだ。
「わかった。頼む!」
オーガ達のうめき声や挑発しているであろう声を上回るように大きな声で、エリンに伝える。
「わかった!せーの!」
「壊した!」
確かに壊した直後に一瞬動きが止まった。
動きが止まったのだが、それ以外の違いを見つける事ができない。
相変わらず、手に持った武器を振り回すだけの攻撃だ。
ペネムダンジョンやチアルダンジョンに出てくるオーガの方がまだ知性的だと思う。
「シロ。ステファナ。何か気がついたか?」
2人には、階層主の部屋にはいる前に、ペネムの仮説を話してある。
「何も」
やはりシロはダメか。
結構脳筋の所があるからな。あまり期待はしていなかったのだ、やはり想像通りだったわけだな。
「旦那様!」
「どうした?」
「はい。一部のオーガですが、逃げる動作をしました」
「どういう事だ。後で聞かせてくれ」
「かしこまりました」
流石に、戦闘中に詳細に話を聞くわけには行かない。
”逃げる”動作と言ったな。回避行動の事か?
ステファナの言葉を聞いて、観察する様にしてみた。気が付かないレベルだけど、防御を行うようにはなっている。元々、オーガが究極の脳筋のために、防御を取らない。かなり注意して観察しないと、わからないレベルだが、武器でこちらの攻撃を防ごうとする個体を確認できる。
個体差が出てきているという事は、やはり
戦闘は、挟撃される形になったオーガが数を減らしていく。
数が減ってきて、俺達にも余裕が産まれてきたので、ステファナとライも前線に立ってもらって、線での防御に切り替える。
ステファナには負担かもしれないが、俺が感じた事を伝えた。同じ様に感じたようだ。
包囲網が狭まってきたので、エリンと俺とシロで三角形の陣形を作って、オーガを追い詰める。
討ちもらしたオーガは、ウミとライとステファナに掃除をしてもらう。
最後まで残っていたオーガの攻撃をシロが剣で受け流して、体制を崩したオーガの首をエリンが跳ね飛ばして、戦闘が終わった。
数秒後に、扉が開いた。
中に入られなかった者たちと合流して話を聞いたが、魔物が現れる事はなかったと言うことだ。
『我が主』
『なんだよ?』
『・・・。我にだけ何故か冷たく感じるのですが?』
『気にするな。お前の勘違いだ』
『わかりました・・・。それで、我が主』
『だから、なんだよ』
『はい。黒い珠。イミテーション・コアですが、魔物では無いようです』
『どういう事だよ?』
『我が主にわかりやすいように言えば、”
スキル道具?
ダンジョンコアの一部の権能を付けた道具というわけか?
確かに、それなら・・・でも、どうやって・・・そうか、ここはダンジョンの中だ。
『ペネム。スキル道具ならお前は作る事ができるのか?』
『無理です』
『だろうな。でも、俺がお前の権能を奪って、魔核に付与できればいいわけだな』
『はい。そうなります』
『帰ったらやってみよう。それをダンジョン内に配置して、あとはお前が魔力を流すか、近くで誰かが魔力を流せば発動するという事だな』
『だと思います。自立型かどうかはわかりませんが、概ねあっていると思います』
よし、モンスターハウスの目処がたった!作ってみたい罠の一つだったのだよな。
魔物をもっと自由に配置できるようになれば、難易度調整も楽にできる。
夢が広がる!
なんとしても、ティリノ・ダンジョンを攻略して、ペネムよりも優秀なダンジョン・コアを配下におさめたい。
『我が主。何か、寒気が・・・』
31階層に向かう階段を降りながら、今後の楽しみに関して考えをまとめていた。
面白味がないが、31階層からも地図に書かれてるのと同じようだ。
この階層は、ゴブリンの上位種が出てくる事になっている。積極的に倒していく事にする。上位種なら、スキルカードや魔核も多少拾う意味が出てくる。今の所、収支は完全に赤字なのだが、この辺りからバランスをとっていけばいいだろう。赤字解消はできないだろうが、命の安全を考えれば、せっかく持っているスキルは使ったほうがいい。
ようするに、積極的に上位種が出てくる魔物を倒していく事にする。
分岐点は最初だけだが、全部を踏破する事にした。
下の階層にまで繋がっている”ハズレ道”は同一階層は探索して、下階層には出ないで戻る事にする。ペネムが説明してくれた、『魔物は階層を越えられない』を、信じたわけではないが、後方を襲われるリスクは階層だけを踏破していれば概ね回避できるだろうという判断だ。
上位種と言ってもゴブリンだ。
ここまで来ている俺っちの足止め程度にかならない。階層をなんなく踏破できている。
進む距離が伸びているので相対的に時間は掛かってしまっているが、なんとか階層主の部屋までたどり着いた。
今日はここで休んで、明日、突入する事にした。
後方が安全だと判断できた事から、突入は、
エリンとオリヴィエ、俺とシロ、カイとウミとする。ステファナとレイニーとライとリーリアは、今回はお休みとなる。
次は、オリヴィエとリーリアが入れ替わるだけだ。
翌日、予定通りに40階層を抜けた。
やはり
指揮個体なのだろうか、進化個体が5体出てきていた。進化は、色付き進化のようだ。
ブルー・ゴブリン/レッド・ゴブリン/イエロー・ゴブリン/グリーン・ゴブリン/ホワイト・ゴブリンだった。
ブルー・ゴブリンは水と氷のスキルを使ってきた。
レッドは、火のスキルだ。イエローは、岩のスキルを使って、グリーンは、風のスキルを使ってくる。
厄介だったのが、ホワイトで、補助スキルと治療や低下系のスキルを使ってきた。
一度、エリンが速度低下のスキルを受けてしまった。
すぐに、ウミが解除したので、問題にはならなかったが、やはり進化個体は手強い。上位種も、100体も集まると流石に脅威だったが、
上位種でも、攻撃が単調なら恐れる事はない。進化個体の討伐が終わるまで、数が増えてしまっても対処できるだろう。
エリンがホワイト・ゴブリンを倒して、進化個体が全部倒された事を確認した。
「エリン。
「うん!」
ゴブリンの上位種はこのときには150体ほどまで増えていたのだが、問題にならない。
倒し方は、オーガの時と同じだ。
最初は点で戦いつつ数が減ってきたら線にして、最後は囲んで倒す。
どのくらい戦っていたのかはわからないが、30階層までとは明らかに戦闘時間が伸びている。
伸びているが倒せない魔物ではない。
最後のゴブリン・アーチャーが倒れて戦闘が終了した。
数は、200を少し超えるくらいだろうか?
ライに処理を任せる。流石に疲れたので、カイとウミとライの吸収が終わるまで小休憩をする事にした。
下層になってきて魔物も上位種になっているので、さすがに一日で階層主の部屋まで行けそうにない。途中で、一回休んでから向かったほうがいいだろうな。
結局、47階層で一泊してから、50階層の階層主にアタックした。
オークの上位種と進化個体が相手だ。
同じ様に、ブルー/レッド/イエロー/グリーン/ホワイトだったのだが、ホワイトは防御系のスキルを多用してきたレベル6物理攻撃半減やスキル攻撃半減だ。こちらに向けての状態異常系の攻撃も多くなっていた。今度は、最初から警戒していたので、レジストする事も結界での防御も上手くできた。
戦闘時間は確実に伸びていた。
先に進む事も考えたのだが、戦闘時間や疲労から、51階層に出た所で、今日は休む事にした。
明日、60階層の階層主の手前まで行ければいいだろう。
オーガの上位種と進化個体だとしたら、万全の体制で挑む必要があるだろう。
あと、3日程度でダンジョンコアに会うことができそうだな。
明日、60階層まで行って、翌々日に60階層の階層主を踏破。61階層に入った所で一泊してから、ラスボス戦!って感じだろう。
ゲームならセーブポイントを作っておく所だろうな。現実だから、そんな事ができない。
だからこそ、体力だけではなく、気力も充実させる必要もある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます