第百五十八話


 階層主が居る扉の前でじっくりと休む事にした。


 ペネムが展開した草原で、シロが俺の肩に頭を乗せて寝息を立てている。


「マスター」


 食事の用意ができたようだ。

 オリヴィエが俺とシロを呼びに来た。


「シロ。シロ」


 よほど疲れたのだろう。無理をさせていたのかもしれない。


「あっうぅぅん」


 まだ眠そうだな。


「シロ」

「うぅぅん。あっ」


 うん。起きたようだな。


「シロ。起きろよ。ご飯を食べて、身体を拭いてから寝ることにしよう」

「え・・。あっ。カズトさん。ごめんなさい」

「そんなに疲れていたのなら、言ってくれよな」

「はい。でも、違うのです」

「何が違う?」


 シロがリーリアを見る。

 なぜリーリア?


「ご主人様」

「あっ!リーリア!ダメ!」


「奥様。ご主人様にはお話しておいたほうが」

「そうだけど、まだ僕できていないから」

「わかった。わかった。無理に聞かないけど、シロ、今はダンジョンに、戦いに集中してくれよな」

「はい。昨日は、どうしても、もうしません。リーリアもごめんなさい」

「うん。いいよ。それよりも、ご飯にしよう」


 リーリアは、シロが止めに入る事も考えていて、シロが寝ている間に念話で俺に簡単に説明してくれている。知らない事にしておいたほうがいいだろうとう判断だ。

 だから、理由も聞かないでも解っているのだが、シロから直接聞きたかったという気持ちがあっただけなのだ。


 昨晩、俺が寝たあとで起き出したシロは、リーリアを訪ねた。

 リーリアに、料理を教わるためだ。ダンジョンの中でやるべきことでは無いのは解っていたようだが、一つだけでも自分で作られるようになっておきたかったようだ。そのために寝不足になってしまったのだろう。リーリアもシロから教えてほしいと言われたらイヤとは言えなかったようだ。


 途中から、ステファナとレイニーも参加して、”ツクモ家”の味を覚えたようだ。

 ダンジョンの中でやるなよとは思ったが、すでにやってしまった事なので、次からはやらないように、そのかわり、洞窟に帰ってからみっちり時間をかけて教えるように伝えた。


「旦那様。湯浴みはどうされますか?」

「あぁ頼む。オリヴィエに馬車の準備を進めておくように伝えてくれ」

「かしこまりました」


 ステファナが要件だけを聞いて立ち去ろうとした


「あっステファナ」

「はい。なんでしょうか?」

「エリンは無理をしていなかったか?」

「はい。無理っといいますか、私達は、ドロップしたスキルカードと魔核を集めるだけの作業だったので、無理も何もありませんでした」

「え?あっそうか、エリンが一人で倒しまくったのだな」

「・・・」

「ウミとエリンで倒していたのだな」

「はい」


 何か申し訳なさそうにしているので、詳しく話を聞くことにした。


 どうやら、最初はステファナとレイニーとウミで倒していたようだが、進みが遅かったので、途中からエリンとウミに変わったようだ。

 ステファナはそれを情けないと感じているようだ。


「ステファナ。別に、ウミやエリンと同じ事を、お前たちにもとめていないのだぞ?」

「・・・。はい。理解しています」

「そうか?俺から見ると、お前たちは、なんでもやろうとしすぎていないか?」

「そんな・・。はい。そうです。レイニーと話をしまして、私達が足を引っ張っている現状をなんとかしたいと考えています」

「うーん。ステファナ。後で、レイニーと一緒に来てくれ。多分、シロも同じ感じなのだろう」

「え?」

「お前たちは勘違いをしていると思う」

「勘違い?」

「あぁなんでもできるようになれとは思っていないのだぞ?」

「??」

「あぁあとでいい。馬車の準備を先に頼むな。シロが寝落ちする前に話をするためにもな」

「はい。かしこまりました」


 パタパタと走っていくステファナを見送った。

 なんだか、前世?で上司に大量の新人を押し付けられた時を思い出す。新人は悪くない。上司も良かれと思ってやったことなのだろう。俺の負担を減らすために・・・。


 ステファナが馬車の用意ができた事を告げに来た。

 湯浴みの場所は別に作ったようだ。


 自重という言葉を棚に上げてしまったことから、簡単な風呂場を作ってしまった。

 ステファナとレイニーが忙しそうに動いていたのは、オリヴィエとリーリアが浴槽の準備に忙しかったからなのだ。


 まだ少しだけ眠そうなシロを風呂場に連れて行って、ステファナとレイニーにお願いして、服を脱がした。俺が脱がしても良かったのだが、2人が仕事を欲しがっていたので、任せる事にした。

 俺が先に浴槽に入っていると、シロが入ってきた。


「カズトさん」

「シロ。気持ちがいいぞ?」

「はい」


 そういって、少し大きめに作った湯船だけど俺の横に入ってくる。


 髪の毛が湯船に漂う。


「髪伸びたな?」

「うん。切った方がいいでしょうか?」

「シロの好きにしたらいいよ」

「え?」

「ん?」

「??」


「カズトさん?」

「なんだよ」

「ううん。なんでもないです。フラビアやリカルダから、髪の毛は旦那さんが長さを決めるから、自分で切らないようにと言われて居たからびっくりしただけです」

「へぇそうなのだな。長いのも好きだけど、シロはどうしたい?」

「僕は、カズトさんが好きな長さがいいです」


 困るパターンだな。

 長いのが好きと言えば伸ばすのはいいけど、手入れが大変だろう。シロの髪質から言えば伸ばしていても不思議じゃない。

 そういえば、フラビアとリカルダは短くしていたな。クリスは伸ばしていたな。ナーシャは・・・忘れたな。


「そうだな。長いのも好きだけど、いろんなシロを見たいから、帰ったら、いろいろ試してみような」

「うん!」


 これが正解だったようだ。

 よかった。よかった。


 シロも日々成長しているのだろう。

 俺よりも少し低いくらいで止まっている。胸は・・・。言わないほうがいいだろう。体つきはどことなく会ったときよりも丸くなっているとは思うけど、これも言わないほうがいいだろう。


 湯船に浸かって、シロを抱き寄せる。

 シロも素直に抱かれる。柔らかい感触を腕に感じながらシロと唇を合わせる。


「シロ」

「はい」

「何を、そんなに焦っている?」


 直球で聞くことにした


「え?僕、焦ってなんか」

「シロ。それならそれでもいいけど、言ってくれたほうが嬉しい」

「あ・・・」

「それに、シロ。俺は、シロが傍に居てくれる事が一番うれしい」

「はい。あの・・・。笑わないでくれますか?」

「あぁ笑うはずがない」


 なぜか、耳まで真っ赤にしてから、シロは俺に抱きついてきた。


「僕とカズトさんの・・・あの・・・その・・・子供ができたときに、僕なにもできないから・・・今まで、剣しか・・・それで、カズトさんと・・・その・・・子供ができるような事を・・・」


 そうか、かなり先走った考えだけど、納得できた。

 まだ身体を合わせていないが、キスを繰り返すようになって、その先の事もしっかりと想像してしまっていて、想像の中で子供ができて、その子供をステファナやレイニーやリーリアが食事を与えている状況まで勝手に想像してしまったのだな。

 それで、料理を・・・俺が喜ぶような料理を覚えていれば、子供にも食べさせる事ができると思ったのだな。


「カズトさん?」

「あっ悪い。悪い。そうだな。シロ。子供ができたら、まずは、シロと俺で育てような。どうしてもできない部分はあるだろうから、そのときに、皆を頼ればいい。シロの慎ましいおっぱいでも子供を育てる事はできるだろうからな」

「え?あっ・・・」


 シロが身体を離して、自分のおっぱいを見る。


「カズトさん。やっぱり、胸が大きいほうが・・・」

「違う、違う。俺、シロの胸が好きだぞ?」

「本当ですか?」

「あぁ本当だ。あまり大きいのは好きじゃないからな」

「・・・嘘ですよね?」

「嘘じゃないよ」

「だって、一度も僕の・・・」

「そりゃぁ触ったら我慢できなくなるからな」

「え?だって・・・」

「そうか、シロ。それでやたらと胸を押し付けてきたのだな!」

「・・・だって。カズトさん。触ってくれないし、こうしたら喜ぶって・・・」

「ふぅ・・・わかった。全面的に俺が悪かった。悪かったが、シロ!」


「はい!」

「そのくだらない話をお前に吹き込んだのは、フラビアか?リカルダか?リーリアか?クリスか?それとも、ナーシャか?カトリナか?もしかして、メリエーラ老か?」


 一人づつ吹き込みそうな人間の名前をあげていく。

 全員違うのか?違うな。全員なのか?犯人探しは必要ないだろう。彼女らもシロの事を考えて話してくれたのだろう。


「シロ。俺の事を思ってくれるのは嬉しいけど、無理しなくていいからな。これから、俺達はかなりの間一緒に居るのだからな。今からそれじゃ息が詰まってしまうだろう?」

「・・・。はい」


 思い出したようだな。

 俺達は、寿命が人族とは違う長さになってしまったのだ。

 一人なら耐えられなかったかもしれない。でも、2人なら、シロと一緒なら耐えられるだろう。シロを、俺の都合に巻き込んでしまった感じがしないでも無いけど、今更だろう。


 シロと話をしながら、湯が冷めてきた事もあって、風呂から出た。

 控えていた、ステファナとレイニーにシロを預けて、身体を拭いてから、用意されている寝間着に着替えて馬車に向かった。


 馬車には昨日と同じ様に、一組の布団が用意されていた。

 今日は、シロには夜中の料理教室はしないように言ってから寝る事にした。


 ステファナとレイニーとの話は、明日に延期した。

 風呂から帰ってきたシロが布団に入った瞬間に寝息を立て始めたからだ。


 何も解決はしていないのは理解しているし、明日からの戦いで無理をしてしまう事も考えられる。しかし、話の流れからダンジョン内でするような事でも無いだろう。洞窟に帰ってから、ゆっくりとシロを交えてステファナとレイニーと話ができればいい。


---


 昨晩は、シロは俺に抱きついたまま朝までぐっすりと寝ていたようだ。

 馬車の前で万が一の警戒をしていたライからの証言があるので確実だ。


 朝食を軽くとってから、武装を整えて、昨日消費したスキルカードを分配してから、20階層の階層主に挑むことにした。


 順番は、エリンとウミが自分たちも戦いたいという事で、エリンとウミが先に入って、次に俺とシロ。そして、次は揉めたのだが、今回はリーリアとレイニーになった。次の階層主を、オリヴィエとステファナが先に入る事が決まった。


 やはり、部屋に入られるのは6名までのようだ。

 ウミが一人にカウントされている。どういう理屈なのかわからないのだが、そういう物だと考えておけばいいだろう。


 扉が閉まると、オークの大群が現れた。

 10階層と同じ様に、上位種も数体確認できる。上位種の数はそれほど多くないようだ。5体は居ないだろう。ただ、通常種が後ろから湧き出ている様になっている。まずは、そこを叩く。


「ウミ。後方にある黒い珠の破壊を頼む。エリン。サポートしてくれ」

『うん』「わかった!」


「リーリアは右側。レイニーはシロと左側、俺は中央を抑える」

「はい」

「はい」

「はい」


 オークは、何も考えずに突っ込んでくる。

 数で押しつぶすつもりなのか?


 上位種は、ウミとエリンの相手をしていて、こちらの状況は見えていないのだろう。上位種でも、ウミとエリンが相手をするには力不足。戦闘になるかならないかの状況ですぐに倒されていく。


「パパ。黒い珠を壊した!」

「エリン。よくやった。オークの残りを後方から追い詰めてくれ」


 ウミとエリンが後方から斬りかかる。

 後ろに退避できないオーク達は俺達の方に、向かう事だけに集中するようだ。選択としては間違っていないだろう。俺とシロとリーリアとレイニー合わせたよりも、ウミとエリンの方が怖いのだろう。


 オーク達は上位種が倒された事で、前に向けての圧力を高めている。


「シロ!レイニー!オークを押し上げろ、ウミ!エリン。シロたちの方から、オークを押し込め」


 全員から了承の声が聞こえる。

 スキルを使って、オークを押し込め始める。


 シロとレイニーの方面から、ウミとエリンが押し込み始めた事で、俺とリーリアの方にオークが流れ始める。


「リーリア!」

「はい。ご主人様の方に移動します」


 解っているようだ。


 俺とリーリアが合流した時には、シロとレイニーもウミとエリンと合流している。


 数百体居たであろうオークもすでに一桁程度になっている。

 あとは作業のような物だ。


「エリン。あとは任せていいか?」

「うん!パパ。ありがと」


 エリンが一人で、残りのオークが固まっている場所に突っ込んでいく、これで階層主との対戦も無事に終わった。


 最後の一体が倒れてから数秒後に入ってきた扉が開いた。

 戦闘が終了した合図だ。


 ライが跳ねながら入ってくるので、オークの死体の処理を頼む。今回も、ダンジョンコアが吸収しているような動作が見られる。


 それでもかなりの数を処理したのだろう。

 オリヴィエとステファナがドロップ品を集めている。選別は面倒なので、ひとまずライの収納に全部放り込んでおく。選別は、次の休憩時に皆で行えばいいだろう。


 俺達は、開かれた下層への階段に続く扉を抜けた。

 21階層は草原ステージになるのではなく、今までと同じ状況のようだ。地図に示されているように、21階層の開始位置から見える場所に4本の道を見る事ができる。地図に示されている通りだ。


 21階層はオーガのハズだよな。

 力はオーク以上で素早さがコボルトと同程度という厄介な魔物だが、最上位種でもない限り苦労する事は無いだろう。進む速度は落ちたが、安全マージンを考えてもまだ大丈夫な様子だ。


 25階層までは、横道の探索も許可した。

 分担は昨日と同じだ。


 26階層からは、間違っている道の距離が長くなるために、許可しないで、皆である程度まで進んでから引き返す様にした。

 何も倒さないでいると後方から襲われる可能性を考慮したからだ。ウミとエリンが戻ってきて、ステファナとレイニーも後方からスキルでの援護をおこなっている。ドロップ品を拾ってくれるのが地味に速度を上げる要因になっている。


 オーガが使っている武器は無骨だが折れそうにない大剣を使っている。

 体格も、今までのゴブリンやオークよりは二回り程度は大きい。しかし、戦闘方法は同じで単純なので、倒すのはそれほど苦労していない。


 怪我する事なく、30階層にたどり着いて、今日も階層主の部屋の前で休む事になった。


 今日は、食事の前に、皆で集まって、ドロップ品の整理を行う事にした。

 スキルカードは俺が基本的に持つ。魔核はライが確保していく。


 武器や防具は、使えそうにない物はここで潰してしまう事にした。

 ライの収納はまだまだ大丈夫だという事だが、小さくしておく必要はあるだろう。使わない武器や防具は分解で小さくしてから、素材ごとに分ける事にした。俺の作業だがまとめるだけなので、さほど苦労する事なく終了した。


 明日は30階層の階層主と30-40階層の踏破が目標だ。

 このまま進めば、翌々日は40階層の階層主と40-50階層の踏破、次は51階層と50-60階層の踏破で、その次で60階層の階層主とダンジョンコア戦になるだろう。あと5日程度でダンジョンを踏破できるかもしれない。途中で休憩を挟むような事態になったとしても、10日程度で踏破できるだろう。


「リーリア。食料は10日程度なら問題ないか?」

「あと、1ヶ月くらいは大丈夫です。節約したり、魔物の肉での料理を行えばもっと持ちます」

「わかった。ありがとう」


 食料もだけど、武器防具の損傷が少ないのが遠征を楽にしている要因なのだろう。

 水に苦労しないのも嬉しい。そして、ペネムのおかげで、休むときにゆっくりできるのが一番いい事だろう。


 今日も、風呂に入って、緊張と疲れをほぐしてからゆっくり休む事にしよう。


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