第百五十四話


 報告を聞いて、5つのダンジョンの存在を確信しているのだが、少しわからない事もある。襲撃が行われている場所が、石壁全域に及んでいる事だ。

 石壁の長さは、万里の長城ほどではないが、かなりの距離を誇っている。正確に計測したわけではないが、ミュルダ-ロングケープ街道を倍にした長さがあると思って間違いないだろう。


 そして、石壁から目視出来る程度の場所にダンジョンが発見出来ていない。


 中央付近から石壁に来ているのだとしたら、距離的な事を考慮すると、4-5日前にダンジョンから這い出た魔物が来ている事になる。


 石壁にのぼって後ろを振り返ると、シロが少しだけ嬉しそうな表情で俺を見て、リーリアが何故か誇らしげにしてて、オリヴィエがやれやれという表情をして、エリンがニコニコしていて、ステファナとレイニーが石壁を攻撃している魔物に表情を固まらせている。


 いろいろな疑問点はあるが、状況を動かさないと見える物も見えてこない。

 魔の森の探索を始める事にしよう。


 石壁に迫っていた魔物は、ウミとライが石壁から散歩にでも出かけるかのようにふらりと地面に降りたかと思うと、瞬殺し始めた。

 100体くらいまでは目で追っていたが、それ以降は目で追うのも馬鹿らしく思えて見ていない。


 石壁に迫っていた魔物1,000体程度だろうか、死体が転がっている。

 ウミとライが喜々として戦っていたので何も言わなかったが、魔物が弱すぎる。結界を破られる心配をしなくて良さそうだ。俺やシロやリーリアやオリヴィエではなく、ステファナとレイニーで相手に出来るのではないか?


 確かに、総数はすごいことになっているとは思うが、この程度なら群れで襲われても対応が可能だと思われる。


『大主様。今よろしいですか?』

『何か有ったのか?』

『いえ、魔の森に集落を作っていた、知恵ある魔物の退避が終わりました。はぐれている者が居るかとは思いますが、概ねチアルダンジョンに移動しております』

『無理やりでは無いのだな』

『はい。一部抵抗されましたので脅しましたが、大丈夫です』


 何が大丈夫かわからないけど、大丈夫だと言っている言葉を信じよう。

 それにしても、シロの眷属探しがまたできそうにない。


 シロ達に、スーンからの連絡を伝えた。

 エリンが、竜体になってブレスを放とうとしていたので、慌てて止めた。せっかくだから、シロやステファナとレイニーのレベルアップに使おうと思っているからだ。


 この状態では、ウミとライに全部の魔物が狩りつくされてしまう。


「ウミ。ライ。戻ってこい」


 ウミとライが俺の所に戻ってくる。

 褒めて欲しそうにしているので、ウミの頭をグリグリと撫でてから、ライの全身を優しく撫でてやる。


「カイ。ウミ。ライ。俺たちの後ろからついてきて、魔物の処理を頼みたい。素材は」


 オリヴィエを見るが、首を横にふる


「ご主人様。この程度の魔物の素材なら必要になりません。全部吸収してしまって問題ないでしょう」


 リーリアの提案が一番だろう。

 カイとウミとライとオリヴィエとリーリアで倒された魔物の処理を頼む事になった。

 最終的に、ライが吸収する事になるのだが、眷属を呼び出して吸収させても良いと伝えてある。


 俺とシロとステファナとレイニーが先頭になって戦闘を行う事になる。


 エリンは魔物が弱い事がわかったので途端に興味をなくしている。

 俺とシロの後ろをついてくることにしたようだ。


 先頭で戦っているのは、ステファナとレイニーだが、疲れが見えてきたら、俺とシロに変わる。2人の疲れが取れてきたら、交代する事を繰り返している。


 すでに、魔物の大群を3度相手にしている。

 吸収も、カイとウミでは小指の先ほどの意味も無いので、ライが進化前の眷属を呼び出して吸収させている。進化が終われば入れ替わる事にしたようだ。


 半日間戦い続けたが、進んだ距離は2kmにも満たないだろう。

 このペースでは一年かけても中央まで進む事ができない。


「なぁシロ。このままでは」

「僕も同じ事を考えていました。休み無く進んだとしても、かなりの日数が必要です」

「だよな」


 でも、ステファナとレイニーには頑張ってもらいたい。

 今のままではこの程度の魔物なら蹂躙出来るが、チアルダンジョンの下層に連れて行くことは難しいだろう。最低でも、今のシロと同じくらいは出来るようになってほしい。


 横から襲ってきた、コボルト(仮)の集団をスキルを使わずに惨殺しながら考える。


 簡単なのは、カイとウミとライとエリンに魔物の掃除を頼むことだ。

 多分、時間はかかるが掃除は終了するだろう。しかしダンジョンを見つけて、踏破しないことには、この事体は収まりそうにない。


 どうせ、魔物は湧き出してきている。

 ん?湧き出してきている?


 自分の考えに違和感を覚えた。


 魔の森全体がサイレントヒルのようにダンジョン化したのではないか?

 そう考えれば、ダンジョンの中で戦っているのと代わりはない。魔物は、わき続ける。単純(?)なスタンピードと考えたから、ダンジョンを見つけ出す必要があると考えたのだが、もし魔の森全域がダンジョンになっていたら、魔物の数も中に入った者を襲いかかる習性といい理解出来る。

 どの辺りまでなのかは、襲われた石壁を考えればいい。

 一部の場所や魔の森に入るために作られている関所は襲われていない。当初はダンジョンコアが存在して指示を出しているのではないかと考えていた。しかし、ダンジョン化していると想像すれば、ダンジョン外の場所が襲われていない事と合わせて考える事で、すんなりと理解する事が出来る。


「シロ。少し助っ人を呼ぶな」

「はい?」


『ルートガー。ルート!』

『え?あっツクモ様。魔の森にお出かけだったのでは?』

『あぁ悪い。今大丈夫か?』

『はい。大丈夫です』

『魔の森に来ているのだが、少し確認したくてな。クリスと一緒か?』

『はい』

『今、ペネムダンジョンは緊急事態は発生していないよな?』

『大丈夫です』

『クリスに、ペネムダンジョンをこっちで呼び出すと伝えてくれ』

『わかりました?』

『どうした?』

『いえ、それなら、なぜクリスに妻に直接お話にならないのですか?』

『ん?お前と盛っている最中だと困ると思っただけだぞ?』

『っっっ!!ツクモ様!』

『冗談だ。いや、7割、いや8割くらしか本気じゃないから安心しろ』

『殆ど本気じゃ無いですか!昼間からはしませんよ!』

『なんだ、夜にはしっかりやっているのだな。跡継ができたら、ペネムダンジョンも安泰だな』

『なっなっなんて事を!!ツクモ様!!』

『悪かったよ。クリスに、愛しの奥方に連絡頼むな』


 ここで念話を切った。

 ルートガーをからかうのは楽しいな。


 成人前に何やっているのかといいたいけど、まぁいいかな。


「シロ。ペネムを呼び出すから、少しステファナとレイニーのフォローを頼む」

「かしこまりました」


 さっきまですっかり完全に頭の片隅にもなかったが、相手がダンジョンならこっちもダンジョンに話を聞けばいい。俺の眷属にしていたのを、記憶の片隅からなんとか呼び起こした。


『我が君』


 誰だお前?

 あぁペネムだったよな。呼び出したから間違いない。

 そんなキャラクターだっけ?


『我が君』

「あっペネムに来てもらったのは」

『大丈夫です。ルートの奴から話を聞きました』


 あれ?ルートガーに対してあたりがきついな。


「ルートが何かしたのか?」

『我が君!聞いてください!我の所有者にして、姫君であらせられるクリス様の』


 話が長い。グダグダ愚痴と悪口を永遠と喋ってくる。

 どうやら、クリスはルートガーと会う時や、閨の時にはペネムを外して、結界が張られているスキル道具の中に入れているようだ。それも自業自得の所がある。ルートガーとの初夜の前に、緊張しているクリスにペネムが話しかけてしまったようだ。そして、チアルがルートガーの悪口に思えるような事を口走ってから(どうやらその前から関係は悪かったようだ)ペネムは普段はいいとしても、クリストルートガーが二人っきりになるときには、結界の中に入れられてしまうと言っていた。

 全部ルートガーの陰謀だと、クリスがダンジョンの盟主になるのが許せないのだと憤慨していた。


 そもそも、クリスはダンジョンの盟主なんてならないと思うぞ?俺がクリスにペネムを預けていたのは、身を守る意味合いが強い。そして、動き回るダンジョンコアが何となく面白そうだという以上の意味はない。

 さすがに、それを告げるのは可愛そうなので黙っている事にした。


「クリスとルートの件はわかった、帰ったら話をしよう。そう言えば、お前ある時期に大量の魔核を吸収していたよな?」

『我のダンジョンに来られる事が無いのでご存じないかと思いますが、我のダンジョンはすごいことになっております』

「ん?どういうこと?」


 俺が認識していたのは、5階層の後に6階層(冒険者感覚では5階層)を作って、そこにダンジョンを増やす事だ。初心者が踏破出来る程度の物から中級者が踏破出来る物程度を20-30程度作った所までだ。


 話を聞くと、そんなレベルではなくなっていた。

 すでにダンジョンは上級者や最上級者ようのダンジョンも作られているという事だ。挑戦者なんて居ないだろうと思ったのだが、上級者の踏破はもちろんできていないのだが、いくつかのパーティーが共同でダンジョンに潜って素材を持って帰るような事をしているようだ。

 初級者用のダンジョンや中級者用のダンジョンも増えて、現状では1,000を軽く越えているようだ。

 その御蔭なのか、ダンジョン・コアとしての格も上がって、子供が生み出せるようになったようだ。俺への報告や許可ができていなかったこともあって、内部ダンジョンのダンジョンコアとして使っているという事だ。

 ペネムのように意思を持っているわけではないので、端末としての意味しかないと説明された。これから、数千年程度存在を維持できれば、意思が芽生えるかもしれないし、踏破者の意識を乗っ取れば人格が形成されるかもしれない。


 子供を作るために、大量の魔核が必要だったということらしい。

 あと、上級ダンジョンや支配地域の拡大もおこなっていると言うことだ。


「今更だけど、ペネムはこっちに来て大丈夫なのか?」

『我が君。本当に、今更ですね。しかし、大丈夫です。些か不本意だったのですが、我の分身をルートの鼻垂れに渡しております』

「そうか、それなら大丈夫だな」

『はい。新たに作り出す事はできませんが、管理運営はできます』

「それなら丁度いいくらいだな。ペネムよく考えてくれた。礼を言う」

『我が君。そう言っていただけるだけで、我は満足です。さて、本題に入りましょうか?』


「ペネム。魔の森なのだけどな」

『ダンジョンですね。地表部分を0階層としているようです。サイレントヒルと同じ手法が取られています』


 あっ話が終わった。

 でも、返すのは後でいいかな。


 このまま連れて行ったほうが何かと便利かもしれない。


「そうか、やはりダンジョン化していたのか・・・。ペネム。コアの場所は解るか?」

『地表部には居ないようです』

「ダンジョン・コアがあるダンジョンが解れば十分だ」

『それならば、少しお待ち下さい』

「わかった」


 10分くらい、ペネムは何やら探っているようだった。


『我が君。コアの場所がわかりました』


 話を聞く限り、中央ではないようだ。

 中央には、最深といってもいいくらいのダンジョンが作られているようだが、ペネムが偉そうに言うには、ペネムダンジョンの中級と初級の真ん中よりも中級より程度だと説明された。

 それがどの程度か解らなかったので、念話でルートガーに聞いてみた


『なぁルート。クリスと二人っきりになったときに、なんでペネムを結界の中に閉じ込めるの?』

『ツクモ様!あんた解って居ながら聞いているだろう?』

『なんの事だ?』

『なんでもないですよ。それよりも本題に入ってください』

『どっちの声が大きいかくらい教えろよ。俺としては、クリスよりもルートの方が大きい方にかけるけどな』

『はぁあんた本当に馬鹿なの?そんな事言うわけがないだろう?』

『ちぇ。乗ってこないのかよ。面白味がないな。それで本題なのだけどな。ペネムダンジョン、あぁ6階層に作っている方な』

『えぇなんですか?』

『ダンジョンの難易度で、中級ってどの程度だ?』

『抽象的ですね』

『そうだな。イサーク達は単独パーティーで踏破出来るのか?』

『そうですね。聞いた話ですが、単独でギリギリといった所だと思います。中級にもいろんなパターンがあるので、相性次第では簡単に踏破出来ると思います』


 そうか、その程度ならダンジョンの周りを取り囲んで、執事エントメイドドリュアスで監視すればいいかな。地上に出てくる魔物さえクリアできれば、問題は一気に解決できそうだな。


 そのために、ペネムが見つけたダンジョン・コアを説得するか、破壊するか、眷属にするか。

 何らかの処置が必要になってきそうだな。


 そして、ダンジョンコアが居るであろう場所は、俺が港を作ろうとした場所に近そうだ。

 カイの意見を参考して選んだ場所だが、そもそも海に面している場所で海面まで降りられる場所があるのは、1ヶ所だけで、それ以外は断崖絶壁なのだ。


 従って、ペネムが言った場所は、仮称ロックハンド港の近くという事になる。1-2時間程度で、海に出られる場所だ。そして、今俺たちが居る場所からかなり離れているが、エリンに乗っていけばいい、目印となる場所も検討がついている。

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