第百五十五話
「エリン。大丈夫か?」
『大丈夫だよ。パパ。シロママも早く乗って』
エリンに、拠点にする予定のロックハンド(仮)港予定地まで飛んでもらう事にした。
エリンにしたら距離はさほど問題にはならない。
問題になるのは、行った先に何も無いことだ。
そこで、まずは場所を確認してから、ライに眷属を盛大に呼び出してもらう。
定職がない者から順次呼び出していく、そして一気に拠点となる港を作ってしまおうと考えた。
港ができれば、パレスケープは無理だとしても、ロングケープやパレスキャッスルから船で物資を運び込めるようになる。ワイバーン便も活用できるようになれば、ルートガー辺りも文句をいい難くなるだろう。
ロックハンド(仮)港予定地について、ライに眷属を呼び出してもらった。
港の建築なんてもちろんした事がなかったが、港町で育ったので、なんとなく指示を出していく、優秀な眷属達はどんどんスキルを利用して港を作っていく。
俺が眷属達と楽しく港を作っている時に、シロはステファナとレイニーを連れて魔物狩りにでかけた。お供にカイとウミはついているので問題は無いだろう。
リーリアとオリヴィエは、俺の出した指示に従って街の基礎工事を指示している。
広がりを考えて、崖の上に街を作る事にした。港部分だけではそれほど多くの住居は確保できない。それならという事で、砂浜部分の端っこ部分を港にして、砂浜は砂浜で残しておく事にした。港部分から、魔の森に繋がる坂道部分を整備して、倉庫街にする。そして、魔の森部分を切り開いて、住居を建築できるような場所を確保する事にした。居住区と同じ様に、区画整理だけを行って、あとは住民に好きなように建ててもらう事にする。
俺とシロの本邸は、洞窟だと決めている。
ロックハンド区に新しく住居は必要ないと言ったのに、眷属たちは作り始めてしまった。知らない間に作り始めていたので止める事が出来なかった。
そして、できたのは立派な屋敷。
迎賓館までは行かないまでもかなりの規模になっている。やり遂げた感を醸し出している、眷属達に何も言えなかった。
さすがに、使わないのは悪いと思ったので、ロックハンドで客人を迎える場所として、「グリーンウィンドー」と名付けた。座敷わらしでも出てくれたら楽しいと思っているのだが、魔物が居る世界だからな。座敷わらしくらい本当にいそうだよな。
ついでに、港に神社を作った。
そのままの名前をつけようかと思ったが、”タートルユーシュゥライン”としておいた。
別荘を作る事を指示した。
少し離れた場所に、小さな砂浜がある事が上から見ていて気がついた。
ロックハンドの住宅(予定)街に一つ小さな屋敷を建てて、その地下から、本邸の様に洞窟の中に住居を作って、小さな砂浜に繋がる通路を作らせる。プライベートビーチのような物にする。
なんだかんだで、2週間近く建築指示を出していた。
この間に、シロとステファナとレイニーによって、魔物が撃退され続けている。徐々に範囲が広がって、何重かの石壁を作る事も考慮している。区画整理と俺とシロの別荘ができれば、石壁作りに取り掛かる事にしている。
区画整理部分に入り込んだ魔物は容赦なくオリヴィエとリーリアが倒している。
ワイバーン便の発着場ができた事で、行政区とのやり取りが出来るようになった。
決裁は、スーンとルートガーに任せた。どうしても、俺の判断が必要な物に関しては、ワイバーン便で運んでもらう事になっている。
拠点作りから、1ヶ月が経過した。
湿地帯の近くにある石壁への魔物の攻撃は激減している。俺たちの方に差し向けられる魔物が増えているのだ。増えていると言っても、チアルダンジョンの低階層程度の魔物なら怖くもなんともない。カイとウミが出るまでもなく、ステファナとレイニーのいい練習相手にしかなっていない。練習相手にもならなくなってきて、ライの眷属で進化前の個体の練習相手になってしまっている。
区画整理も終わって、石壁の作成もそろそろ終わりそうになっている。
ロングケープとパレスキャッスルから船も到着しだして、俺たちにはほぼ無価値な魔物素材を喜んで引き取っていく、船乗りに聞いたら魔物素材はサラトガ区やアンクラム区やミュルダ区では珍しくもないが、パレスキャッスル区やロングケープ区まで来るときには、かなり値上がりしてしまっているという事だ。そこで、直接仕入れられるロックハンドができたと通知が出されたので、来てみているという事だ。
商売の事はわからないが、もともと高い希少性がある素材が商業区から出た場合には、各港区に到着するまでに値段が上がっても、元々高い値段設定なので困らないが、安い物に値段が上乗せされてしまうのは商売的にも困るという事のようだ。
シュナイダー老やリヒャルトも、認識はしていても対処が出来なかった問題だが、ロックハンド区ができた事で、多少は緩和されたと喜んでいる。
距離的には、倍くらいの距離があるのだが、他の大陸に買い付けに行くよりも近くて、仕入れ値がかなり安価なこともあり重宝されている。
ロックハンド区に作られた、
スーンが配置した、
石壁もできたし、探索に出ていたステファナとレイニーとカイとウミが、コアがありそうなダンジョンを見つけてきた。ペネムに聞いても間違いないだろうという事だ。
「明日から、ステファナとレイニーが見つけてきたダンジョンにアタックを開始しようと思うけど問題ないよな?」
カイとウミを膝の上に乗せて、頭を撫でている。
ステファナとレイニーの手柄にしたのは、カイとウミからの申し出だった。2人も頑張ったからという事だった。カイとウミには代わりに俺がしっかりと撫でるご褒美を与える事にした。
何故か、シロが羨ましそうな表情で見ていたが、撫でて欲しければそう言えば撫でてやるのに、シロは言ってこないのだよな。
オリヴィエやリーリアは、問題なさそうだ。
カイとウミとライは聞くまでもない。
ステファナとレイニーは少し疲れが見えているのだが、シロが行くと言えば間違いなくついてくる。
そして、肝心のシロだがすでに武装を整えていつでもダンジョンアタックに行けるような出で立ちになっている。
「わかった、わかった、シロはすぐにでもダンジョンに行きたいのだな」
「カズトさん。僕・・・」
「いいよ。ステファナ。レイニー。問題ないよな?」
「はい」「もちろんです」
「よし、明日の朝にロックハンドを出てダンジョンに向かう」
ロックハンドから、ユーバシャールに向けての道もすでに作り始めている。
途中に橋頭堡となる”道の駅”も作成する事にした。魔の森は、魔物たちが自由に移動できるように、道は少し手間だが高架にする事にした。高さは、魔の森の木々を超えるように指示を出している。橋頭堡は、魔の森にそのまま作って、石壁で覆うようにする。SAやPAは今度は作らない。休憩所は作るが、それだけにした。魔の森を、できるだけそのままにしておく事にした。
ダンジョンの攻略に向かうにしては気楽な感じだ。
ダンジョンの入り口はすでに、眷属達が作成した柵によって隔離されている。
「さて、フォーメーションはいいよな。レイニーとオリヴィエが前衛で、次が俺とシロ、次がエリンとステファナとリーリアが続いて、最後尾をカイとウミとライが守る」
気合を入れて入ってみたが、退屈極まりない。
5階層までは、レイニー1人で十分駆除出来る。途中から、オリヴィエとステファナが入れ替わって、前線をレイニーとステファナで支える事になった。
「旦那様。手応えがありません」
「奥様。もう少しお下がりください」
2人ともこんな感じで、余裕でさばいている。
技量も上がった事もだが、固有スキルが強くなってきた事も影響しているのだろう。
ダンジョンの広さはそれほどでもないが魔物が多いのが面倒だ。
チアルダンジョンとも旧ペネムダンジョンとも違うコンセプトの様だ。道はほぼ一本道なのだが、連続で魔物が襲いかかってくる。
5階層まで来て、魔物が強くなっていれば良かったのだがそうなる気配はない。
「レイニー。どうだ?」
「旦那様。余裕です」
「ステファナも余裕そうだな」
「はい。問題ありません」
確かに大量の魔物が出てくるから対応を間違えれば一気に囲まれてしまう。
しかし、ここはダンジョンなのだ。それほど広くない通路に大量の魔物を配置しても、囲まれなければ対処は可能だ。疲労が溜まってくる事を考慮すれば有効な手段だとは思う。
たしかに、このダンジョンは休める場所が存在しない。
存在しないのだが、結界で十分排除できる程度の強さしか無い。
何度か実験してみたのが、結界で十分だとわかった。
「レイニー。ステファナ。今日はこの辺りまでにしよう。何階層あるかわからないから、疲れてから休むよりは、余力がある間に休んでおこう」
「はい」「かしこまりました」
ライに少し強めの眷属を呼び出してもらって、結界を張ってもらう。
これで一安心だ。
さて、ピクニックの時間だ。ダンジョンの中で行う事では無いのは解っているが、人は食事で栄養補給する必要がある。それならば、いついかなる時でも美味しい物を食べたいと思うのはしょうがない事だ。
半分以上開き直って、リーリアに食事の支度をさせる。
その間に、オリヴィエとライで休める場所の作成を行ってもらう。
程なくして、食事の用意が出来る。
同時に、今晩身体を休める場所ができたと連絡が入った。
食事をしながら、明日以降の話をする。
現状は、進むしか無い。どれだけの困難が待ち受けていても、ダンジョンコアに相見えるまで突き進むのみ!
なんて、かっこいい事を言ってから、休んだのだが・・・。
本当に退屈だ。
エリンなんて自分の出番が皆無である事や、魔物が後ろから来ても、ライが片付けてしまうために何もやることがない。歩くのも面倒になってしまって、サイズを大きくしたウミの背中に乗って揺られながら器用に寝ている。
ダンジョンの中を進んでいる雰囲気は皆無だ。
シロも防具を外して、剣だけを持って軽装で俺に腕を絡めながら歩いている。
10階層まで来たら流石にステファナとレイニーではきつくなるかと思ったが、余裕はなくなってきたが、まだまだ討伐はできている。
両者とも固有スキルも付与されたスキルを使い始めている。
そろそろ、対応が難しくなってきたのかもしれない。
「そろそろ休憩するか?」
「もうしわけありません。旦那様。まだがんばれます」
「そうか、皆、今日はここまでにしよう。無理してもしょうがないし、休めるときに休むことにしよう。ステファナもそれでいいよな?」
ステファナは休憩の必要性を感じているようだ。レイニーはもう少し行けるだろうけど、1人ではきつくなるのが解っている。オリヴィエを加えたら余裕だという事も解っているのだろうけど、それでは訓練にならないとも考えているようだ。
呼び出している眷属に結界を張ってもらって、休憩出来るようなスペースを作成する。
結界の中に入って、魔物が入ってこない事を確認したら、ステファナが腰を降ろしてしまった。
「ステファナ。大丈夫か?」
「旦那様。大丈夫です。少し疲れただけです」
「そうか、今日はこの辺りまでにしよう」
「カズトさん」
「どうした?」
「レイニーと少し先を見てきたいのだけれどいいですか?」
どうやら、シロが少し戦いたがっているようだ。
「そうだな。ウミ。ついていってくれ」
『わかった』
「シロ。ウミを連れていけ、あまり遠くに行くなよ。リーリアから夕ご飯ができたら念話で連絡するから、そうしたら戻ってこいよ」
「うん!」
30分くらい経って、リーリアが食事の支度ができたと連絡が入った。
シロ達にも連絡をして、10分くらいで戻ってくるという事だ。
「カズトさん」
「どうした?」
「フロアボスらしき部屋がありました」
ウミとレイニーを見ると肯定するかのようにうなずいている。
やっとフロアボスが出てくるのか?
休憩をとったのは偶然だったが、いいタイミングだったかもしれないな。
「シロ。レイニー。ウミ。ありがとう。今日は、ここで休んで、明日フロアボスの攻略を行おう。流石に、フロアボスも同じ様になっているとは思えないので、少しは歯ごたえがある相手が居ると思う。万全の体制で挑むぞ!」
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