第百四十四話
「大丈夫か?」
シロが少しじゃなく疲れているように見える。
「だ、大丈夫です。少し、人が多くて・・・びっくりしただけです」
「あれ?フラビアとリカルダと一緒に」
アトフィア教では姫様的な立場で注目されるのにはなれているのではないか?
「あっえっ、あっそうです。大聖堂とか大きな場所で、それに僕たちはその他大勢の1人でした」
と、思ったが違ったようだ。
でも、ログハウスや迎賓館では俺の横で注目を浴びているよな?
「それなら、迎賓館やログハウスでなれているだろう」
「あれは、カ、ユリアンさんに皆が注目しているので、視線を感じません」
「そうか?別に、カズトでいいよ。ここなら俺とシロだけだし、盗み聞きするような奴も居ないだろうからな」
「はい。今日は、僕も一緒に見られていて」
「そうか」
「はい。ゴメンなさい」
「責めているわけじゃない。疲れたのなら、疲れたと言って欲しいだけだ」
「はい。少しだけ疲れました」
「そうか、それなら宿で少し寝るか?」
「はい。そうしたいです」
「俺も、汗だけでも拭いてから寝ておく事にする」
「え?」
なぜか、シロが挙動不審になる。
俺が汗を流すのがそんなに不思議なのか?
シロが挙動不審になった理由が宿の部屋に戻って判明した。湯浴みの場所が、脱衣所もなければ仕切りもない、カーテン状の物を掛かっていないので丸見えの状態になってしまっている。
そう言えば、宿に入ってシロの雰囲気が代わったのはこれがわかったからだな。
「シロ!」
「はい!!」
そんなにびっくりするなよ。
「リーリアが大きめの布を持っているはずだから貰ってきてくれるか?」
「わかりました??」
可愛く首を傾げても何も出てこないけど、疑問に思っている事は答えてやれる。
「湯浴みするときに、お湯が周りに跳ねないように上からかけておけばいいだろう?」
「わかりました」
あきらかに残念な雰囲気を出しているけど、恥ずかしくて挙動不審になっていたのではないのか?
「シロ。もしかして、拭いてほしかったのか?」
「ち、違います。僕が、カズトさんを、その、あの、ですね」
「わかった、わかった、そんなに慌てなくてもいいよ。俺は疲れたから、シロに拭いてもらうつもりだよ」
「わかりました!」
お嬢様だったのだろう?
拭かれる方を望むのかと思ったのだけどな。シロが挙動不審だった理由もわかったし、ファビアンが訪ねてくるのをただ待っているのも暇だから丁度いいかもしれないな。
でもさっきの口ぶりから、そんなに遠くない未来に訪ねてくることも考えておいたほうがいいかもしれないな。訪ねてきたら待たせておいてもいいのかも知れないな。
部屋から出ていった、シロが戻ってきた。
リーリアから布を貰ってきた。一緒に、ステファナが付いてきた。レイニーも一緒のようだ。
「ん?」
「旦那様。奥様の湯浴みは、私たち手伝いたいのですがよろしいですか?」
「そうだな。頼めるか?もともと綺麗だけど、汗で汚れているかもしれないからな隅々まで頼むな」
「はい!かしこまりました!」
「カズトさん。僕、綺麗?」
「綺麗だよ。すごくな」
湯浴みの場所を見るけど、二人では入れるけど、三人では難しそうなのだよな。
「そうだ、シロ。レイニーから昼間の事を聞いていいか?」
「昼間?」
「あぁグレゴールたちがどうやって奴らを始末したのかを聞いておきたいからな」
「わかりました。レイニー。カズトさんに説明して」
「かしこまりました。奥様」
レイニーがシロに頭を下げる。
シロとステファナは湯浴み場に移動して、布を上からかける。
「なぁレイニー。あの布はリーリアが渡したのか?それとも、ステファナが選んだのか?」
レイニーが布を見る。
「奥様がお選びしていました」
「リーリアが誘導したのか?」
「いえ、リーリアは、奥様がお選びした布では、その、透けてしまうかも知れないからとおっしゃって、見事に予想は当たりましたね」
「あぁそうだな。はっきりとじゃないが透けているな」
「はい。もうしわけありません」
「いいよ。レイニーが謝る事じゃないし、シロが自分から選んだのだからな」
「あっ!それで、旦那様。昼間の事でしたね?」
「それは別にいいよ。レイニーとステファナを信頼しているから、奴らを捕らえたのだろう?」
「はい。間違いありません。容赦なく首を刎ねようとしたのを止めました」
「そうか!でも」
「どうかされましたか?」
なんか違和感がつきまとう。首をいきなり跳ねるとか、余計に違和感が強くなる。レイニーが俺に嘘を付く必要性は皆無だから、本当の事だろう。
なら余計に不思議に思えてしまう。なぜ、
そして、なぜグレゴールたちは俺に
気にし過ぎだろうか?
「レイニー。俺の考え過ぎなら指摘して欲しいのだけど」
レイニーに俺の疑問点と違和感を話した。
「旦那様。申し訳ありません。ステファナが似たような疑問を話しております」
「そうなのか?」
「はい」
「あまりにも都合が良すぎると言っていました」
「そうだよな。全部、俺たちに都合よく流れているのだよな。宿を決めた、吸血族との接触はできているのか?」
「オリヴィエが探しては居るようですがまだ接触ができていません」
「まずは、そこだよな?」
「はい。それに、リーリアが門の前であった老婆を気にしています」
「そうか、あの老婆の正体が結局ハイエルフという事以外解っていないからな」
愛おしい
そう思っても、チアル大陸の事があるのだよな。俺が責任を感じるのは、そう多くない。非情と思われるかも知れないが、カイとウミとライとエリンとノーリとリーリアとオリヴィエと眷属たち、それにシロとフラビアとリカルダとステファナとレイニーとギュアンとフリーゼぐらいだ。多くはなっているが、この者たちが望むかはわからないが、最悪はチアル・ダンジョンに籠もって、ログハウスで迎撃作戦を取れば撃退できるだろう。
クリスとルートガーは自分たちでなんとかしてくれると思いたい。
「旦那様。どうされるのですか?」
「まずは、情報だな。ファビアンが持ってくるであろう情報と、オリヴィエとリーリアが探った情報に差異がなければ、当面の行動方針を考える事ができる」
「情報が違ったら?」
「ん?そうだな。俺は、オリヴィエとリーリアが持ってきた情報を信じる。違いがどうして生じたのかを調べれば、そこが突破口になるかも知れないからな」
「はい」
「それに、シロはあてにできないけど、ステファナとレイニーの直感は信じているからな。何かおかしいと思ったら言ってくれ」
「はい!」
シロの湯浴みが終わったようだ
シロとステファナの声が聞こえてくる。
湯浴みしている時の声も聞こえていたが、今はそれ異常にはっきりと聞こえる。
「ステファナ。本当にこれで間違っていない?」
「はい。大丈夫です。リーリアも私もそれで間違っていないと思っております。旦那様を拭いて差し上げるですから、奥様。このくらいは致しませんと旦那様が他の女性に目を移されてしまいます」
「それは嫌だ。でも、僕恥ずかしいよ」
「奥様。布を選んだ時のお気持ちをお忘れですか?」
何をしているのかな?
声が丸聞こえなんだけど・・・。
「旦那様。申し訳ありません」
レイニーが頭を下げる。
「いやいいけど、あれはいいのか?」
「問題ないと思います。ステファナは、奥様の事で頭が一杯になってしまっているのです」
「え?なんで?」
「旦那様と奥様の種族のお話をされましたよね?」
「ヒュームのことか?」
「はい。それで、あの、その」
「怒らないから教えて欲しい」
「はい。旦那様と奥様のお子に里を訪ねて欲しいと言っていまして」
「ハハハ。それこそ、先の話でいいのではないか?」
「そうなのですが、ステファナの密かな願いが有りまして」
「それは、俺が聞いてもいいのか?」
「問題ないかと思います。ステファナとしては、自分を捨てた里に、自分が如何に偉大な人に仕えているのかを知らしめたいのでは無いかと・・・」
「そうか、それなら、今の態度もまぁ許せるかな」
「え?よろしいのですか?」
「ん?ダメじゃないよ。俺たちができる事なんて些細な事だろうからな。エルフの里というよりも、ハイエルフには会いに行きたいし、カイとウミの里にも行きたいからな。そのついでに、ステファナの産まれた里によるのも問題ないだろう?その時までに子供ができているかはわからないけど、できていたら、ステファナが抱きかかえるのは自然な事だろう?子供ができていなくても、俺とシロがステファナを大事にしているのは本当の事だからな」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
なぜ二回言ったのかわからないが、感謝してくれているのは嬉しい。
そうか、ステファナの密かな願いという感じなのだな。子供どころか、その前段階だからいつというのは言えないけど、子供ができたら、些細な願いを叶えてやりたいな。
子供ができない時でも、シロと俺とステファナで訪ねてもいいだろうな。
そんな話をしていたら、ステファナが湯浴み場から出てきた。
「旦那様。奥様の準備ができました」
「あぁありがとう。シロは中で待っているのか?」
「はい!私とレイニーはここで下がらせていただきます。よろしいですか?」
「わかった。ありがとう。あっステファナ。リーリアとオリヴィエに情報をまとめておくように言ってくれ、それから、ステファナとレイニーもわかった事や感じた事を二人に説明して意見をまとめてくれ」
「かしこまりました。レイニー行きましょう。旦那様。奥様。失礼致します」
逃げるようにそそくさと部屋を出ていった。
さて、シロがどんな格好で待っているのか気になるから、早く湯浴み場にはいる事にするか。
全裸の状態で入る事にした。服と下着を脱いで、カーテン状にしていた布をめくって中に入る。シロなら見られても困らない・・・よな?
「え?」
「カっカズトさん。あまり、見ないでく、ださい。はず、かしいです」
できても、下着姿かと思ったが・・・全裸で待っているとは思わなかった。
「シロ。すごく綺麗だよ」
「本当ですか?」
「あぁすぐにでも」
「すぐにでもなんですか?」
「押し倒したい」
「え?本当ですか?」
「あぁでも、まだ我慢するよ。そんな今シロを押し倒したら、負けた気分になる」
「カズトさん。僕、本当に、僕で、カズトさん。僕、不安で、す」
「泣くな、シロ、何が不安、そうか、シロ、俺が悪かったな。そのままこっちに来てくれ」
「いいのですか?僕、カズトさんだけじゃなくて、いろんな人を、ヨーンさんやクリスや、けも、のとおもって、それに、僕、呪われて、僕のせいで、みんなが、でも、僕カズトさ、んに惹かれて、止められなくて、いいのですか?」
狭い場所だが、シロを抱き寄せた。なにかスイッチが入ってしまったかのように支離滅裂になってしまっている。
不安にさせたのは、俺がはっきりと態度で示さなかったからだろう。俺は、シロがアトフィア教の教皇の孫でもかまわない。シロが、シロで有ることが大事だと思っていた。
俺が選んだのはシロだ。
シロを抱きしめた。
「シロ。泣くな」
「グスン。だって、こんかいだって、アトフィア教の、教皇がうらで、あのそれに、僕が居るから、カズトさんが」
「大丈夫だ。シロ、今回もアトフィア教は関係ない、それに、シロ、お前は俺の伴侶だ」
「う、ん。でも、僕の血はきた、ない。けがれているって」
「誰が?そんな事を言った?」
「・・・」
「シロ、シロは汚れてなんか居ない」
誰がシロを!
ダメだ、今は、シロを見ろ、シロの事だけを考えろ!
「カズトさん。僕のこと」
「あぁ好きだよ。愛している。こんなに可愛いシロを手放すわけない。逃げても追いかけてやる」
「うれしい、です」
シロが俺の胸の中に顔を埋める。
柔らかい双丘を押し付けてくる。こっちの世界では当然なのだろうか?髪の毛以外の毛は全部剃り落としているようだ。
どのくらいそうしていたのかわからないが、シロが俺の心音を聞いているのがわかる。
抱きしめる腕に力を込める。やっと少しは落ち着いたのだろう。
「カズトさん。僕、カズトさんの汗、拭かないとですね」
「あぁそうだな。その前に、シロ。下着くらいつけないか?」
「え?ステファナからは、全裸でやるのが夫婦だと教えられました。フラビアとリカルダにも同じ様に言われています」
「それは、そうだが俺が落ち着かないから、下着をつけてくれると嬉しいかな」
「・・・そういう事なら、このまま全裸でやります。カズトさんが、僕を見て落ち着かなくなるなんて貴重な事です!」
「恥ずかしくないのか?」
「すごく恥ずかしいです」
「それならな!」
「イヤです」
「わかった、わかった、なんでも一つシロがしたい事を言え、叶えられる事なら叶えてやる」
「本当ですか?」
「あぁ二言はない」
「・・・・(キスして)・・・・」
「ん?なに?」
「えぇ絶対に聞こえていましたよね」
聞こえていた。抱きしめて、目の前に顔があるから、聞こえないはずがない。
声が恥ずかしさと緊張で声がかすれていても、口の動きでわかる。”キスして”とおねだりしてた。
可愛いから、照れた顔をもう一度見たくて、聞こえないふりをした。
「シロ?」
「絶対に聞こえていましたよね?もぅいいです!このまま全裸でカズトさんの事を拭きます!大きくなっている所も丁寧に触って綺麗にします!もう僕遠慮しません!カズトさんがしてくれないのなら!!自分で迎い入れます!大丈夫です。教えられました!痛いかもと言われましたが我慢します!」
「悪かった、シロ。悪かった」
「もう知りません。ダメです!」
シロが離れて後ろを向いた、狭い場所で後ろを向いて、床に置いている桶から濡れた布を取り出す。それがどういう格好なのか、想像してみればわかると思う。かなり際どい格好になることは避けられない。
このままでは流されてしまうのは間違いないのだがそれは絶対に避けたい。解っている。シロも気持ちでは解っているだろう。だからこそ、感情に流されるのでは無いほうがいい。
後ろを向いた状態のシロを、後ろから抱きしめた。
「シロ、ゴメンな。あまりにも、可愛かったからからかいたかっただけだよ」
「しりません。僕、頑張ったのですよ」
「そうだな」
シロの首に腕を回して、後ろから優しくホールドする。シロも身体の力を抜いて、腕に手を添えている。肩越しに双丘がギリギリ見えなく位のサイズだが、後ろから抱きしめたときに柔らかさは実感した。育っているのかはわからないが、十分柔らかい事はわかった。
訓練も欠かさずに行っているので、絞まる所はしっかりと絞まっている。食事事情も関係しているのだろうけど、もともとの柔らかさは維持できているようだ。
そして、今更ながら、女の、雌の匂いが鼻孔を擽る。香水ではなく、シロ本来の匂いなのだろう。それとも、俺がシロに惚れていて、フェロモンを感じてしまっているだけなのか?
「シロ」
「は、い」
今更ならが自分が言った事を思い出したのだろう、耳まで真っ赤になっている。
「シロ。愛しているよ」
「カズトさん。僕、カズトさん」
シロが身体を反転させて、こっちを向く。
少し身長が足りないけど、シロの顔を頭を少し後ろから固定して、唇を重ねる。
少し、びっくりした雰囲気がシロから伝わるが、腕を俺の首に巻きつけて、自分からも唇を押し付ける。
俺の頬にシロの涙が伝わってくる。
こんなに不安にさせていたのだな。大切にするという事を、俺は勘違いしていたのかも知れない。ヨーンたちが正しいとまでは言わないけど、もう少し意見を聞いたほうが良かったのかも知れないな。
一度、唇を離した。
「カズトさん。僕、カズトさんの傍に居ていいのですね」
「当然だ。俺はシロ以外は必要ない」
「うれしい」
今度はシロが首にまわしている腕に力を入れて、自分から唇を合わせてくる。
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