第百二話

/*** カズト・ツクモ Side ***/


 あきらめの気持ちで、会議室で待っていると、スーンがやってきた。


「大主様」

「どうした?」


 スーンは俺の正面に立って一礼した。


「今日は、お休み頂きたいのですが、お疲れだとは思いますが、大主様の領地を汚した者たちへの罰則をお決め頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」


 そうだよな。もう夜に差し掛かる時間になるのだし、現実的には明日にしたほうがいいだろうな。


 スーンや眷属達にしたら、アトフィア教の連中は一秒でも俺たちの領地内に居てほしくないのだろうし、実験区の実験に使うなら、使える時間を増やしたいのだろうな。


「スーン。ゴミどもはどのくらい居る?」

「はっ既に実験区に入っている者も含めてでしょうか?」


 あぁ怒りに任せて殺しかけた奴らの事か?


「いや、それはいい。判断しなければならない奴らだ」

「総勢、1,783名です」

「は?」

「1,783名です」

「なぜ?」

「”なぜ”とおっしゃられても、大主様がなるべく殺すなとおっしゃいましたので、捕らえる様にしておりました」

「食料とかは大丈夫なのか?」

「はい。大丈夫でございます。自分たちで作らなければならない状況をわからせました」


 自分たちで作らなければならない状況か・・・。まぁその辺りは任せることにしよう。

 アトフィア教の奴らだけじゃなくなっているからな。本当なら、鉱山辺りに放り込んで、永遠と作業をさせるほうがいいのだろうけど、俺たちの場合には、アント系が居て安全に採掘出てしまう。


「わかった。それで、問題になりそうな奴らは?」

「ご命令に有りました、隊を率いていた者たちとその側近らしき者たちです」

「数は?」

「7名です」


 さて、解放する奴らは決まった。

 第一陣では、負け戦の報告をさせる為に送り出した奴らもそろそろ到着するだろう。


「わかった。そう言えば、アーティファクトは?」

「ここにございます」


 本当に、スーンは優秀だな。

 アーティファクトを鑑定してみる


 レベル5振動とレベル4拡大が付いているのか?

 両方とも初めて見るスキルだな。


 抜けるか・・・?抜けてしまった。

 スキルを複写できるか?やった事が無いけど・・・アーティファクトに抜いたスキルカードを当てながら、固有スキル創造の複製を念じる。魔力が抜けていく。アーティファクトを見ると、スキルが付与されている。回数制限有りだが成功した。

 それなら、拡大も同じ様にできるだろう。


 アーティファクトから、スキル振動とスキル拡大を取得して複製した。

 これで、偽アーティファクトが完成した。別に、驚異でも何でも無いから、回数制限有りだったスキルを一度抜いてから、固有化スキルで付与する。元々がアーティファクトであったためか、スロットが3つあってスキルを付与しても、まだ余裕がある。


 そうだ!探してみたが、手持ちにはなさそうだ。


「スーン。スキル目印は用意できるか?」

「はい。大丈夫でございます。何枚必要ですか?」

「1枚でいい」

「かしこまりました」


 5分位して、スーンの影から、ビーナ種が一匹出てきて、スーンがスキルカードを受け取っていた。


「大主様」

「あぁありがとう。ビーナもありがとう。手間かけた」


 人が殺せそうな羽音を出しているので、喜んでいるのだろう。

 そのままスーンの影に戻っていった。


 アーティファクトに目印を付けておけば、万が一・・・なにかの間違いで、総本山に行くような事があったら、宝物庫とかに忍び込めないかな・・・なんて・・考えていないこともない。正直な思いとしては、アトフィア教から迷惑料をもらわないとやってられない!


 スキル目印を付与して、偽装を施して持って帰らせればいい。

 開放するのは、実験区に居る奴らのなから始末しても問題ないような奴らを、スキル変体で姿を変えて、偽装で名前やスキルを変えて、リーリアに操作させればいい。


 聞いている話だと、紛争時に捕らえられると開放すれためには、身代金の支払いが一般的だという事だ。スキルカードは、その者の身分に依存するが、交渉する必要がある。その交渉の場に、本人達を連れて行くのもよくある話だと言っていた。


 そこで、操作されている者を使者に見立てて、確保している”豪華”な船で送り出す。


 あとは、船底に偶然見つけた”武器”で副隊長達が使者を殺して、船を乗っ取ってくれれば話は終わる。

 スキル変体は、死んでしまってから暫くしてから解かれる事も実験で判明している。ちょうどよいスキルになっている。


 使者に仕立てる奴らは、心が壊れてしまった、司祭たちに任せる事にしよう。

 どうせ、死ぬだけなのだから、仲間に殺されたほうがいいだろう。そして、死んでしまった聖騎士や司祭や準聖騎士を有効利用する。ボロボロの船で、ロングケープ街近くで捕らえた者たちが総本山に遺体や遺髪を運んでもらう。全員準聖騎士で、司祭や聖騎士は全員殺した。アトフィア教の教会で非道を犯した奴らも殺した。獣人に不平等な商売をしていた奴らや奴隷商も殺した。ほぼ見せしめだ。それらの遺体と共に総本山に向かってもらう。それが、準聖騎士たちを開放するときの条件にしている。


 負け戦は既に伝わっているのだろうが、これでどれだけ酷い状況だったのかが伝わるだろう。


 その上で、”副隊長が裏切った”と、情報を持って帰ってもらおう。


 そして、”裏切り者の副隊長は、獣人の街の軍門に下って、総本山から情報を流す事を約束している”という情報を持って帰ってもらう。副隊長たちを捕らえた司祭や聖騎士が後日こちらに向かって来る事も情報として伝わる事にしておく、もちろん捕らえた司祭や聖騎士は心が死んでしまった者たちだ。


 疑心暗鬼になってくれればいいし、なってくれなくても問題はない。


 邪魔な副隊長を始末する手間をアトフィア教の総本山に任せる事ができる。

 穏健派がほとんど滅んだと思っている枢機卿に副隊長派閥の連中が裏切っていると思わせれば大成功だ。そうならなくても、裏切る可能性がある者が多数いると思わせる事ができれば十分だし、そこまで行かなくても、外に向いていた目をもっと内側に向けてくれるようになれば俺たちの勝ちだと言えよう。


 これらのことを説明して、スーンに実行の指示を出す。

 スーンからは、操作はリーリアではなく竜族で操作ができる者が居るので、その者にやらせたいという事だったので、許可をだした。


 約2,000にも膨れ上がってしまった実験区をどうするかだよな。

 ダンジョンの中のほうが監視する事から考えても都合がいい。問題は、運用面だけなのだよな。


「スーン。実験区は問題はないか?」

「そうですね。実験内容がなくなってきています。今は、継続観察が必要な物だけになっています」


 そうか・・・

 繁殖できないように男は女に、女は男にスキル変体をかけているのだけど、それ以外の実験もそろそろなくなってしまいそうだよな。スキルの使い方もだいぶわかってきたし、効果範囲や時間なども予測ができるようになってきているからな。

 最終的な検証実験だけになっているからな。


 スキル以外の実験も始めたほうがいいかも知れないな。


「スーン。実験区だけど、薬草の効用や、毒物の効果を調べる様にしてくれ」

「かしこまりました」

「どうした?」

「はい。薬草や毒物ですと、スキル変体を解除する必要があると思います」


 そうか、スキル変体の影響なのか、それとも薬草や毒物の効果なのか判断できないという事だな。


「わかった、それは許可する。男女別々にして性行為を行わせないようにしろ、それが絶対条件だ」

「かしこまりました」


 男同士や女同士なら問題ない。

 子供さえできなければいいと思っている。


 薬草や薬物や毒物に関しては、スーンが一度まとめてから報告を聞いてから、実験の優先順位を決める事になった。


「大主様。明日はどういたしましょうか?」

「そうだな。皆からの話が有るのだろう?」

「・・・はい。ぜひお聞きいただければと思いますが、大主様のご予定を最優先するように調整いたします」


 シロたちとの話があるけど・・・流石に、今晩は俺が面倒に思えるし、少し位落ち着いて考える時間が必要だろう。


「わかった、今日は洞窟で休む事にする。明日昼過ぎにログハウスに集まるように言ってくれ」

「かしこまりました・・・。しかし」

「どうした?」

「はい。本日居た者の中に、ログハウスに招いていない者が多数います。どういたしましょうか?」

「かまわない。お前たちが”護衛”として1人に1人づつ付けば問題ないだろう?」

「はい。その様に手配いたします」


「あっスーンは、俺の横に居るようにしろ」

「かしこまりました。大主様」


 スーンが一礼して部屋から出ていく。

 広い部屋の中で俺だけになった。転移門まで移動して、居住区に移動して、洞窟に戻る事にするか。


 別室で寛いでいた、カイとウミとライに声をかける。

 エリンも居たので、エリンも連れて洞窟に向かう事にした。


 結局1ヶ月近くかかってしまったが、無事に帰ってこられた。港まで得られてしまった。ロングケープ街に関しては、これからの話し合いだとは思うが、これが上手く行けば、この大陸の大動脈を抑える事ができるのだろう。


 サイレントヒルとブルーフォレストとヒルマウンテンを中心にしたペネム街。話によれば、この大陸のほぼ中央だという事だ。ペネムの話を信じれば、古いダンジョンであるチアルが存在しているという事だ。チアルが何ができるのかわからないが、ペネムから考えるとかなりの事ができるのだろう。


 この星?は、いくつかの大陸が存在している。

 リヒャルトが持っていた大陸図を見せてもらったのだが、中央に大きな大陸があり、その周りに7つの大陸が有るらしい。俺たちが居る大陸はその7つの大陸の一つだという事だ。


 ロングケープ街からは、隣の大陸に行く為の航路が形成されている。ロングケープ街から行ける大陸がアトフィア教の総本山がある大陸になっている。

 1番大きな大陸は、ほとんどが未開の地で何が有るかさえも判明していないという事だ。小さな集落や街は存在しているらしいので、大きな大陸に向かう港街もこの大陸にはある。

 ヒルマウンテンの反対側に、ペネム街ができる前まで、この大陸で1番大きいと思われていた街がある。


 まずは足場を固めないとな。

 今回飲み込んだ街はロングケープ街だけだが、街道の手配ができるだろう。サラトガから行ける街との交易も本格的に始めたいと思っている。どんな街なのかリヒャルトが帰ってきたら教えて貰おう。


 今日は精神的に疲れた。

 エリンはお風呂に入ってきて、ベッドで寝息を立て始めている。


 俺も久しぶりにゆっくり風呂に入って、休む事にしよう。

 少しじゃなく眠くなってきたけど、風呂だけは入っておきたいからな。


 あ!!実験区で、シャンプーや石鹸の実験をしてもいいな。


 スーンに連絡だけしておけば覚えておいてくれるだろう・・・。


--- 翌朝


 ゆっくりと目を開ける。

 エリンはもう起きているようだ。ベッドから抜け出して、今日の当番になってるドリュアスになにかをねだっている。


 俺も起き出して、エリンたちが居る場所に移動する。

 今日は、スーンも来ているようだ。


「大主様。おはようございます。昨晩のお話の資料でございます」

「はやいな。執務室の方に置いておいてくれ、向こうで見る」

「かしこまりました」


 スーンが一礼して出ていく。

 ログハウスに向かうようだ。


「エリン。今日どうする?俺は、少し一日会議とかになりそうだ」

「うーん。パパと居る!」

「そうか・・・シロやフリーゼたちの所に行ってもいいぞ」

「うーん。エリン。シロお姉ちゃんと居る事にする!」


 ギュアンとフリーゼの家を展開してもいいかも知れないな。


「そうだ、エリン。俺のお願い聞いてくれないか?」

「いいよ?なに?」


 ライを連れて、シロたちの所に行って、ギュアンたちの家を池に面する場所に展開して欲しい事と、その後でシロたちを連れて、ペネム街に向かって、案内して欲しいとお願いした。


「わかった!パパ。シロお姉ちゃんを案内するね」

「あぁ頼む。そうだ・・・ウミ!エリンと一緒に行ってくれ。お前が一緒なら安心できる!」

『カズ兄。わかった!エリン。一緒に行きましょう!』

「うん。ウミお姉ちゃんと一緒に行く!」


 これで、シロ達の暇つぶしもできるだろう。

 あとで、ウミやエリンから話を聞けば、どういう結論を出したのかも想像できるかも知れない。


 昼めしは、クリスとリーリアとオリヴィエととる事になった。

 ログハウスで待っているという事だ。


 まずは、決裁書類の処理だな。

 溜まっているだろうからな。


 ログハウスの執務室に向かう。俺についてきているのは、カイだけだ。


 執務室には、俺の予想を裏切って、決裁書類の山はできていなかった。

 それでも、少なくなり決裁が溜まっていた。


 初期に名付けしたエントたちが執事服で処理を手伝ってくれた。

 決裁書類が少ないのも即決しなければならない物は、念話で俺に問い合わせしていた件だけで、それ以外は中長期的な物だったので、再提出させる事にしたようだ。

 行政区も上手く回りだしているので、決裁書類が行政区で処理できる物も増えてきた。基本は、”前例にならえ”で進めていたということだ。


 最後に、スーンが持ってきた書類に目を通す。

 薬草と薬物と毒物が書かれている。その中から効用で気になった物と、複数に名前が乗っている物を選んで実験を行うことを指示する。同時に、スキルを併用した場合の効用に関しても調べさせる事にした。


「ご主人様。”らんち”はどこでお食べになりますか?」


 タイミングを見ていたのだろう。丁度書類の確認が終わった所で、リーリアが訪ねてきた。

 久しぶりだから五稜郭の花畑で食べる事にして、ドリュアスたちにそちらに料理を用意してもらう事にした。


 それにしても、ランチといい出したのは俺だけど、定着するかな?

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