第十章 統一

第百一話

/*** カズト・ツクモ Side ***/


 いつの間にか寝てしまったようだ。


 朝起きて思い出すまでに少しだけ時間が必要だったが、大丈夫ボケるほどではない。


 シロと一緒のベッドで寝た。不可抗力だ。

 それではなぜ。エリンが俺とシロの間に居る?それも、エリンがシロに抱きついて寝ているのだ?


 こっそりとベッドから抜け出す。

 シロもエリンも起きない。フラビアはまだ寝ている・・・が、未婚の女子としては少々だらしない格好である。リカルダは起きて居た。ニコニコ笑っているように見える。


「リカルダ!」

「おはようございます。ツクモ様」


 何事もなかったかのように振る舞いやがって!


「お前、わかっていたよな?」

「何がですか?」


 あっダメだ。

 これ以上踏み込むと地雷原を歩く事になりそうだ。


「・・・あぁもういい。それよりも、フラビアは大丈夫なのか?」

「さぁどうでしょう」


 まだ怒っているようだ。

 フラビアが起きたら一悶着ありそうだし、シロ・・・起こしたら、それはそれで面倒そうだ。


 よし!戦略的撤退。


「リカルダ。俺、馬車を見てくるから、皆が起きたら食堂に集まるように言っておいてくれ」

「かしこまりました。シロ様にもよぉーく言っておきます」

「・・・あぁ頼むな」


 急がないで、でも、なるべく急いで部屋を出る。

 俺が扉を締めたと同時位で、リカルダがフラビアを起こす声が聞こえてきた。


 しまった、エリンとギュアンとフリーゼを連れ出せばよかった。


 階段を降りていると、後ろから、エリンとギュアンとフリーゼが駆け寄ってきた。カイとウミとライも一緒だ。

 リカルダから、俺が下に行くから一緒に行くように言われたらしい。


「エリン。ギュアン。フリーゼ。朝ごはんでも食べに行くか?リカルダとフラビアとシロは話し合いたい事が有るらしいからな」


 1階に降りると、宿の主人に呼び止められた。

 どうやら馬車のメンテナンスが終わったらしい。値切り交渉も面倒なので提示された値段のスキルカードを支払う。


 馬車は綺麗になっていた。壊れていた部分は無かったようだが、傷んでいた部分の補修をしてくれたようだ。

 ウミは、馬車で待っているという事だ。ギュアンとフリーゼは、外に放しているノーリ達の所に行きたいということだ。カイとライが一緒についていく事になった。


 俺とエリンだけで朝ごはんを食べに行くのもなんか変な感じがしたので、宿屋の食堂で済ませる事にして、食堂に戻った。


 食堂で空いている席に座る。

 なにか袖を引っ張られる感触に後ろを振り向くと、シロが袖を引っ張っていた。


「シロ!」

「うぅぅぅカズトさぁぁん」

「どうした?リカルダに怒られたのか?」

「ううん。違う。起きたら、誰も居なかったぁぁ」

「え・・・あっうん。寂しかったのか?」

「うん」


 何故か妙に可愛い。

 どうした?


「怖い夢でも見たのか?」

「ううん・・・すごく嬉しい夢・・・でも、誰も居なくて、僕捨てられたと・・・グスン」

「嬉しい夢?」


 袖を掴むのはやめないのだな。


「シロお姉ちゃん。子供みたい!」


 エリン・・・それ、多分、今・・・言っちゃぁダメなやつだと・・・


 顔を赤くして、肌が白いから余計に赤くなるとわかりやすいのだよな。


「シロ?」


 あっ目が覚めたのか?

 意識が少し戻ったのか?


「ううん。なんでもないです。カズト様!」


 そう言って、袖を離して、空いている席に座る。


 丁度従業員が注文を受けに来た。

 朝に食べられるメニューは1種類のみだと言っていたので、3人分を頼むことにした。


 ふと横を見ると、リカルダとフラビアがこっちを見ていた。

 上で話をすると感情的になると判断したのだろう。だから、シロは起きた時に誰も居なくて夢とのギャップで寂しくなってしまったのだろうか?フラビアやリカルダを探すのではなく、俺を探していたのか?それとも、たまたま見つけたのが俺だったのか・・・まぁどちらでもいいか・・・。


 食事を取り終わって、リカルダとフラビアを見る。俺を見ているので、手招きする。

 二人はいそいそという感じでこちらのテーブルに合流してきた。


「「ツクモ様。申し訳ありません」」

「ん?別に怒っていないし、昨晩何が有ったのかまるで覚えていない。それでいいよな?」


 フラビアもリカルダも、シロを見る。シロが”ぼっ”と音が聞こえそうな勢いで赤くなる。


「シロお姉ちゃん。どうしたの?顔真っ赤だよ!」


 エリン。それ、今言ってしまうと・・・

 あぁやっぱり


 シロはうつむいてしまった。

 まぁしょうがない。シロの椅子をこっちに引き寄せて、頭をポンポンと叩いておこう。少しは落ち着くだろう。


 本当に、年上か?14歳の男子に頭ポンポンされて喜ぶ16歳。


 エリンは少し羨ましそうに眺めていて、リカルダとフラビアはなぜか安心した雰囲気を出している。


 元々荷物のほとんどはライが持っているので、部屋に置いてあったのは着替えとスムージーを飲んだ時に使った器くらいだ。フラビアの足元を見ると荷物として持ってきているようだ。


「フラビア。荷物は全部持ってきたのか?」

「ツクモ様。その・・・あの・・・」

「ん?どうした?」

「いえ、シロ様が、茹だってしまいますので、頭に置いた手を離してもらえると嬉しいのですが?」


 本当だな。

 落ち着くどころじゃ無いようだ


 シロが、ガバっ頭を上げた。真っ赤な顔して涙を流しそうにしている。

 涙目になるくらい嫌だったのか?


「リカルダ!何を言っている。僕は平気だ。カズト様。僕はぜんじぇん平気ですからね!」


 平気じゃないな。

 ボクっ娘に戻っている。髪の毛を切ってしまっているので、余計にボクっ娘に磨きがかかってしまいそうだ。


「はい。はい。それじゃもう大丈夫だな」


 頭の手をどかす時に、泣きそうな顔をこっちに向けるのはやめてほしい。

 文句が有るのなら、はっきりと言ってくれたほうが対処が簡単にできる。


「あっ・・」

「はぁ・・シロ様も、ツクモ様も」

「なんだよ。リカルダ。言いたい事があるならはっきり言えよ」

なにもありません!あっ荷物ですが、部屋に有ったものは全部持ってきました」

「そうか、ありがとう。まぁお前たちの着替えくらいだろう?」

「えぇそうですね」

「わかった。それならシロが落ち着いたら出かけるか、今から出れば、ペースで考えれば、夕方にはペネムに到着できるだろうからな」


 フラビアもリカルダもうなずいているので大丈夫だろう。

 ライに、念話でノーリと数頭を伴って帰ってくるようにお願いした。ギュアンとフリーゼが連れて帰ってくる事になった。


 宿屋の主人に礼を言って、宿を出る。

 チップは必要ないと言われた。そうだったな。宿屋の料金をサービス料込の値段にするように言っていたのだ。俺が忘れてどうする。


 宿屋の主人が俺の側によってきて

「カズト・ツクモ様。私どもの宿をお使いいただいてありがとうございます」


 そうか、あれだけ”ツクモ様”や”カズト様”と言っていれば気がつくよな


「それにしても、よく俺がわかったな」

「はい。私の父がこのSAの代官をしております。その関係で、私も一度拝謁させていただいております」

「そうだったのか?それはすまない」

「いえ、私どもから見たら、ツクモ様は唯一でしたが、ツクモ様から見たら、私たちは沢山拝謁していた者の1人だったと思っております」

「それでも・・・な」

「あっそれでどうでしたか?私たちの宿のサービスは?拝謁の時に、”自分だけ特別扱いするな”と言われておりましたので、大部屋になってしまいまして」

「あぁそれは別に気にしていないし、対応も良かったと思うぞ、食事も美味かったからな」


 明らかに安心した表情と雰囲気を出す。

 昨日の夜からチラチラ見られていたのは、俺が怒っていないか気になっていたのだろうな。特別扱いされていたら怒っていたかも知れないけど、他の客と同列に扱われて怒る事は無い。


「ありがとうございます」

「あぁそうだ。間に合えばだけど、昼に食べられるような物は作っていないか?」

「サンドウィッチでよろしいでしょうか?」

「お!十分だ。適当に頼む。人数が少し多いけど、10人前くらい用意できるか?」

「大丈夫です。少しお時間をいただくことになりますので、馬車までお運び致します」

「頼む。いくらだ?」


「あっレベル4スキルカード5枚になります」

「魔石でもいいのか?」

「大丈夫です。魔石でしたら、レベル4なら3つで大丈夫です」

「へぇそうなのか?」

「はい。ツクモ様が作られた道具のおかげで、宿もかなり楽ができていますが、魔石が足りない状況になりつつありまして、交換比率が上がっております」

「そうか・・・ここ最近の話か?」

「そうでございます。2ヶ月位前から少しですが上がっております」

「わかった。ありがとう。レベル4を3つだな」

「はい」


 申し訳なさそうにしているが、俺としてはレベル4が3つのほうが安く感じる。

 支払いを済ませて、店主に礼を伝えて、宿の外で待っていた、エリンたちと合流して、馬車に向かった。


 まだギュアンとフリーゼは到着していなかったが、宿で昼ごはんを買ったことを告げた。

 10分位で昼飯が届いた。サンドウィッチ10人前だ。かなりの量になってしまった。


 それから、5分位してギュアンとフリーゼがノーリを連れて合流した。


 ギュアンたちも、治療が聞いているのだろう、もう大丈夫だろう。

 適度な運動と、しっかりした食事と睡眠。これだけで、十分元気になれたようだ。心の傷は正直わからない。わからないが、ノーリたちの世話をしている様子を見ると、大丈夫な様に感じる。


 フラビアを手招きした。

「フラビア。ギュアンとフリーゼはどうだ?」

「どう・・・あぁ大丈夫です。夜中に泣き出す事も無いです」

「そうか、ありがとう」

「いえ」


 いそいそとその場を離れるフラビア。まだ気にしているのだろうか?


 ギュアンとフリーゼが御者に座って、ノーリ達が馬車をひいてSAを出る。


「ギュアン。道なりに進めばペネムに着く、頼むな!」

「はい!」


 シロは無邪気に馬車の旅を楽しんでいる。楽しんでいるが、楽しんでいることを悟られたくないのだろう、時折真面目な雰囲気を出す。


 バトルホースは、本当に優秀なのだろう。

 速度的な事もあるが、それ以上に御者の指示をしっかりと守っている。もしかしたら、眷属化した事が影響しているのかも知れないが、これなら商隊が欲しがる理由が解る。

 後ろからついてくる馬車は、当初はフリーゼが御者をおこなっていたが、今はフラビアとリカルダが交代でおこなっている。


 行程が進んでいって、SAやPAを通り過ぎる度に、フラビアとリカルダの表情が固くなっていく。

 気になって、エリンい聞いてもらったのだが、大丈夫という返事が帰ってきた。


 大丈夫ならいいのだけどな。


 昼休憩の為に、PAに立ち寄った以外は馬車の中で過ごしていた。

 PAではバトルホースを売ってくれと商人に詰め寄られたが、PAの代官が俺のことを覚えていて、その商人を連れ出した。些細な事では怒らないと思うが、うざいことには違いはない。それ以上に、あまり俺に対して舐めたことをいうと俺が許しても、後ろに居るカイとウミが怒り出すかも知れない。エリンもだ。止められるとは思うが余計な手間をかけさせてほしくない物だ。


 バトルホース達に水と食べ物を与えて、ギュアンとフリーゼがバトルホースたちの世話をしている。

 二人がこのままペネム街に残ると決まったら、バトルホースの牧場主でもやってもらおうかな?慌てる事はない。宿区・・・ログハウス・・・どこに連れていくのが正解なのだろうか?そこで、話を聞いて決めればいいよな。


 ペネム街が近づいてきた。

 忘れていたわけではないが、思い出したくなかったことを思い出してしまって気が重い。


 俺が出した指示だからな。皆、それに従ってくれた。そして成果を出しているのだろう。


 予定通り、暗くなる前にペネム街に到着した。

 スーンに念話で到着時間を伝えていた・・・のは、確実に失敗だった。


 凱旋じゃないし、もっと静かにできるだろう?


 街道の両脇を、エントとドリュアスが並んでいる。

 ペネム街の外周に作ったお堀にかけた門の前で、ミュルダ老やシュナイダー老だけではなく、獣人の長達が勢揃いしている。リーリアとオリヴィエだけではなく、クリスの姿やクリスの従者たちも勢揃いしている。


 ギュアンに言って馬車の速度を落とさせる。


『スーン!』

『大主様。ご無事のご帰還心より喜びを申し上げます』

『なんだこの派手な出迎えは?』

『派手ですか?』

『派手だ。それに、竜族まで空を飛ばす必要はないよな?なんだあれは練習でもしたのか?綺麗に並んで飛んで居るだけじゃなくて、ブレスを綺麗に合わせているよな?』

『あれは、エリン様の出迎えです』

『ほぉ・・・エントやドリュアスたちは?』

『街道の警護です』

『いつもやっているわけではないよな?』

『はい。本日は”バトルホース”なる魔物が大量に、ペネム街・・・大主様の街に攻め込んでくるという情報がありまして警戒しておりました』


 ダメだ。スーンに口喧嘩で勝てそうにない。


『スーン。それなら、ミュルダ老やシュナイダー老は居てはダメだろう?クリスも居るよな?』

『ミュルダ殿やシュナイダー殿は、エントやドリュアスの戦力が不明確なので、バトルホースとの戦闘を見学したいという事で、安全の為に、リーリアとオリヴィエに護衛を頼んだ次第であります』

『クリスは?』

『クリス様は、たまたま従者たちと採取の依頼を受けて帰ってこられた所でございます』

『ほぉーー?スーンは、全部偶然だといいたいのだな』

『はい。そうでございます。私だけが、大主様のお迎えに上がったのですが、偶然皆様と一緒になってしまったのです』


 もう何を言ってもダメだろうな。

 まぁエリンも喜んでいるし、カイとウミも当然という様な雰囲気だし、ライ・・・は、バッグの中で寝ているな。


 シロは唖然としている。ギュアンは何が起こっているのか理解できていない雰囲気があるが、とりあえず落ち着けと言ってある。

 ノーリたちは、ライを通じて、スーンたちとの連絡にも成功しているのだろう。落ち着いたものだ。


 門の前で馬車が止まった。

 俺が馬車から降りて、門まで歩く。隣には、エリンを肩にはウミを足元にはカイが大きな姿でついてきている。


 ミュルダ老が一歩前に出てくる。

 そして、手前3m位の所で立ち止まって跪く。その場に居る皆が一斉に跪く


「カズト・ツクモ様。お帰りなさいませ!」


 練習でもしていたのだろうか、皆が声を合わせて

「「お帰りなさいませ!」」


 門の奥を見ると、ペネム街の獣人やら冒険者がこっちを見ている。


 これは、俺がなにか言わないと終わらない雰囲気がある。


『おい。スーン。何を言えばいいのだ?』

『大主様。一言、”ご苦労”で大丈夫でございます』


 え?それでいいの?

 偉そうじゃないの?


 スーンがいうのだから間違っては居ないと思いたいよな。


「ご苦労」


 やっぱり少ない。


「皆。ただいま」


 え?違うかな?


「ペネム街含めて無事で良かった。皆ありがとう。報告は後で聞く。それから、皆悪かったな。勝手な行動をしてしまった。謝らせてほしい」


 ミュルダ老が顔を上げて


「ツクモ様。我らは、ツクモ様に従うと決めた者たちです。ツクモ様のなさりたい様にして下さい」


 そう言っても、リヒャルトの話から皆が怒っているという話だからな。


 でも、これで間違いではないようだ。

 皆立ち上がって、道を開けてくれた。凱旋じゃないのから・・・と思うけど、もうこの流れは変えられそうにない。


『スーン。馬車とバトルホース達を頼む。それから、シロやフラビアやリカルダを頼むな』

『はい。どういたしましょうか?』

『宿区に空きはあるか?』

『ございます』

『シロとフラビアとリカルダとギュアンとフリーゼは宿区に頼む。後で話を聞きに行くと伝えておいてくれ。それから、確か宿区の近くに川と池が有ったよな?』

『はい。ございます』

『もし、空いている宿が、近くにあったらそこに案内しておいてくれ』

『かしこまりました。丁度、大きくなった池の畔に建てた宿がございます。メイドはどうしましょうか?』

『それは丁度いい。メイドも頼む。一応、客人待遇で頼む』

『かしこまりました』


 これで大丈夫だろう。宿区までの移動は・・・ダンジョンを使えば行けるし、あのくらいの馬車なら大丈夫だろう。


『大主様。バトルホースはどうされますか?』

『ペネムダンジョンで繁殖させようと思う。適当な場所の確保を頼む』

『先日ご依頼が有りました魔水の池を作りました場所があります。そちらでよろしいですか?』

『お!そうだな。ノーリたちに話を聞いてみてくれ』

『はっ』


 やはりスーンは話が早くて助かる。


 凱旋パレードにはならなかったが、俺たちが先頭を歩いて、後ろにミュルダ老とシュナイダー老が続く、その後ろに獣人の長たちが並んでいる。その後ろに、クリスとリーリアとオリヴィエが続く形になっている。

 お前たち練習してきたのだろうという位に、俺たち以外は揃っている。エリンは、リーリアとクリスと手を繋いで歩いている。姉妹に見えてくるから不思議だ。


 自由区から、商業区に入って、行政区に入るまでこれが続いた。

 こんなに住人が居たのかと思えるくらいに人垣ができている。


 歩くだけだが、なぜか拍手と喝采が沸き起こる。

 一部ではなぜか泣いている者も居るようだ。よくわからない心理状態なのだろう。


 表向きの行政区にたどり着いた。

 転移門を使って、本当の行政区に向かう。通された会議室・・・しまった!ログハウスに呼び出す事ができなくなってしまう!

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