第百話

/*** カズト・ツクモ Side ***/


 ミュルダを抜けた場所で、エリンたちが待っていた。合流して、ペネム街を目指す。


 ペネム-ミュルダ街道に出たことで、馬車の速度を上げる事ができる。

 道を整備しているので、馬車の跳ねも少ない。


 その上馬車を引いているのはノーリたちだ。


 何をいいたいのかというと、”高速道路を法定速度以上で飛ばしている”連中と同じ状況になっている。実際に感じるのはそれより酷い状況だ。馬車が自動運転になっているからだ。ノーリに整備された道を走ってくれで済んでしまっている。


 その上、振動が少ない道を進んでいる。

 自然と馬車の中で眠くなってしまう。シロは、寝ているウミに抱きついて寝ている。ギュアンはさっきまで御者の位置に居たのだが、安全だと解ると御者台でウトウトしていたので本格的に寝てしまって落ちてしまったら危険だから中に入れた。

 後ろを走っているエリンたちが乗る馬車も同じ様な状況のようだ。


 途中で通り過ぎる事になったが、俺が思っていた以上にSAとPAは発展している。既に街と言ってもいいくらいになっていた。

 代官たちが競い合って居るようだが、無理だけはしないようにして欲しい。これもペネムに着いたら確認しないとダメだろうな。


 SAやPAを通り過ぎたのは、ノーリたちなら三日三晩走っても問題ないという言われたからだが、水の補給や馬車の耐久も心配だったので、3つ目のSAで休憩してからペネムに向かう事にした。


 SAの中にある宿で落ち着くことにした、ギュアンとフリーゼはノーリたちの世話をしている。馬車は宿の主人に言ったら整備をおこなってくれる者を手配してくれた。明日には整備を終わらせてくれるということだ。


 シロはエリンとSAを見学するとか言って出ていった。疲れていないのか心配になったが、大丈夫なようだ。

 俺は宿でまったり過ごす事にした。部屋の空きが少なかった事から、シロとフラビアとリカルダが了承したので、大部屋を一つ借りる事にした。部屋のランクとしてはかなり下らしく、商隊の下働きが詰め込まれる部屋だと説明された。

 俺は寝られればどこでもよかった。エリンも俺と一緒ならどこでもいい。ギュアンとフリーゼにしたら、このランクでも高級だと話していた。


「ツクモ様。少しお話が有るのですがよろしいですか?」


 リカルダがなにか話が有るようだ。

 神妙な面持ちではなく、なにか諦めに似た表情をしている。


「どうした?」

「お聞きしにくいのですが、このSAやPAと呼ばれる場所は、ツクモ様が作られた街なのですか?」

「うーん。指示は出したけどな。俺が作った街ではないな」


 明らかに安心している感じがする。


「え?指示を出されたのですか?」


 なにかに気がついて動揺している。


「あぁ」

「ツクモ様・・・ツクモ様は、ペネム街の領主なのですか?」

「違うよ。領主は、ミュルダ老がやっている」

「そうですか、よくわからないのですが、このSAやPAだけではなく、ミュルダやアンクラムやサラトガも、ペネム街所属なのですか?」

「そういう事になるな。これから向かうペネムの行政区が仕切っているからな」


 何やら考え始めてしまった。


「ツクモ様。複数の街がペネム街に従っているのですか?」

「どうだろう。ペネムという街が中心になって動かしているという認識なんだよな。実際にペネムについてみれば解ると思うけど、ペネムもいくつかの街が合わさってできているイメージだからな」


 やっと本題に入るようだ。

 表情が変わった。


「ツクモ様。アトフィア教から教会の建築許可を求めに来ませんでしたか?」

「来たよ」

「どうされたのですか?」

「許可したよ。条件は、勧誘をしない事と、獣人を区別するのはいいが差別しないことって言って、建築費は自分の所で出せと言ったら帰っていったけどね」

「え?あぁ・・・多分ですが、それが遠征の表向きの理由になったのだと思います」

「どういうこと?」

「アトフィア教の教会を作らせない。排除されて人族が貶められている。そんな事が許されるかが理由でした」

「そういうことか・・・表向きの理由が解らなくてモヤモヤしていたけど、スッキリしたよ」


 攻め込む為の理由は、いろいろ有ったのだろうけど、簡単に言えば獣人が豊かになるのが許せないだったと思うが、表向きの理由も必要なのだろう。それが、教会の排除というわかりやすい理由を使ったという事だな。


「それで、シロに命令が下ったのだな」

「はい。姫様は、その・・・政治的な動きができない。まっすぐな人でしたので・・・」

「まぁそうだろうな。俺たちと対峙したときにも気にしないで搦め手を使えば結果は違ったかも知れないからな。バカ正直に来たからやりやすかったよ」

「そうですよね。でも、私はこれで良かったと思っています」

「そうなのか?」

「はい。私もですが、フラビアも同じ考えです。姫様は、あの戦いに勝って帰れば褒美としてロングケープ街の司祭になるか枢機卿の役職になって、誰かを夫に迎えていたでしょう。負けていれば、そのまま枢機卿の誰かの愛妾になっていたでしょう。今の形が、1番だと思っております。ツクモ様には感謝しています」

「それは、シロに関してだろう?お前たちはどうなのだ?」

「私たちですか?」

「あぁ」

「私たちはもっと悲惨だったと思います」


 考えてみれば当然だな。


「そうか・・・それで、聞きたいのはそれだけなのか?」

「ツクモ様。いくつかお願いがあります」

「いいよ。言ってみろよ」


 フラビアと二人で話し合って考えたことだと断りを先に入れてきた。


 その上で、自分たち二人はどうなってもいいので、姫様・・・シロには罰を与えないで欲しいという事だ。理由を聞くと、シロは、俺たちに捕らえられた当初は怯えて虚勢で精神をもたせていた。シロは変わってきて、今はいきいきとしている。その証拠に、今日も自分からやりたいことを言っている。以前は周りの目を気にしてやりたい事を我慢していた。

 だからこそ、この場所をシロの場所として守りたい。


 もう一つが、アトフィア教の教会建築の許可だ。

 条件は先程言った通りで構わないから、建築の許可と総本山に居る、穏健派の司祭を招きたいという事だ。建築場所は、ミュルダとロングケープを結ぶ街道沿いに作りたいということだ。


「話はわかった。まずは、最初だけど許可できない」

「ツクモ様!」

「話は最後まで聞け!」

「・・・」

「最初に言った通り、ペネム街に着いた時に、感じたことを聞かせて欲しい。許す、許さないは、その後の話だ」

「わかりました」


「教会は、別に構わない。条件はさっきのとおりだ」

「はい。それに関しては納得しております。ただ、ツクモ様よろしいのですか?」

「なにが?」

「アトフィア教の教会を立てると信者が集まってきます」

「それこそ別にどうでもいいよ。それに集まってくるのなら、そのまま街にしてしまえば、アトフィア教の信者だけが集まっている場所ができるのだろう?」

「えぇそうなると思います」


 そうなったらアトフィア教関連の施設はそこにまとめてしまえばいいからかなり楽だな。

 コルッカ教も同じ様にできないかな。


「街かぁ・・・区にしてしまえば管理も楽そうだな。リカルダ。誰か、司祭に心当たりがあるのか?」

「はい。シロ様のお父上の高弟がいらっしゃいます。その方がふさわしいかと思います」

「そうか、来てくれると思うか?」

「はい。シロ様のお父上の理想の形が”ここ”にあります」

「理想?」

「人族に導かれる多種族達。でも、人族に依存しないで、皆が考えながら活動している」

「俺が導いているわけではないぞ?」

「わかっております」

「わかっているのならいいのだけどな。それで、来てくれそうなのか?」

「間違いなく」

「わかった。それでどの辺りに作る?」

「はい。司祭派か聖騎士派が居た辺りではどうでしょうか?」

「それじゃ司祭候補が来てから詳しい話を進めるでいいか?」

「はい。大丈夫です」


 丁度エリンとシロが帰って来た。

 エリンもだが、シロもかなりはしゃいできたようだ。


 ノーリ達の世話をしていた、ギュアンとフリーゼも帰って来て、フラビアも戻ってきた。


 カイとウミは丸くなって寝ている。

 ライはバッグから出てきていない。


 全員揃ったので、寝ているカイたちをそのままにして食事に行く事にした。


 食事は、エリンとシロが見つけてきた店に行くことにした。

 揚げ物が中心の店で、シロとフラビアとリカルダとギュアンとフリーゼにとっては未知の味だったんだろう。すごく驚いていた。


「カズト様。もっと食べていいのですか?」


 シロが揚げ物のおかわりを望んでいる。


「別にいいけど、よく食べられるな?」

「はい!こんなに美味しいものがあったなんて・・・あっいえカズト様が作られた料理もすごく美味しかったですよ!」


 なんか取って付けた様に言われると傷つくな。


「シロ。あんまり食べると

「え?」


 反応したのは、シロではなかった。

 フラビアとリカルダのほうが激しく反応した。


 それでも3人は食欲のほうが勝ったのだろう。何か葛藤しながら、追加注文をしていた。


「ねぇパパ。エリン。甘い物が食べたい!」


 たしかにな、脂っぽい物を食べたからな。

 さっぱりとした甘みが欲しいな。


「ライがなにか持っているかも知れないから、それ次第だな。何も無ければ、スムージーでも作るけどそれでいいか?」

「うん!エリン。ピチのスムージーがいい」


 後ろを歩いていた、シロたちからもすごい視線を感じる。


「カズト様」

「あぁぁわかった。わかった。ライがどのくらい持っているかわからないけど、人数分用意できるなら飲ませてやるよ」

「飲み物なのですか?」

「どうなのだろう。俺の中では飲み物だけどな」


 スムージーの説明はそれほど難しくないが、実物を見てもらったほうがいいだろう。個人的には、果物の甘さだけでもいいと思うが、今日はガツンとした甘さも欲しいから、ハチミツも一緒に使う事にした。


 宿について、ライを呼んだ。

 バッグから出てきてくれたので、持っている果物を聞いたら、ピチもアプルもグルプも持っていた。それもかなりの数を持ってきていた。


 クレープっぽいものでもと思ったが、食事をしませているから、スムージーだけにしておく事にした。

 作るのはスキルをフルに使う。


 まずは、結界の中に皮と種を取った果物を入れる。スキル氷を直接果物に使う。何回か使うと、果物が凍る。凍った事を確認してから、今度はスキル氷弾を結界の中で使う。

 これで粉砕されるので、後はハチミツを入れて、スキル風を使って結界の中を均一になるまで混ぜる。


 各々の持っているカップに注ぎ込めば完了だ。


 エリンには何度か与えているので、何も言わないで飲んでいる。

 ギュアンとフリーゼは素直に美味しいと言って飲んでいる。


 シロは、一口目で驚いて、二口目で考えて、それから黙って飲んでいる。

 美味しく思ってくれているのは間違いないようだ。空になった容器を残念そうに眺めている。俺を見てなにか訴えている。

 エリンとギュアンとフリーゼにおかわりを注ぐついでにシロの容器にも注いでやると、すごく嬉しそうにして飲み始める。欲しければ欲しいと言えばおかわりくらい作ってやるのだけどな。


 フラビアとリカルダの反応は少し違っていた。

 両者ともに、スキルカードの使い方を気にしていた。そう言えば、スキルを固定したりする所は見せたけど、スキルカードを使う所を見せたのは初めてだったようだ。


 二人は、スムージーをきっちり飲んでから、俺に質問してきた。

 エリンが眠いと言ってきたので、エリンとギュアンとフリーゼは先に寝かす事にした。お湯を俺が作って、フレビアとリカルダが身体を拭いていた。俺は、見ないように後ろを向いていた。二人は、ついでにシロも拭くと言っていたので、新しいお湯を作って渡した。

 フラビアとリカルダには、下で待っていると伝えて、宿に併設されている食堂で待つことにした。


 10分くらいしてから、フラビアだけが降りてきた。

 リカルダは、皆が寝るまで見ている事にしたようだ。


 スキルの話は、別に秘匿するような事でもないが、フラビアが気にしているので、皆が寝てから部屋に結界を張って中で話す事にした。

 リカルダが降りてくるまで、フラビアやリカルダやシロの事を聞いた。何故か、フラビアの前には最近出回り始めたワインが置かれ飲み始めている。言葉が悪かったようだ、フラビアはワインを飲んで既に出来上がっている。


 その結果、フラビアはシロとリカルダを含めた、過去を赤裸々に話し始めている。


 暴露話は、素面のリカルダが慌ててフラビアの口を塞ぐまで続いた。


 どうやら、フラビアとリカルダには、遠征隊の中にいい人が居たようだ。既に肉体的な関係も持っているが、俺たちに捕まって、俺たちと行動を共にするようになって、そして彼らの行いを思い返してみて、気持ちがそこには無いことが判明したと言っている。どうやら、どちらの彼氏なのか明言していないが、湖の集落の中に居たようだ。それで完全に気持ちが離れたらしいし、アトフィア教への信仰心もなくなったと話している。

 それでも、教会を作ろうと思ったのは、俺や迷惑をかけた人たちのためだと言っている。

 教会が一つでも残っていれば、その教会を通して、総本山との交渉ができる上に、教会が作られないから迫害されているという理由が使えなくなる。

 その上、面倒な事はその教会に来る司祭の所に集まるので、話を聞いて粛清する事もできると思う。

 という事だ。


 あと、いろいろ酔っ払ったフラビアが語っていたが、リカルダやフラビアの名誉の為に忘れる事にしよう。


「それで、リカルダどうする?」

「え?そうですね。その前に、ツクモ様」

「なんだ?俺は、フラビアがワインを飲み始めた辺りからの記憶が無いのだけど、なにか話していたのか?」


「ふぅ・・・わかりました。そういう事にしておきましょう」

「そのほうがお互いのためだろうからな」

「そうですね。フラビアには私からキツく言っておきます」

「あぁシロを含めて、お前たちは酒精は禁止な」

「はい。承りました。それでスキルの話しは、どうせ、フラビアが聞いてもわからないので、私がお聞きしたいのですがよろしいでしょうか?」


「それでいいよ。その前に、フラビアを部屋に連れて行って寝かそう」

「そうですね」


 二人で、フラビアを抱えて部屋に戻った。

 物音でシロが起きてきたので、シロも話に加わる事になった。


 スキルカードの事だというので、前にイサークたちに見せた使い方で説明する。


「カズト様。私にもできますか?」

「できると思うぞ?やってみるか?」

「はい!」


 シロに火種のスキルカードを渡して、詠唱方法を教える。


「!!」

「姫様!」


 火種のスキルカードが爆発した位の勢いになった。


「ほらな。簡単だろう?今まで誰もやっていないのが不思議なくらいだよ。さっきみたいに小さくする事も、結界の形を変える事も可能だよ。詠唱はスキルカードへの命令だろう、その命令をもっと具体的に言ってあげれば、スキルカードも与えられた情報に沿う形でスキルを実行する事になる」


「ツクモ様。この方法は、皆が知っているのですか?」

「どうだろう?”口の軽い冒険者”が知っているから、かなりの者が知っていると思うぞ?」

「ツクモ殿・・・すごく言いにくいことなのですが・・・」


 リカルダは、いろんな方法で火種を実行して楽しんでいる。


「なに?」

「私たちにこんな大事なことを教えてよろしかったのですか?」

「ん?別にいいよ。そのくらいは信用しているよ。それに、これがバレても、結局は、スキルカードの運用は上手くならないだろうからな」

「運用?」

「夕ご飯の後で飲んだスムージー。一度見たからってあれを再現できるか?」

「・・・」

「できないだろう?コストがかかるのも理由だけど、レベル5の氷弾をレベル以下の魔力で、それも飲み物を作るために使う事はしないだろう?」

「はっはい」

「俺だからできる事だからな」

「そう言われればそうですね。アトフィア教くらいの大きな組織でも、スキルカードを・・・火種のカードでも、シロ様が今やられているように、何枚も消費するような事はできませんからね」

「そうだろう?だったらバレてもそう簡単に試せないし、試せたとしても、複合技までには至らないだろうからな、俺の・・・俺たちの優位性はそう簡単には崩れないよ」

「複合技?」

「そうか、見せていなかったな」


 俺が持っていた中でインパクトがあるのは・・・冷たい空気が出る装置だろう。

 ぶっちゃけクーラーなのだけど、意外と好評なんだよな。


 リカルダの前にクーラーを取り出す。


「これは?」

「あぁ上にある・・・そうそう、その部分を触って、魔力を流してみろよ」

「詠唱は必要ないのですか?」

「あぁ触って魔力を流すだけでいい」


 リカルダが魔力を流す。

 そうしたら、中に入っているスキルが順番に起動する。


 一つはスキル氷だ。ただ単純に氷を発生させるわけではない。それだと水滴の処理が困ってしまったので、最近の機種ではフラップ状にした物にスキルを固定して、魔力が流れたら、フラップを冷やす様にしている。これでも水滴の問題はあるが、氷ほどではない。これ以降は、技術屋に頑張ってもらう事にしている。

 冷やされたフラップの上をスキル風で生み出された風が通り抜ける事で、冷たい風が出ているという単純な物だ。


「!!」

「どうだ?涼しいだろう?」

「これは?」

「あぁクーラーという名前で、ペネム街で売っている・・・はずだ」

「スキルはどうしているのですか?」

「それは今後説明してやるよ。ワイン飲んで恥ずかしいことを喋ったフラビアも聞きたいだろうからな」

「ツクモ様!」

「悪い。悪い。でも、フラビアにも聞かせてやろうな」

「はい。わかりました」


「リカルダ。フラビアは、カズト様に何を言っていたのだ?そこまで怒らなくても・・・」


 リカルダが、残念な子を見るような目でシロ見る。

 終わった話をほじくり返さなくてもいいのではという雰囲気を出しているが、シロが何度も聞いてくるので、少しだけ俺の方を向いてから、ニヤリと笑った。あっ・・・これは・・・切れたかな?


「姫様!そうですね。ツクモ様も全部忘れてくれているようですし、私も忘れる事にしますよ。フラビアが、姫様が生娘だってことを、ツクモ様に話していた事や、侍女に慰め方を聞いていた事や、好きなタイプがしっかりした年上だって事や、未だに夜トイレに1人で行けない事や、おねしょを気にして夜になるべく水を飲まなくなっている事を話していた事は忘れます。あぁ姫様の口癖だった”僕より強い人のお嫁さんになる”もしっかりと話していましたよ」


 あっ一気に話した。

 そして、話しは終わりとばかりに自分のベッドに・・・。


 耳まで真っ赤にして、うつむいてしまったシロが居る。

「カズト様。あの・・・僕・・・?」

「何の事だ?俺は何も聞いていないし、何も覚えていないぞ」

「えっうん。うん。そうだよね。リカルダも冗談が好きだからね。ね。そう思うでしょ?」

「そうだな。さて寝るか?」


 ん?


「カズト様」

「どうした・・・え?」


 ベッドの数足りてないぞ?どういう事だ?シロも気がついたようだ。


 さて、問題を先送りしてもしょうがない。

 部屋のベッドは全部で5個あったはずだ。


 1番奥を、俺

 その隣を、エリン

ここまでは比較的大きなベッド

 シロ

 フラビア

 リカルダ

が完全に一人用のベッド

 ギュアンとフリーゼ

が大きめの何人かで寝るベッド


 ギュアンとフリーゼには、少し大きめのベッドで一緒に寝るように言ってあった。入り口近くにあったベッドなので二人が寝るのには丁度良かった。しかし、その大きめのベッドには、エリンがカイとウミとライと一緒に寝ている。ギュアンとフリーゼは、もともとフラビアとリカルダが寝る予定にしていたベッドで別々に寝ている。酔っ払ったフラビアを寝かしつけたのは、エリンが寝る予定にしていたベッドだ。空いているのは、俺が寝る予定にしていた1番奥のベッドだけだ。


「シロ。ベッドが空いていない。お前、俺が寝る予定のベッドで寝ろよ。俺は、エリンが寝ているベッドで寝る」

「え?ダメだよ。それなら、僕がエリンと一緒に寝る・・・場所は無いかも知れないけど」

「ダメだ。シロ」


 二人で譲り合っていると


「もうぉぉぉ煩い!パパ。シロと一緒に寝なさい!シロもいいですね!」


 エリンに怒られてしまった。


「カズト様」

「あぁもうわかった。シロ。来い」


 シロの腕を引っ張ってベッドに寝かせる。布団をかけて、寝ろ!とだけ告げる。

 布団で壁を作るようにして寝る事にした。


「シロも・・・いいよな」

「・・・うん。カズト様。あの・・・」

「なんだよ?」

「僕・・・ううん。なんでもない。おやすみなさい」

「あぁおやすみ」


 あぁぁぁしまった。

 リカルダにシロを押し付ければよかったのではないか?


 だめだ、シロもリカルダも寝息を立てている。


 リカルダの奴。切れていたからな。起こしたら何を言われるかわからないからな。シロを抱けとか言い出しかねない。

 今日はこのままおとなしく寝る事にしよう。起きたら、フラビアとリカルダに文句を言えばいい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る