第九十七話

/*** カズト・ツクモ Side ***/


 エリンの所に戻る前に、疑問を一つ解消しておきたいと思っていた。


「なぁシロ。どうして、フラビアは俺に報告に来た時に、泣きそうな顔をしていたのだ?」


 後ろから抱きついているシロが少しだけ動揺した。


「言い難いのならいい。シロがフラビアにも聞かないで欲しいというのなら、この話はこれで終わりにする」

「・・・カズト様・・・いえ、聞いて下さい」


 やはり何か有ったのだろう。


 シロが語ったのはよくある話だ。

 集落には、先程のクズどもが来る前に、到着していた準聖騎士がいた。その準聖騎士たちは3名後方で食料を運搬していた者たちだった。集落に無理をさせない範囲で食料を調達して、総本山まで帰ろうと考えていたようだ。

 そこに、司祭と聖騎士たちがなだれ込んできて、集落の食料を”全部”出せと命令してきた。準聖騎士たちは、集落側に立ったのだろう。理由は不明だが、3名の準聖騎士は殺されてしまったようだ。生き残りが居ないので、シロたちが聖騎士を始末する時に聞いた話でしか無いが、多分その通りなのだろう。


 その3人の中に、フラビアの従者になる予定だった者が含まれていた。

 フラビアの弟だ。姉にあこがれて、聖騎士を目指していた、準聖騎士になれたことをすごく喜んでいたようだ。その弟の死体が見つかって、フラビアは聖騎士を問い詰めて殺した。

 シロの報告では、俺の事も、自分たちが聖騎士である事も語っていないと言っていた。


「そうか・・・それで、浄化・・・か・・・」

「カズト様。申し訳ありません」

「何を謝る?」

「フラビアが、感情に任せて聖騎士を殺しました。本来なら、有益な情報を引き出せたかも知れないのに・・・」


 それにしても、シロはアトフィア教の信者で居続けるつもりだと思っていたら、”元”と自分で言っている。


「それはいい。シロやフラビアやリカルダが、アトフィア教のことを教えてくれるのだろう?」

「はっはい!私たちにできる事なら何なりと!」

「それで十分だ。足りない情報が出た時に、改めて考えればいい・・・それに・・・」


 リーリアやクリスたちだけではなく、領主たちを護送している所にも襲撃が行われているのだろう。

 シロたちと違って裏の事を知っている奴らが居る可能性が高い。そいつらを捕らえる事ができれば、今まで得られなかった情報が手に入る事になる。


「カズト様?」

「あぁすまん。だから、大丈夫だ」


 フラビアの事情もわかった。


『カズ兄。エリンの所だけど・・・なにかと戦っているよ?どうする?』

「はぁ?」

『うーん。カイ兄やエリンが大丈夫だと言っているから大丈夫だとは思うけど、どうする?』


「シロ!少し急ぐぞ。エリンの所が何者かに襲われているようだ」

「え?はい。わかりました!」


 先程よりも、強く俺の身体に密着する


「ウミ。急げ!」

『わかった!』


 ウミは、今までの倍位の速度で疾走し始めた。

 カイとエリンが居るから間違いは無いだろうけど、誰が襲っている?魔物か?


 エリンたちが居る場所にたどり着いた。

 戦闘が行われたであろう後があるだけで、それ以外は何も変わっていなかった。


 ウミから降りて、周りを見るがもう戦闘は終わっているようだ。


「パパ!!!」


 エリンが、俺を見つけて駆け寄ってくる。

 抱きかかえる。


「パパ。エリンね。1人も殺さなかったよ!全員捕まえた!」

「そうか、偉かったな」


 抱きかかえた状態で、頭をなでてあげる。

 そのまま馬車の所まで行くと、男女6名がスパイダーに縛られて寝かされている。うるさかったのだろう、口枷もされている。


 フラビアが剣を抜いて、転がされている奴らを威嚇している。

 胸元にはアトフィア教のシンボルがあり、うなじ部分にはお揃いの羽を象ったタトゥーがされている。


「フラビア。ありがとう。こちらの被害は出ているのか?」


 フラビアが剣を身体の後ろに隠しながら、跪いた。


「ノーネーム様。こちらの被害はありません。弓を使われたので、馬車が少し傷ついてしまいまして申し訳ありません」

「あぁその程度なら問題ない。怪我をした者も居ないのだな」

「はい」


 エリンは無事だし、カイが負けるとは思えない。


「二人は?」

「はっ目を覚ましていましたが、馬車の中に避難させています。リカルダが一緒に居ます」

「わかった。それで此奴等は?」


 見下すように、転がされている奴らを一瞥する。


「はっアトフィア教の粛清部隊の様です」


 粛清部隊?

 疑問に思っているのが顔に出たのだろう。フラビアは一般的に知られている情報だという前置きを置いて説明してくれた。


 簡単に言えば、司祭や聖騎士の監視を行う者たちで、問題ありだと思ったら、その場で粛清する事が許されている。獣人を殺すのではなく、対象はあくまでアトフィア教の人間という事になっている・・・らしい。

 首の後ろのタトゥーが部隊である事をしめしているという事だ。


「それはわかった。それで、なんで”アトフィア教”が1人も居ない馬車を襲撃したりしたのだ?」


 フラビアが申し訳なさそうに、馬車の方を見る。

 あぁそう言えば、子供二人はアトフィア教の信者だったな。


 でも、二人の事が、バレているとは思えない。


 エリンが説明してくれた。

 俺たちが、集落に向かってからそれほど時間を置かないで兄のほうが目を覚ました。最初は多少混乱もしたという事だったが、事情が理解できたようだ。妹もそれから少しして目を覚ました。

 痣が治っている事や、調子が悪かった身体の調子も良い事を不思議に思った兄妹はエリンに聞いたという事だ。


 その時に、エリンは”パパが治した”と説明した。

 二人にとっては”神の奇跡”なのだろう。”パパ”のことを、神だと思ってしまったようだ。エリンも、否定しなかった事で、その考えが加速した。エリンは、言われた通りに、二人に食事を与えた。俺が用意したガレットだ。甘みに乏しい世界で、果物の甘みとは言え貴重な甘味を、ただ助けてくれと言ってきた子供の食べさせる。

 兄妹にとっては、神以外ではないという認識になってしまった。


 そこに、アトフィア教の粛清部隊が現れる。

 ここからは、フラビアも居たので話がわかりやすかった。


 ガレットを食べ始めたくらいの時に、カイとフラビアとリカルダがエリンの居る所に到着した。

 その後すぐに、粛清部隊が現れた。フラビアの考えでは、移動する自分たちを見つけて襲うつもりだったのではないかと考えていた。出会いは偶然だったのかも知れないが、粛清部隊としては食事を奪う絶好のチャンスだと考えたのだろう。


 それもそうだろう・・・


 フラビアとリカルダは、実質的な事は置いておくとして、見た目は二十歳を越えた位の女だ。

 カイも、大きくなっていると言っても、一匹の魔物。あとは、10歳のエリンとそのエリンよりも小さい兄妹だ。それが馬車を二つも持っている。奪える物があると考えてもしょうがないと思う。


 粛清部隊は実行に移る。

 その理由が、話し声で聞こえてきた、”アトフィア教のシンボルを持った人間が神の名を語った”事だ。ようするに、兄妹が”パパ”なる人物が神だと言っているのが問題だという事だ。


 最初は、無視する事にしていたが、兄妹だけではなく、”パパ”が偽物だといい出した。

 この時点で、エリンが切れた。切れたが、竜にはならないで、ヒト型のまま対処を行う事にした。リカルダが子どもたちを馬車に避難させて、エリンとフラビアで粛清部隊6人を抵抗できない状況に追い込んだ。

 馬車を護衛していた、スパイダーを呼んで全員を縛り付けた所に俺たちが現れた。


「それで、この粛清部隊はどうしてここに?」


 簡単な事だった、ロングケープ街から運ばれている、獣人に奪われたアトフィア教のアーティファクトを奪い返すためだ。

 アーティファクトが運ばれているとの情報を得て、宣教師たちが動いた、アーティファクト奪還を目的に集まった。その中に、粛清部隊も含まれていて、総勢120名での襲撃になった。数の上では勝っていると思っていたが、いつの間にか、襲撃は失敗。襲撃に参加した者の8割以上が捕らえられて、10名が殺された。残ったのは、少し離れた所で戦況を観察していた6名のみだった。

 襲撃を諦めて、総本山に逃げ帰ろうにも、スキルカードも無ければ食料もない状況だったようだ。


 そして、馬車を見つけて襲撃を計画し実行した。

 襲撃に失敗して、糸で拘束されて転がされている。実験区送りで問題ないだろう。


 話はわかった。

 まずは、エリンを褒める。抱きかかえたままになっていたエリンを地面におろして、

「エリン。よく頑張ったな」


 そう言って、頭をなでてやる。


「パパ!エリン頑張ったよ。誰も殺さなかったよ!」

「あぁ頑張ったな・・・おい。シロ!フラビアも!なに羨ましそうなかおをしている?」


「カズト様。我らも・・・その・・・頑張ったぞ?」

「あぁそうだな」

「だったら!」


「おかしいだろう?シロ。お前は、16歳。俺は、まだ14歳だ。フラビア!お前は何歳だ?エリンは、今年で10歳なのだぞ?」

「だっ大丈夫だ。カズト様。私は気にしない!」

「俺が気にする。おい。フラビア。絶望のオーラを出すんじゃない」


「ツクモ様」

「よかった、リカルダ。二人がおかしいなんとかしろ」

「はぁシロ様はともかく、フラビアはどうして?」


 リカルダが少し呆れ気味に話を聞いている。

 シロはともかくとは・・・もしかして、「シロはポンコツなのか?」


 おっと、声に出てしまったか?

 シロだけじゃなくて、フラビアとリカルダがこっちを向く。


「ツクモ様。ポンコツはいいすぎです。まぁそれに近いのは間違いありませんけどね」

「リカルダ!私は、ポンコツではないぞ!」

「そうですね。それなら、下着を着けないで鎧を着ようとしたりしないようにしてくださいね。おねしょは何歳まででしたっけ?」

「リカルダ!フラビアも笑っていないで止めて!あぁぁカズト様。僕は、おねしょなんてしていないですよ本当ですよ。成人してからはしていないですからね。信じてください!」


「シロ。わかった、わかった、14歳までおねしょしていた事や、実は、自分のことを僕って言うのもわかったから落ち着けよ」

「ツクモ様。姫様は、あと1人で寝られないので、添い寝してあげて下さい。抱き心地は・・・悪いかも知れないのですが、寝相はいいと思いますからね」


 リカルダ。シロの胸を見ながら言ってやるな・・・確かに、残念な感じはするが、俺は気にしない派だ。どちらかを選べと言われたら、希少種を選ぶだろう。


「リカルダも何を言っている。僕は、1人で寝られる!」

「そうなのですか?それでは、今日から、私とフラビアはツクモ殿の世話をさせていただきます。どうぞお一人で、お休み下さい」

「え?あっ・・・いいよ!僕は、大人だからな!」


「ハハハ。いいよ。シロ。おいで!フラビアとリカルダは我慢しろよ。大人なのだろう?」


 少しだけ残念そうなかおをするが、いつもの雰囲気に戻る。

 ようするにシロを労って欲しかったのだろう。雰囲気を作る事にしたのだろう。


 リカルダは、馬車の方に戻っていく、子供を連れてくるのだろう。


 シロがそれでも恥ずかしそうにしながら俺の所に来る。

 俺の前にアヒル座りで地面にペタッた座る。


「うぅぅーーカズト様。本当に、本当に、本当ですよ」

「わかった。わかった。でも、今日はありがとうな。シロ、助かったよ」


 シロの頭をなでてやる。


 恥ずかしそうにしているが、すごく嬉しそうにしている。シチュエーションは・・・考えるのをやめておこう。


「シロ!エリンと同じだ!」


 エリンの乱入で羞恥プレイは終わった。

 でもまぁシロが満足そうにしているので良かったと思っておこう。


 丁度リカルダが戻ってきた、後ろに子供二人が警戒しながらついてきている。

 シロがいつものできる女風に戻って、リカルダに俺の前を開ける。そのまま俺の後ろに控えるようになる。


「ツクモ様。この者たちが、御身に直接お礼を述べたいと言っております。よろしいですか?」

「礼?あぁ構わない。ってよりも、リカルダ。別に、俺は無官の一般人だぞ?そんなに丁寧にする必要はないと思うのだけどな?」


 3人が”は?”という様な顔をする。


「ツクモ様。私たちは、ツクモ様がツクモ様だから従っているのです。お気になさらないで下さい」


 なにか違うが、今は何を言っても逆効果なのだろう。


 シロがポンコツだって事がわかっただけだけど、まぁそれだけ解れば十分かな・・・それにしても、また”ボクっ娘”の出現か?


 クリスもシロも考えてみると、地位としては高い方の”祖父”を持っているのだよな。そして、両者とも、父親と祖父が反目になるような事をしている。クリスは祖父に、シロは父親に、それぞれ立場は違うが影響されているのは同じだ。そして、母親が両者とも存在が薄い。それでいて周りには大人が多い状況で育ったと考えられる。


 ”私”ではなく、”僕”になるのは、そんな者が連れてくるのが、男の子ばかりだったからなのではないだろうか?

 検証できる事ではないが、少しだけ気になってしまった。


 兄妹が俺の前まで歩いてくる。

 跪いて、前で手を組む。


「カズト・ツクモ様。命を助けていただいて、感謝いたしましゅ・・・す」

「ありゅがとうございます」


 あっ噛んだ。兄妹で噛んでいる。


「いや、それよりも身体は大丈夫か?お腹へっていないか?」

「大丈夫です」

「大丈夫・・・です」


 妹が”大丈夫”と言った瞬間に二人から可愛い音が聞こえてくる。


「俺もお腹空いたから、なにか食べながら話をしよう。それでいいか?」


 シロには、エリンと兄妹二人の相手を頼んで、俺とフラビアとリカルダで食事の用意をする。

 二人は、お世辞にも手際がいいとは言えないが、指示した通りには動けるようだ。


「そうだ、フラビア。アトフィア教では、なにかダメな食べ物や飲み物はあるのか?」

「いえ、大丈夫です」

「そうか、酒精が入った飲み物も大丈夫なのか?」

「え?あっ大丈夫です」

「へぇお前たちも飲むのか?」

「あ・・・はい」

「わかった」


 酒も大丈夫だし、肉も大丈夫・・・となると、普通の食事でいいよな


 まだパンが有ったはずだから、パンを取り出して、フォレストボアの肉を薄く切って焼いた物を挟んでいく、野菜も適当に切って挟んでいけばいいだろう。固く焼いたパンじゃなくて、柔らかいパンだから・・・まぁ大丈夫だろう。

 手元にある物は、ワインが少しだけあるか・・・フラビアとリカルダにも辛い思いをさせたからな。少しはいたわってやるか?


 エリンとシロと兄妹には、プリンでいいかな?


 プリンを見た、フラビアとリカルダが自分たちも食べたいと言ってきたので、食べさせた。皆が幸せそうな顔をしている。


 食事をしながら二人の話を聞いた。

 兄妹の名前もわかった。

 兄が、ギュアン。妹が、フリーゼ。やはり、湖の集落から逃げ出してきたという事だ。最初はよかったらしいが、母親が最初に殺された。

 次に父親が殺されて兄妹は捕まって、聖騎士に暴力を振るわれていた。幼児を殺す所を妹が見てしまって、二人で逃げ出したのだと話している。混乱もしていたのだろう、話しも矛盾がある。でも、二人に暴力が振るわれていた事や、逃げ出した事は間違いないだろう。


 子供だけ集められて、子供が逃げ出した。集落の出口から逃げていく子供とは別に、兄妹は船の中に隠れていた。

 そして、夜になって船を湖に出して、逃げてきたという事だ。


 俺たちを見つけたのは偶然だったのだろう。


 しかし、判明していたことが事実として追認しただけだ。


 何の慰めになっていないことを承知で二人に話をした。

 集落は、襲ってきた者たち滅ぼされていた事や、その襲ってきた者たちがアトフィア教の司祭と聖騎士であった事。俺たちは、その集落に居た司祭と聖騎士を全員殺した事。


 全部を聞き終えた二人は胸につけていたシンボルを外した。


 小さくてもお兄ちゃんなのだろう、妹が外したシンボルと合わせて、俺に渡してきた

「ツクモ様。僕たちを助けてくれてありがとうございます。パパとママを殺した人を殺してくれてありがとうございます」


 シンボルを受け取る。

 シロが俺の所に来て耳元で話してくれたのは、シンボルを誰かにわたすのは、アトフィア教では禁忌な事で、脱退を意味するのだという事だ。


 シロが俺の耳元で、自分が言ったことをそのまま繰り返してくれと言ってきた。


『シロ。それなら、念話をつなげる。これなら、不自然にならないだろう?』

『・・・あっありがとうございます』

『それで何を言えばいい?』


「気持ちはわかった。ギュアン。フリーゼ。俺に仕えることを許そう」


 え?疑問に感じないで、そのまま口にしてしまった。

 兄は俺の顔を見て、お願いしますと頭を下げる。妹は何のことかわからない様子だったが、兄が頭を下げたから自分も下げたという感じだ。

『シロ。どういうつもりだ』

『カズト様。二人をお見捨てにならないでしょ?』

『・・・あぁ』

『この形が1番いいと思います。ギュアンの安心した表情を見て下さい。・・・・僕にも優しい言葉をかけてくれたらもっといいのに』

『シロ。先に忠告しておけばよかったけど、念話しているときにそのまま考えると相手に言葉として伝わるからな注意しろよ?』

『え?あっうそ・・・僕、なにか・・・えぇぇぇぇぇ!!!』

『うるさいから切るな』

『ちょっカズト様・・・僕、何を考えました?気持ちって・・・えぇぇぇ?』


 確かに、ギュアンはすごく安心した顔をしている。

 シンボルは預かっておくか・・・もう少し世界を見て、それでもアトフィア教を信じると言ったのなら返してやればいいだろうからな。


 二人に、集落のことを聞いた。

 家に行きたいという事だ。もちろん、問題はない。その後で、集落は浄化する事が決まった。


 二人が、浄化する所を見たいといい出したので、許可をだした。

 ここまでは問題は無かったが、エリンが”まだ”二人の前で竜体になるのを拒んだ。仲良くなってからにしたいという事だ。可愛いわがままを叶える事にした。

 そのかわり、エリンには”炎”のブレスを出せる竜族を3体呼んでもらった。


 竜が来た時に、5人がパニックになるのが予測できていたから、予め”竜族”が来ることを伝えて、どうやって乗るのかを決めておいた

・フラビアとリカルダ。

・エリンとギュアンとフリーゼ。

・俺とシロ。

 これが決まった形だ。


 今回は、カイとウミが留守番をする事になった。


 竜に乗っての移動に1番はしゃいだのが誰だったのかは明確にしないほうが本人のためだろう。


「シロ。煩い。落ちるぞ!」


 集落について、兄妹は父親と母親を探すが・・・見つからないようだ。初期に殺された者は、既に処分されているのだろう。集落の大人の人数を聞いたら兄妹は50人くらいと答えた。20人近い者が先に殺された事になる。もしかしたら、子供の親たちだったのかも知れない。

 子供の数は、二人の記憶では15人だと話していた。乳幼児はわからないだろうけど、かなりの子供が殺されたのは間違いないだろう。


 湖に近い所に、兄妹が住んでいた家がある。

 中は荒らされた様子は無い。集落から少し離れているからなのだろうか。二人は、父親や母親の持っていた物や両親からもらった物を選んでいる。


「どうした?全部持っていかないのか?」

「ツクモ様。荷物になってしまいますし・・・価値はありません・・・から」


 金銭的な価値ではそうだろう。でも、思い出という名前の価値では違うだろう。


「わかった。二人共少し離れろ。家と船は、お前たちの所有物だな?」


 ギュアンは意味が理解できたのだろう。俺の顔をしっかりと見てからうなずいた。


「ライ。この家と船。全部を取り込めるか?」

『うーん。大丈夫!家と船は別々になるけどいい?』

『あぁ問題ない!』

『わかった!』


 ライが、跳ねながら家の前に移動して、大きくなって、家を取り込んだ。続いて船も取り込んだ。

 唖然とする面々。


「カズト様!」


 シロが家の有った場所に移動して、何も無いことを確認して俺に問いかける。


「大丈夫だ。ライの収納に保管しただけだ。これで、二人が落ち着ける場所に着いたら設置すればいい」


 唖然とする面々の前で、ライに一度家を出してもらった。

 これで、兄妹は安心するが、シロたちは唖然とした様子が変わらなかった。


 荷物が片付いてから、竜に乗った。上空から集落を見下ろした状態になってから、

「ギュアン。最初の命令を出す。お前たちが望むのなら、エリンに”浄化をお願いします”と言え、望まないのなら”帰りましょう”と言え」


 ギュアンは何の躊躇もしないで、”浄化をお願いします”と宣言した。

 その言葉を聞いたエリンが、竜たちにブレスを指示した。


 数分後。

 真っ赤に燃え上がる集落。地面まで焦がすのではないかと思う炎が総てを焼き尽くした。

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