第九十八話

/*** カズト・ツクモ Side ***/


 集落の炎が消えるのを待って、カイとウミが待っている馬車の場所まで戻った。

 いろいろありすぎて寝るのを忘れていたが、もう丸一日程度起きていた事になる。


 馬車が広いとは、中で寝る人数は限られてしまう。


 一つ目の馬車には、俺とカイとウミとライとギュアンとフリーゼ。

 二つ目の馬車には、エリンとシロとフラビアとリカルダ。


 で・・・落ち着いたと思っていたが、フラビアとリカルダが、新参のギュアンとフリーゼに、俺の世話を任す事ができないといい出した。


 その結果”なぜ”か、


・俺とカイとウミとライとギュアンとシロ

・エリンとフラビアとリカルダとフリーゼ


 という組み合わせに分かれる事になった。


 ギュアンが、馬の魔物に心当たりがあり、御者のマネごとができるという事なので、魔物を捕獲してきてから任せる事にした。魔物は、いつものように、カイとウミとライが捕獲に向かった。

 結果、馬の魔物・・・バトルホースと言うらしい・・・がライの眷属になった。バトルホースの長には、”ノーリ”と名付けをした。長を補佐する五体にそれぞれ”アジーン”・”ドヴァー”・”トリー”・”チェトィリエ”・”ピャーチ”と名付けた。

 最終的には、眷属の仲間入りをして、ダンジョン内で繁殖を行う事になった。これで問題になりつつ有った馬不足が解消されるかも知れない。


 ノーリが言うには、他にもバトルホースではないが群があるので、支配下に置いたほうがいいのではないかと提案されたので、許可をだした。ノーリを補佐する5体が向かう事になった。

 今のままでは不安なので、手持ちになってしまうが、スキルを付与しておくことにした。


 シロたちに見せる事になってしまうが、もういろいろ見せてしまっているので今更だろう。

 バトルホースは、スキルは速駆や体力向上系のスキルが付いている。多分、種族スキルなのだろうけど、超速駆や一体化なるスキルがついていた。


 戦闘系スキルがついていなかったので、戦闘系スキルを中心に付ける事にした。

 リーダ格の5体は、無事イリーガルの称号を得た。俺の想像通り、魔核でのスキル付与は、イリーガルになりやすいようだ。それから、スキル即死を付けると、”デス”の称号が付くようだ。

 長に至っては、スキル影移動を独自進化させたのだろうか?それとも、バトルホースの固有スキルなのだろうか、影引なるスキルが着いていた。これは、自分が引いていると認識している馬車ごと影移動できるスキルのようだ。ぶっちゃけ移動がすごく楽になる。なにか、条件が有るのかも知れないし、安全の問題もある。実験区で実験してから運用方法を考える事にしよう。


 全部終わってから、フラビアとリカルダを見るとなにか諦めた表情で俺を見ている。

 ギュアン兄妹は、俺をキラキラした目で見ている。

 シロに至っては、兄妹以上に尊敬?の眼差しをむけている。


 まぁいい。忘れないように、バトルホースの長には念話のスキルを付与しておく。

 5体は、群の中から数体を連れて、他の群の支配に向かった。


 ノーリは、俺が乗る馬車を引くことになった。ノーリからいい出したことのようだ。ノーリにギュアンを紹介して、言うことを聞くように命じた。ギュアンとフリーゼがノーリの世話をする事になった。

 エリンたちが乗る馬車は、ノーリが指示したバトルホースが引く事になった。こちらは、ノーリから指示がでるが、フリーゼのいう事も聞くようだ。さすがは、竜族なのだろう。エリンの言うことも素直に従っている。


 街道を移動している時には襲ってくるような奴は出てこないだろう、後ろをバトルホースが群でついてくるような馬車を襲うような馬鹿が多いとは思えない。


 フラビアとリカルダは、バトルホースに乗っている。本人たちが騎乗したいという事で認めたのだ。


 そのまま、街道近くにある集落や村に立ち寄っていく。


 アトフィア教の奴らは俺の予想をはるかに越えていた。

 5つの誰も居なくなった集落と7つの襲撃にあった集落。そして、2ヶ所の司祭や聖騎士たちが屯していた集落。


 5つの集落は、死体だけが残されていた。

 それも成人男性だけだ。子供と女性は残されていない。襲撃にあった集落でも同じ様な感じだ。女性と子供と食料を奪われていた。


 残された集落は、アトフィア教の信者たちだけが残されていた。そのために、俺は何の救済もしないことを明言した。自分たちで頑張ってもらう事にしたのだ。子供が残されているようなら救済を考えたが、集落には成人男性だけが残されていた。

 戦いも反抗もせずに、食料と女性と子供を差し出して、自分たちの命を選び取ったのだと感じたからだ。事実、誰も居なくなった集落も、アトフィア教の信者が居た事は残されたシンボルでわかっている。それなのに殺されている。この違いは生き残った集落は命乞いをして女子供を差し出したのだろう。


 襲撃した者たちがまとまっているのが、司祭と聖騎士たちが居る集落だ。

 二つの集落は街道を挟んで対立していた。主な理由は食料と自分たちが奪った物を返せと言うことだ。


 この二つの集落は、聖騎士とペネム街の部隊が激突した場所からそう離れていない。

 もしかしたら、集落を確保してから、他の集落を襲ったのではないか?

 両方の集落ともに山の麓に作られていて機動力がないと攻めるのが難しい。周りは開けているが、後ろからの攻撃の可能性低い分、前方に集中できるような位置に作られている。

 それに対して、今まで見てきた集落は、森の中や川の辺りや街道から離れた草原に作られていて、攻められると厳しい集落ばかりだ。


 司祭と聖騎士の戦いと言えばかっこいいが、盗賊と野盗の戦いのようになっている。


 両方の集落をあわせて、500名近いアトフィア教の者が居る事になると報告が上がってきている。

 そして両方の集落ともに元々の規模は50名ほどの集落だと考えられる。単純計算で5倍近い人間が居る事になる。


 集落の中に忍び込むのはそれほど難しくなかった。既に、魔蟲が集落の中に入り込んでいる。情報はそこから上がってきている。


 放置しておく事も考えたが、これからペネム街とロングケープ街との交易を考えると無視できる話ではない。

 アーティファクトを護送していた者たちも襲われたそうだが、返り討ちにしたと報告が入っている。


 殲滅はそれほど難しい事ではない。

 でも、集落には女と子供が居る事はわかっている。女を捕らえているのは解る。子供は、労働力に使っているようだ。シロたちが苦々しい顔をしながら説明した所によると、子供のほうが反抗されにくく、処分しやすいからということだ。


 司祭も聖騎士も・・・準聖騎士も・・・実験区で楽しい実験に付き合ってもらおう。元々集落に住んでいた者は、基本実験区の管理場所送りだろう。一生、実験区で過ごしてもらう事になるだろう。判断は、救い出すことができた女と子供にやってもらう事にするつもりだ。


 作戦は簡単だ。

 俺たち自身が囮になる。魔蟲を大量に呼び出して、襲ってきた連中を片っ端から拘束していく。襲われるタイミングで、集落の襲撃を行う。


 集落には、本人たちの希望でフラビアとリカルダに行ってもらう事になった。進化したバトルホースが付き従う事になる。魔蟲たちも参戦する事になっている。女と子供を助け出すという目的も有るために、エントとドリュアスも呼び出して集落の襲撃に参加させることにした。


 囮役は、俺とエリンとシロになる。一緒に、カイとウミとライが馬車には乗っている。見える所の護衛は配置していない。ノーリが唯一の戦力に見えるようになっている。


 ギュアンとフリーゼは、馬車と一緒に隠れていてもらう事に決定した。魔蟲と、集落への襲撃に参加していないバトルホースが一緒に居るので襲われても安全にやり過ごせるだろう。


 今、俺たちはノーリが引いている馬車に乗っている。

 御者は、呼び出したエントにそれらしい格好をしてやってもらっている。


『主様』

「あぁわかっている」


 エリンも気がついているようだし、シロも今の言葉で気がついたようだ。


「カズト様。どっちですか?」

「司祭派のほうが近いな」


 便宜上、司祭派と呼称しているが、二つの集落は一つは司祭が頭をとっている。もうひとつは聖騎士の連隊長らしき者が頭をとっている。

「そうなるとフラビアのほうが先に仕掛ける事になりますか?」

「いや、同時にやろう。聖騎士派も既に集落を出ている」


 俺たちの動きは複雑にはしない事にしている。

 先に襲ってきた派閥の集落とは反対側に逃げる事にしている。


『カズ兄。来たよ!』

「わかった。予定通り、フラビアとリカルダに突入指示」

『わかった』


 ライが眷属の魔蟲に指示をだす。

 フラビアとリカルダにはスパイダーが一緒に居る。スパイダーからの合図を持って突入を開始する事になっている。


「よし、聖騎士派が居る方向に向かうぞ!」

「はい!」


 御者のエントにも作戦は伝えてある。

 ノーリをそちらに誘導する。後ろから追ってくる司祭派の連中に取り付かれない速度を維持しつつ聖騎士派の居る場所に向かう。聖騎士派の連中も動き始める。司祭派の連中の姿も確認できているだろう。

 俺たちが持っている”であろう”物を奪い合おうとしているのだ。滑稽だな。


 後ろから追いすがる司祭派の奴らをそのまま聖騎士派の奴らにぶつける。簡単な仕事だ。ノーリにタイミングを伝える。


 後ろからの声が聞こえる距離を保つのも難しい。

 それだけノーリが優秀だって事もあるが、司祭派の連中があまりにも遅い。


 聖騎士派の連中が襲ってくるであろうポイントまで持つのか?


『主様。左側面から来ます』


 予定よりは早かったが、問題ない。


「よし、右に転進。そのまま街道まで逃げるぞ!」


 ノーリが右に進路を取る。


「カイ。ウミ。頼む!」

『はい』『わかった』


 カイとウミは、馬車から飛び降りて、後ろに回り込む進路を取る。


 二つの派閥が醜く罵り合っているのが解る。共闘すればまだ望みも有ったかも知れないが、そうでなければ・・・可哀想・・・なんて思わないけど、もう少しやりようが有ったのだろうと思う。

 彼らが自ら選んだ事だ、俺がここで何を言ってもしょうがないだろう。


『主様。後ろに出ました』

『わかった。魔蟲も追いついているよな?』

『大丈夫です』


「シロ!」

「はい!」


「ノーリ。止まれ」


 街道の少し手前だが十分だ。


『あるじ。フラビア側の集落。制圧完了』

『ライ。ありがとう。リカルダは?』

『一部が建物に籠もって交戦中。女性・子供の救出は成功』

『了解』


「シロ。聞いたな!」

「はい。こちらも始めます」

「頼む」


 止まった馬車からシロが降りる。最初、俺がやると言ったのだが、シロがどうしてもやらして欲しいと言うので、小型の竜の形態になっている。エリンを横に置くことで許可した。


”止まれ!”


 まぁ止まるわけないな。

 シロが女だと気がついて、嘲笑の声を上げている。


 獣と同じだな。


”獣以下か・・・言葉が解ると思って話すが、お前たちの集落は私たちの仲間が既に占拠した”


 本当に獣だな。餌を求めて、雌を求める。


”そこから、こちらに1人でも入ったら攻撃だと捉える。覚悟せよ!”


 シロが、エリンの頭を軽く触る。

 それが合図で、空に向けて小さなブレスを放つ。


 それでも止まらないか?

 まぁここまで来て止まるわけないよな。お互いに牽制しあっているのだろう。


 罵声が酷いな。

 そんなに言うのなら、踏み出せばいいのに・・・自分の身をもって解らせてあげるのにな。


”そうか、剣を持たない者たちや、立場が弱い者からしか搾取できない腰抜けだけのようだ。愛しき方の為に使える者の1人でもと思ったがこんな腰抜けでは私が怒られてしまう。これなら、ゴブリンでもテイムしたほうがましだな”


 ”愛しき方”のくだりは打ち合わせには無かったよな?

 ゴブリンのほうがまし・・・とか、意味が通じるといいのだけどな。


 お!意味は通じたようだ。

 激高した奴らが突っ込んでくる。それでも3人か・・・底上げされているシロの敵じゃないな。


 剣技だけを見ると、シロの剣さばきは綺麗だよな。


 こっちも始めるか・・・

『カイ。ウミ。始めろ!』


 後は待っているだけが俺の仕事になる。


 10分後、シロに切られた者は、7人にまで増えていた。疲れが見えてきた所で、エリンがスキルを使う。


『カズ兄。逃げてきたのも捕まえる?』

『頼む』

『はぁーい』


 それから20分後。

 俺の前に200名近い男たちが縛られたり、剣で切られた状態でなにか騒いでいる。

 煩いから、男たちに結界を張った上で結界の中で、スキル麻痺を使った。


 やっぱり実験は大事だよな。

 結界を使わないでスキル麻痺を使うと、使った者たちにも被害が出る場合がある事がわかった。結界を張った状態で結界の中でスキルを使うと、結界の中にしか影響しない事がわかった。当然だけど、必要なことだろう。


 死んだら死んだで構わないが、実験区で使う事を考えると、あまり減るのも困ってしまう。それでなくても、健康体は実験区では貴重なのだ。人はなかなか死なないが、簡単に心が壊れてしまう。自分たちがやってきた事をやられただけで泣け叫んで壊れていく。実験の最初の段階でかなりの人間が使えなくなってしまう。今回の事でかなりの実験体が手に入ったから、今までできなかった実験もできるようになるだろう。


 しかし、これから憂鬱な作業が待っている。

 捕らえられていた女子供に合わないとならない。子供は別にして女性には1人1人面談する事にしている。シロと、フラビアかリカルダが一緒に話を聞く事にしているが、気持ち悪くなることも考えられる。


 フラビアとリカルダが後30分位で合流できると連絡が入った。

 麻痺している奴らだけではなく、合計で500名以上が集まってくる。エントやドリュアスだけで抑えられるのか?魔蟲が居るから大丈夫だろうか?

 ここの連中と同じで麻痺らせておけばいいかな。


 その後は、スキルカードを奪って・・・装備を解除させるのか・・・以外とやることがおおいな。


 今日は、ここで野営かな・・・。


 フラビアとリカルダが集落に残っていた者たちを引き連れてきた。

 女子供も連れているが、まだビクビクしている。それは当然だろうな。


 まずは、女性から話を聞いていく事にしよう。

 俺は馬車に戻って、シロが俺の横に立つ。フラビアとリカルダが1人づつ連れて馬車に乗り込んでくる。


 これの繰り返しだ。

 女性に関しては、まずは集落を襲った奴らの身分を再確認させる。その後で、次の質問を行う。

・お前はアトフィア教の信者か?

・お前は集落や襲ってきた者の中で”許したい”者が居るか?

・お前は集落に戻るか?


 話ができそうな女性はこれだけは聞こうと思っている。

 集落に戻るのなら好きにすればいい。戻りたくないのなら、ペネム街につれていく事になるけどアトフィア教の信者の場合には、ダンジョンの中にある実験区の管理になってもらうしかなくなってしまって、一生ダンジョンから出られない。選択肢としては提示したくない。


 何時間ぶっ通しで話を聞いたか解らなかったが、130名の女性からの話は終わった。

 113名がアトフィア教の信者だったが、シンボルを預けてきた。17名はアトフィア教の信者だと思うが、心が壊れてしまっているので話をする事ができないと判断した。神殿区に送って療養してから話を聞くことになりそうだ。

 そして、113名全員が”許したい者”は居ないと答えた。

 これで、全員が実験区送りになる事が決定した。


 子供はもっと大変だ。

 全員とは言わないが、ほとんどが心が傷ついてしまっている。エリンは比較的大丈夫だが、多分血の匂いがするのだろう、シロ、フラビア、リカルダには近付こうともしない。

 女性の中で比較的ましだった者に子供の世話を頼んだ。子供は、神殿区に送ってから様子を見る事にした。


 結局2日近くここで足止めされてしまった。

 エントとドリュアスに命じて、女子供だけは先にペネム街に送った。


 転がっている奴らには定期的に、状態異常のスキルを使用している。

 効き具合の実験をして居る。実験区に送るための移動手段を待っている間に暇つぶしの意味も有るのだが、有効時間を調べる実験をやっておこうと思っている。

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