第八十三話

/*** カズト・ツクモ Side ***/


 学校施設に向かう。

 作られた学校は、自由区の中では1番大きな建物になっている。


 学校に到着すると、ミュルダ老が待っていた。


 少し慌てた様子で俺の所に駆け寄ってきた。


「ツクモ様。何か有りましたか?」


 スーンにでも聞いたのか?


「ん?なんでもない。学校がしっかり回っていると聞いたから見てみたくなっただけだ」


 明らかに安堵した表情になる。

 そうか・・・俺は、出資者って事になるのか?でも、俺の命令で作ったのだよな?


「ありがとうございます。もう学校は、ペネム街になくてはならない施設になっていまして・・・」


 ホォそうなのか?


「あぁ大丈夫だ。別に取りやめようとは思っていないからな。でも、そこまで必要なのか?」


「あっはい。最初は、失礼ながら”学校”が必要だとは思っていませんでした。それも、授業も無料だし、朝と夕方には食事も提供するとおっしゃっていました」


 この世界にも学校はある。

 別の大陸になるが、学校だけの街があるそうだ。でも、基本的に学校は有料で、ある程度のスキルカードを支払わないと受け入れてくれないようだ。だからというわけではないが、学校に通えるのは、一部の裕福な者に限られてしまっている。


 反対に、俺が作った学校は、ペネム街の住民なら、成人前なら何歳からでも通える。

 授業内容は、本当にいろいろだ。1週間くらいまえに発表されて、それに申し込みを行う形にしている。何を受けるのかは個々の自由にしている。計算を行う授業や読み書きを行う授業は、人気があるので多く行うようになっている。難易度も違っているし、同じ内容を繰り返し行うので、できるまで何度でも受ける事ができる。


 1番人気は”朝ごはん”の時間だ。

 朝ごはんは、一限目の授業を受けた証明書を食堂に持っていけば食べられる。

 ビッフェ形式にしている。好きなだけ食べていいが、残したら”罰”としてトイレ掃除や授業の手伝いをしなければならない事になっている。無理に沢山取らなくても、毎日学校に来ればお腹いっぱい食べられると解ってからは、残す者は少なくなってきたそうだ。


 夕ご飯は、昼過ぎの授業を2つ受ければ食べられる様にした。


 したがって、朝と昼過ぎには子供が殺到する。

 授業もなるべく基礎から学べるようにしている。


「そうだよな」


 苦笑で返すしか無い。

 俺が無料で提供したのは、給食を知っているからだ。給食は有料だが、行政から補填が入っている。だったら、無料にしてしまってもいいだろうと思ったからだ。

 そして、腹を満たしていれば、悪い方向に進む子供を多少でも減らせると考えたからだ。計算と読み書きができれば、成人してからも商隊に入ったりする事ができるだろう。リヒャルトが最低限ここまでできれば合格と教えてくれたラインは確保させようと思っている。


 ただ、無理矢理教えてもしょうがないとも考えていて、授業は自由にうけさせる事にした。


 日本人なら子供の時に、親から言われた事があるだろう

”子供は勉強するのが仕事”

 このセリフを聞いた時に、子供ながらに、”仕事なら勉強したら給料くれよ”と思った・・・我ながら、子供だったと思う。

 そんなわけで、子供が勉強したのなら、仕事として認めて、賃金を払ってあげようと考えたのだ。ただスキルカードを渡したら、親や悪い連中が搾取する可能性がある。だったら、子供が喜ぶ事・・・お腹いっぱい好きな物を食べる・・・を、実現してみたらどうだろうと考えたのだ。


「えぇ学校で、読み書きと計算を習った子供が、成人して商隊や商店に勤めだしたのですが、それで問い合わせが殺到して、学校での成績次第ではすぐに雇うから成人する前に教えてくれ・・・と」

「そんな問い合わせがあるのだな」

「はい」

「それで、どうしている?」

「あっ問い合わせには、答えられないと返答しています」

「そうか、スキルカードや食材とかでサポートしてくれている商隊や商店には流していいと思うぞ」

「わかりました。校長と協議いたします」

「そうだな。頼む」


 成績と言っているが、履修した授業を一覧にしているだけだ。しっかり覚えたのかを証明する物ではない。

 この世界の学校ではどうしているのかと聞いたら、そもそも成績という概念がなく、学校を卒業した事を証明するだけのようだ。


「ツクモ様。本日はどういたしましょう?校長に案内させますか?」

「そこまでは必要ない。そうだ!学校に、ダンジョンモドキを作ったよな?あれどうなっている?」


 学校からの要請で、魔物が出ないダンジョンの様な物が欲しいと言われた。

 話を聞くと、サラトガダンジョンの様な物が2階層ほどであれば授業でダンジョン探索を教えられるという事だ。意味有る事なので、早速ライと相談して作る事にした経緯がある。

 調子に乗って、5階層になる大作を作成してしまった。


「子どもたちにダンジョン体験させるために使っています」

「そうか、使えているのならよかった」


 せっかく来てもらったミュルダ老には悪いけど、別に視察という意味合いは無いし、ここで帰ってもらう事にした。


 俺は、カイとウミとライを連れて、学園内をプラプラする事にした。


 ダンジョンモドキを見に行った所、授業で使っている様子だ。罠の見つけ方を教えているようだ。


 教室の方を見に行くと、小学1-2年生レベルの計算を教えていた。学校の目標としては、2桁の足し算引き算が暗算でできるようになることだと言っていた。掛け算や割り算はその上で、商隊や商人を目指す者たち向けの授業になっている。

 スキルカードの授業も行われている。潤沢とは言えないが、低レベルのスキルカードなら入手の目処は立っている。授業で好きに使っていいと伝えてある。使い方に関しては、親から教えられたり、教会で教えられる以外は独学で学んでいるらしい。そのために、独自の方法が編み出されては消えているのが状況だ。冒険者も、他人が使っている方法を見て学んだという者がほとんどだ。

 学校では、スキルカードの使い方を含めてまとめさせている。授業で教えるためという事もあるが、それ以上に冒険者に告知するためだ。せっかくだからできるだけ安全にダンジョンアタックをして欲しい。


 食堂は、今の時間帯は空いている。

 授業をやっているから当然なのだろう。入口で、今日提供されている料理が一覧で表示されている。

 お盆とお皿を持って、あとは好きな物を好きなだけ取ればいい。一度ではなく何度でも取りにいけるようにしている。お盆とお皿を受け取る時に、授業をうけたという印を提示するだけでいいのだ、もちろんスキルカードを支払えば大人でも食べる事ができる。

 値段設定は少し高めにしている。そうしないと、自由区にある食堂が発展しないからだ。


「カイ。ウミ。ライ。何か、食べてから帰るか?」


 魔物の分も1人と換算するので、食堂の入口でスキルカードを4人分支払って中に入る。魔物の入場もOKになっている。席は限られるが、専用の席がある。


 カイやウミに食べたい物を聞きながら皿に盛っていく、ライは基本的になんでもOKだから、俺と一緒の物にする。

 席について食べ始める。食事のレシピは提供したものをアレンジしているようだ。質は落とさないように言っている。予算がなければ、予算申請してくるようにも言ってある。


 授業が終わったのだろうか?

 続々と生徒たちが食堂に集まってくる。スキルカードの支払いをしている所を見ると、裕福な子弟なのだろうか?

 それとも年長組で、奉仕活動をして得たスキルカードなのだろうか?


 100名くらいが食堂に来ているようだ。急に騒がしくなる。なれているのか、それとも決まっているのか、席で揉めることは無いようだ・・・。ただ、俺の近くに来た生徒が、カイ達を見て、”あっ!”という顔をして会釈して早々に立ち去る。


 その理由がわかった。

 向こうから、見知った顔が生徒を先導して歩いている。


「ナーシャ先生。今日もケーキですか?」

「そうだよ。これのために、仕事しているのだからね!ツクモ君も酷いよね。ハチミツやメイプルシロップを私にくれないんだから!!クリスにも言っているのだよ?酷いと思わない?」


 ホォ・・そんな風に思っていたのだな。

『カイ。ウミ。ライ。ナーシャの回りの生徒を遠ざけろ』

『・・・かしこまりました』『わかった!』『うん!』


 カイとウミとライがすばやく動く。

 生徒たちは、ナーシャの話を聞きながら席を探していたのだろう、俺に気がついて、足元に居るフォレストキャットを見て悟ったようだ。


 ナーシャの回りから生徒が離れる。

 消えているのに気が付かないで、まだナーシャはブツブツ言っている。


「ねっそう思うよね!」

「あぁそうだな。ナーシャ!」

「!!!え?なんで??」

「ナーシャ。お前の気持ちはよくわかった。学校くらいは許してやろうかと思ったけど、必要なかったみたいだな」

「え?え?え?」


 俺が、ナーシャの前に立っているのが見えたのだろう入口から、イサークがすっ飛んでくる。


「ツクモ殿。申し訳ない」

「どうした、イサーク突然?」

「ナーシャがなにかしたのだろう?俺からも謝るから許してやってくれ」


 それは、恋人というよりも保護者と子供の関係だろう。


「わかった。イサーク。ナーシャの件はお前に預ける。ナーシャに、学校での無料奉仕一ヶ月と甘味の1ヶ月禁止を申し渡す。破った場合は、二人で更に奉仕活動を行ってもらう」

「はっ謹んでお受けいたします」

「・・・」

「ナーシャ!」

「かしこまりました。でも、甘味は許して欲しい・・・です。ごめんなさい」


 全く・・・。しょうがないな。


「イサーク。お前が、ナーシャを管理しろよ。俺の事は秘匿するというのを忘れさせるなよ」

「はっわかりました」

「ツクモ君・・・」


「甘味はダメだ。1ヶ月我慢しろ、イサーク。ナーシャがしっかり学校での奉仕ができると思ったら、俺に言いに来い、そうしたら、クッキーかパンケーキをお前にわたすから、それをイサークが食べるなり、ナーシャに食べさせるなり好きにしろ」


 俺も甘いなと思うけど・・・。このダメ女・・・なぜか憎めないのだよな。


 没収したケーキを生徒達に食べさせてから、食堂を出た。


「カイ。ウミ。ライ。ログハウスに帰るか?」

『主様。少し、リーリアの所に寄りたいのですがよろしいですか?』

「いいぞ?俺もついて行ったほうがいい?」

『いえ、大丈夫です。ライと一緒に行ってきます』

「わかった。ウミと先に帰っているからな」

『はい。ログハウスでしょうか?』

「うーん。執務室で待っているよ。どうせ、書類も来ているだろうからな」

『かしこまりました。ライ。行きますよ』『わかった。あるじ!行ってきます!』

「カイもライも気をつけて行ってこいよ」

『はい』『うん』


 なにか約束でもしていたのだろうか?

 まぁ気にしてもしょうがない。


 転移門を通って宿区に向かう。

 丁度、クリスの従者の1人と一緒になった。


 会話は無いが、警戒する必要もない。


 宿区に入ると会釈して走っていってしまった。たしか、サラトガ領主の息子だったはずだ。走っていかなくても良かったのにな。


 ウミは、カイと別れてから、俺の肩に乗っている。そのまま、ログハウス前の階段に向かっている。


 洞窟内の事を知っている者たちと話し合った結果、やはり俺の安全のために、居住場所に関しては秘匿しようという事になった。そのために、正面は岩で塞いで水を流しているだけではなく、草木で覆うことも決定した。隙間は存在するが、進化前の魔蟲が通り抜ける程度の大きさしか残されていない。ヌラ蜘蛛ゼーロは、基本的に洞窟の中を好んで生活している。新しい子どもたちもどういうわけか、洞窟生まれが多い深く突っ込んではダメな気がしてあまり考えないで居る。ヌルは、ログハウスの横に小屋を作って住んでいる。ログハウス回りには、エントやドリュアスが世話をしている果実園があり、そこの花から蜜を集めている。


 そのために、宿区からログハウスに向かうのは、岩肌に作った階段を上がっていかなければならない。俺も例外ではない。今日は、ウミが居るので、ウミが本来の大きさになって、ウミに乗って上まで行くことにした。


「ウミ。頼むな」

『わかった!』


 あっという間にログハウスに到着する。

 今日の門番は、サームエントの担当のようだ。


「おつかれ。何か異常はあったか?」

「何もありません。大丈夫です。大主様」

「そうか、ありがとう。後で、カイとライが来ると思うけど、よろしくな。執務室に居ると言っておいてくれ」

「かしこまりました」


 ログハウスまではもう少し距離があるが、ウミから降りて歩いていく事にする。ウミも俺の肩に戻っている。


 執務室に入ると、ドリュアスが着替えを持ってきてくれる。汚れているわけではないが、着替えてほしいそうなので、下着以外を取り替える事になる。後で風呂に入る事になるので、下着はその時でいいということにした。

 本当に、メイドのドリュアスや執事のエントは、俺がログハウスに居ると世話を焼きたがる。

 最近はマシになってきたが、それでも何かしら理由を作っては言ってくる。


 執務室には、嘆願書が数枚置かれている。

 商隊から珍しい食材や調味料が入ったことを知らせる書類も混じっていた。


 明日は、リーリアとエリンとドリュアス達をログハウスに呼んで、レッツクッキングだな。

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