第二話

 光が消え、あたりを見回してみると、草原の中に、一人立っていた。

 約束通り、人が居ない所で、魔物も弱い所に、転移してくれたと思って良さそうだ。


 それよりも、本当に転移したのだな。

 それに、若返っている。これじゃ、転移系の定番、地球に戻るはなさそうだな。まぁ一度死んだと思って、こちらの世界を楽しむ事にするか!


 まずは、知識の確認をしないとな。


 言語は、統一されていないのか・・・・。ん?言語?

 まずい、そう言えば、言語の事を聞き忘れていた。簡単な英語はできるけど、英語では通じないだろうし、それ以外では、日本語と、C言語とパスカルと、Javaと、C#と、BASICと、PL/Iと、COBOLと、あと・・・PHPと、Rubyと・・・・錯乱してしまった。Fortran も大丈夫だな。M系のアセンブラも書き出せば思い出すかな?


 そういう事ではなく、多分こちらの言語を覚えないとならない。共通言語が有るようだか、それを覚えればいいのだろうけど、共通言語がどれなのかわからない。


 言語も問題だけど、拠点作りをしないとならないのだろう。

 着るものは最悪このままでいいけど、食事と住居の確保は急務だろう。どこかに、安全な洞窟があればそこを改築していくのだけど、周りにはそんな雰囲気はない。


『あぁぁ客人。聞こえますか?』


 頭の中に、スクルド神の声が響く。直接話しかけられているようだ。


「え?あっはい。大丈夫です」

『言葉ですが、客人が今話している言葉が、レビィラン語と言って、共通言語になっています。長さや重さの単位もそのままで大丈夫ですよ』

「あっありがとうございます」

『これは、神託です。長い時間は無理ですので、それでは』

「・・・あっ」


 接続が切れた感じがした。

 見られているのは間違いないという事だな。別に、露出癖は無いが、気にしてもしょうがないのだろう。忘れる事にしよう。


 さて、言葉の問題が解決したが、これからどうしよう。


 立ち上がって周りを見回すが、”草原”だけしか無い。マップ機能でもあれば違うのだろうが、最低でも水の確保はしておきたい。


 水が流れるような音はしないし、地中深く掘る道具も無い。

 ・・・・もしかして、詰んだ?

 道らしき物も見えないから、近くに町や村はないのだろう。


 情報の中に人口や大陸の大きさがあるが、それから考えると、一箇所にまとまっていれば、日本の地方都市位の大きさはあるかもしれないけど、そうでなければ、数千単位の集団が殆どなのだろう。交流も殆ど無いと考えたほうがいいのかもしれないな。


 さて、ここで考えていてもしょうがない。

 ”運を天に任せて”どちらかに進み始めようかな


 もらった防具は、いわゆる”皮の鎧”のようで、鑑定しても、皮の鎧と出てくる。街に行ったら買い換えればいい。ライトアーマとは言わないけど、もう少し安心できる物が欲しい。

 武器は、ショートソードが二本だ。二刀流なんて器用な真似はできないけど、予備だと思えばいいかな。後、ナイフの様な物もあった。


 無限収納とは言わないけど、アイテムボックスの様な物は欲しかったな。


 装備も確認したし、異世界探索を始めましょうかね。

 

/***** ??? Side *****/


 男性が二人、ソファーに座って話しをしていた。

 一人は、青年だが明らかに動揺している。そんな青年を見て、再度事情を説明した


「それは本当ですか?」

「お前も、儂の跡を継ぐのだ、もう少し落ち着いたらどうだ?」


 老年の男性は、座っていた椅子から立ち上がって、青年にソファーに座るように促してから、自分は正面に座った。


「そう言われましても、サイレントヒルに、光の柱が立ち上がったのは間違いない事実です。それを、何もしないとは?もし、以前のように、ドラゴンだったりしたら・・・」

「だから、落ち着けと言っている。そもそも、ドラゴンなら、教会から何か言ってくるだろう?それが無いのだぞ、それに、サイレントヒルまでどのくらいの距離があると思っておる?」


 二人は、周辺の状況がわかる、地図を広げながら話をしている。


「しかし・・・」

「わかっておる。しかし、今はまだ時期ではない。まずは、収穫を終わらせてから、周辺の奴らの動向を調べてからでも遅くはないだろう」

「・・・わかりました。それでは、何か動きがあれば知らせるようにいいましょうか?」


 老年の男性は、何か考える仕草をして、しばらく黙って、青年を見ている。


「そうだな。お前の下に、速駆のスキルを持つ者がいたな」

「え!あっはい。2名居ます」

「今、そいつらを動かす事はできるか?」

「できますが?」


 老年の男性は、その言葉を聞いて”ニヤリ”としてから


「よし。サラトガとアンクラムの連中に、”サイレントヒルに何かが有ったかもしれない”と、知らせてやれ」

「あっはい。指示を出します」

「あぁそのときに、商人・・を向かわせるのを忘れないようにな」

「・・・かしこまりました。向かわせるのは誰にしましょうか?」

「お前に任せる」

「はい」


 老年の男性は、青年に指示をだし、部屋から出ていくように促した。


「あやつも、もう少し考えてくれないとな。何も、我らだけが、危ない橋を渡る必要は無いだろう。誰かが、益を得たのなら、それを奪えばいい。そのための、準備をしておけばいいだけだろう・・・」


/***** カズト・ツクモ Side *****/


 とりあえず、小高い丘の頂上を目指すことにした。

 高い所から見下ろせば、違った情報が手に入ると思ったからだ。


(・・・何も・・・いや、森か?森があるって事は、水も有るだろうし、何かしらの生態系が形成されているのだろう。動物はいないと言っていたが、それだと、種子を運ぶ方法が無い。何かしらの生き物は存在しているのだろう。全部、スキルでなんとかするとか言われると困ってしまうが、それを調べる為にも、移動したほうがいいだろうな)


 覚悟を決めて歩き始めるが、1時間後には、弱音を吐き始めて、2時間後には、座り込んでしまった。


 何もしないのも時間がもったいない感じがしたので、スキルの確認や、鑑定を行う事にした。


 そのあたりにある草を抜いて、”鑑定”と念じてみた。


// 草

// 食用に適さない


 もう少し情報が出ない物かな?

 見た目から違う種類の草を”鑑定”してみたが、結果は同じだ。もしかしたら、これは俺の知識と連動しているのではないか?


 もらったナイフを”鑑定”してみる


// ナイフ

// 鉄製のナイフ

 

 ついでに、剣も鑑定してみる。


// ショートソード

// 空きスロット:3


 ん?スロットってなんだ?


// スロット:スキルが付与できる


 これが、スクルドが言っていた、スキルの付与なのだな。

 鑑定すれば解る物を、なんで現地の人たちは使わないのだ?


 理由がわからない。俺がもらった”鑑定”が違うのかもしれないし、そもそも、鑑定が知識に基づいているのなら、現地の人たちには、スキルスロットという知識が無いのかもしれない。説明するのも難しいだろうし、気が付かないで使っているのかもしれない。

 まぁ調べるにも比較対象が居ない事には話が進まない。


 まずやってみるしか無いのだろうな


 今持っているスキルは、”火種”と”隠蔽”だが、剣につけるのなら、”火種”という事になる。


 やり方は、知識としてもらっている。


 火種のスキルを、顕現させる。


 素材はわからないが、スキル名とレベルが書かれた、カードが顕現する。


 剣を持って、スキルカードをゆっくりと剣に差し込むようにする。これで問題ないはずだ。


 少し抵抗があったスキルカードが途中まで来ると、”すぅーと”剣に吸い込まれていった。


 よし!

 鑑定!


// ショートソード

// スキル:火種

// 空きスロット:2


 よしできた!

 次は、使ってみよう。


 剣を構えて、”火種”と詠唱する。


 ”ぼっ!”

 剣先に、炎が灯る。身体の中から何かが抜けていくのが解る。これが魔力なのだろう。剣としては、使いみちが無いが、火を付けるには使えそうだな。魔力の提供を意識して止めてみると、炎が消えた。


 再度使ってみよう。

 ”火種”・・・・え?


 先程と同じようになると予測していたが、炎が灯らない。

 剣を鑑定してみる


// ショートソード

// 空きスロット:3


 ・・・・

 ・・・・

 ・・・・そうか、スキルは使えばなくなる。剣に吸収させた物でも、使えばなくなるのは、当然の事だ。


 これじゃ、スキルを付与した便利な道具ができないわけだ。これなら、自分でスキルを使うのと変わらない。


 少し歩いてから、次の休憩の時にでも考えるか!


 それから、スクルドから与えられた知識を参照しながら、歩いた。

 喉が乾いてきて、疲れもピークに達した時に、目の前に森が広がっているのがわかる距離まで近づく事ができた。


 後、10分も歩けば森まで到達できるだろう。

 喉も乾いているが、今日はここまでにしよう。風で飛ばれてきたのだろう、木々も有るし、石も見られる。


 初っ端からかなりハードモードだな。

 ラノベの定番では、この辺りで、盗賊が襲ってきたり、金持ちの馬車が魔物に襲われたり、王族や貴族が襲われたりするのだろうけどな。静寂が広がるだけで、俺以外の生物さえ見当たらない。


 確かに喉が乾いているし疲れてもいるが、以前の俺では考えられない位に動いている。若返った影響なのか、それとも、異世界だからなのかはわからない。


 周りの木々を集めて・・・。先に、剣に、火種を”固定化”できないか試してみる事にする。


 先程と同じ要領で、剣と火種のスキルカードを用意した。

 今度は、自分の”固有スキル”を使って、剣にスキルを付与してみる。剣にスキルカードを差し込むのではなく、両手でしっかりと保持して、”固定化スキル”を発動する。発動方法は、詠唱を行うのだが、イメージがしっかりとしていれば、念じるだけでスキルが発動する。


 固定化スキルが発動して、火種のスキルカードが消えた。

 自分を鑑定してみても、火種が一つ減っている。剣を鑑定してみる。


// ショートソード

// 固有スキル:火種

// 空きスロット:2


 今度は、固有スキルとして、火種が付与されている。

 試しに、使ってみる。先程と同じように、剣先に炎が灯された。一度、魔力の供給を遮断して、再度使ってみる。


 今度は、問題なく複数回使えるようだ。回数制限が有るのかわからないが、これで、しばらくは火種と灯りには困らないだろう。

 集めた木々に、剣先を近づけて、火をつけた。


 固定化は、間違いなくチート能力なのだろう。


 そうだ、隠蔽で隠しておいたほうがいいのだろうか?

 その前に、他の”眷属化”や”創造”もヤバそうな匂いがしている。そう言えば、鑑定でしか自分を見ていないけど、”ステータスオープン”だったかな?


 お!


名前:カズト・ツクモ

性別:男性

年齢:10

種族:フューム

パーティ:なし

称号:客人

固有スキル:固定化

固有スキル:眷属化

固有スキル:創造

スキル:鑑定

体力:G

魔力:A-


 あ・・・だめな項目発見。称号は隠蔽しておいたほうがいいだろう。あと、魔力の”A-”も隠蔽対象だけど、魔力は隠蔽しないほうがいいだろうな。この世界の平均が、C程度だから、体力はかなり低くて、魔力がかなり優秀という事になってくる。そう見えればいいし、”眷属化”は珍しくもないと思いたい。他が、まずいような気がする。それに、魔物を連れて歩いている時に、固有スキルがあると言う方が信頼してもらえるだろう。


 隠蔽のスキルカードは、3枚(単位は、枚でいいのか?)


 ”固定化”と称号の”客人”と”創造”を対象とすればいいようだな。

 隠蔽のスキルカードを、顕現させて、スキルを発動させる。まずは、称号の客人を意識する。


 スキルが発動したようだ、スキルカードが消えてなくなる。

 ”ステータス”を確認する。


名前:カズト・ツクモ

性別:男性

年齢:10

種族:フューム

パーティ:なし

称号:---

固有スキル:固定化

固有スキル:眷属化

固有スキル:創造

固有スキル:鑑定

体力:H

魔力:A-


 できているようだ。鑑定を行ってみる。


// 名前:九十九万人つくもかずと

// 性別:男性

// 年齢:10

// 種族:フューム

// パーティ:なし

// 称号:(隠蔽)客人

// 固有スキル:固定化(レベル2)

// 固有スキル:眷属化(レベル1)

// 固有スキル:創造(レベル1)

// スキル枠:鑑定

// スキル枠:----

// スキル枠:----

// スキル枠:----

// スキル枠:----

// スキル枠:----

// スキル枠:----

// スキル枠:----

// スキル枠:----

// レベル1:火種(8)

// レベル2:

// レベル3:

// レベル4:隠蔽(2)

// レベル5:

// レベル6:

// レベル7:

// レベル8:

// レベル9:

// レベル10:

// 体力:H

// 魔力:A-


 問題ないようだな。固定化と創造も同じように隠蔽した。

 そう言えば、スキルカードが通貨になっていると言っていたけど、鑑定がないと表示できないのは不便じゃないのか?


 ”スキルリスト”

レベル1:火種(8)

レベル2:

レベル3:

レベル4:

レベル5:

レベル6:

レベル7:

レベル8:

レベル9:

レベル10:


 お!これで、持っているスキルカードの一覧が見られるのか。

 価値に関しては、街に行かないと確認できないだろう。


 防具は一応ある。剣も二本ある。チートだと思われる能力もある。ある程度の知識もある。


 しかし、空腹を紛らわせるだけの材料も無ければ、喉の渇きを潤す物もない。

 未来に、向けてなんとかなるという思いだけが存在している。


 考えるのも馬鹿らしくなる状況だが、なんとかなりそうだと思えてしまう。

 風で揺らぐ炎を見て、大地に寝っ転がる。天を見上げれば、見たことが無いほどの星々が、俺を見ているようだ。名も知らない星々が、優しく見守ってくれている。


 俺は、ゆっくりと目を閉じた。

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