スキルイータ

北きつね

序章

第一話

 ここはどこだ?

 ちょっと待て、昨日、やっとデスマから開放されて、しっかり納品された打ち上げをやったのは覚えている。その後で、馴染みの店に顔を出した。


 その後だ!電車に乗ったと思う。


 全部考えても、おかしな状況を説明する事は出来ない。


 さて、落ち着こう。辺りを観察しないとダメだろう。


 目の前には、乗ろうとした電車が、止まっている。そう、オレンジのラインが入った、真ん中を走る電車だ。車掌の顔がはっきりと見える。身体も動くから、俺は”まだ”死んでは居ないのだろう。

 横を見ると、ホームの上で、同僚や部下がすごい顔をしてこっちを見ている。どっかで見た顔だけど・・・、知らない奴も居る。なんで、お前だけ、驚いていない。


『やっと目が醒めたな』


 音が無くなっていた状況で、鼓膜を揺らすのではなく、頭の中に声が響いた。


「誰?」

『わかりやすく言えば、神だな』


「え?俺、転生ですか?転移ですか?」

『話が早くて助かる。もう一つ選択肢がある”このまま死ぬ”事もできる』

「えぇと、”助かる”という選択肢はないのですか?」

『悪いが、その選択肢はあるにはあるが・・・確率としては、0.00000005%だな』

「はぁ?宝くじの1等7億が当たる可能性の100倍以上?」

『極々少数だな。そして、お主は運が悪い。今日も、お主を突き落とした、そう、お主が指さした奴だが、2年ほど前に、お主がやった仕事の』

「あ!思い出した、あいつ、俺の作ったモジュールをめちゃくちゃにして、バグだらけって報告を上げた、中間会社の奴だ!」

『奴が、その後どうなったのか聞いておらぬのか?』

「別に、興味がなかったので・・・」

『そうか、奴は、お主が作り直して、なんと言ったか、前に保存した物から、証拠を提出したのだったよな』


 そう、バージョン管理システムから、俺がコミットしたソースを引っ張り出して、それ以降に奴が、改悪^H変した、ソースを比較した報告書を、親会社に提出して、俺の問題ではない事を証明した。


『その後、会社を辞めさせられる事はなかったが、別部署に回されて、年下の部下になったのは、全部お主が”仕組んだ”と、思っている』

「はぁ・・・まぁそれはいいです。それで、”死ぬ”にしろ、”転生”や”転移”にしろ、俺という存在はどうなるのですか?」

『そうじゃな。”死”というか、このまま時間を流すのは、成り行きになるので、いいじゃろ?』

「あっはい」

『儂には、転生をさせる事ができない。依頼されているのは、転移じゃでな』

「依頼?」

『あっ今の言葉は、なかったことにしてくれ』

「・・・分かりました、貸し一つです」

『お主。いろいろ、まぁいい。それで、転移になるのじゃが、お主の代わりを用意する事になる』

「代わり?」

『そうじゃお主にわかりやすく言えば、ホムンクルスじゃな』

「え?」

『正確に言えば違うが、そう思ってくれれば、いい。それで転移でいいのじゃな?』

「あっはい。それで、転移先は?」

『そうだった、そうだった』

「あの・・・転移先は、そのホームの上というわけには・・・あっダメですよね。ごめんなさい」


 提示された転移先だが、いくつか存在していた。

・スライムが魔王になって、世界をまとめている世界・・・・

・誰でも使える錬精術を操る勇者の一人が、世界を救った世界・・・

・リストラした元部下に、突き落とされた後で、幼女に転生した男が戦っている世界・・・

骸骨エルダーリッチ?の超克者に転生した男がいる世界・・・

・スマホを持った学生が、たくさんの嫁と楽しく暮らしている世界・・・

・全てがゲームの勝敗で決定する世界・・・


 全部拒否する方向でお願いした。


『お主、わがままだな』

「はぁ・・・すみません。でも、今言われている世界・・・なんか、ダメな気がしているのですよね」

『人気があると聞いているのだがな』

「・・・誰からの情報?」

『まぁよい。転移者も転生者も居ない場所の方がいいのか?』

「そうですね。できれば、そうしていただけると・・・楽しめそうですので・・・」

『そうか、それなら・・・そうだ、少し待っておれ!』


 なんだかなぁ

 でも、本当に、こうして時間が止まっている世界を体験していると、”神”というのもうなずけるな。

 神なら、俺一人生き返らせることくらい出来そうなのにな


『お主。何をふざけた事を言っている。生き返らせるなぞ、神でも無理だ』

「え?あっそうなのですか?」


『お主の転移先の候補を探してきたぞ』

「あっありがとうございます」

『なに、これで、儂のノルマも達成・・・いや、そんな顔で見るな。こっちの話だ!』

「それで、その場所は?」

『あぁそうだった。お主の希望通り、転移者も転生者も居ない世界だ。人族同士の戦いは、たまに発生しているが、お主がゲームとやらで馴染んだ魔物が居る世界だ。魔法も存在するぞ』

「はぁ・・・文化レベルや宗教的な事は?」

『文化レベルは、行ってから確認しろ。宗教も同じだな』

「そういう"言い方"って事は、テンプレ通り、中世程度で、面倒な宗教もあるのですね。そして、魔法があるから、いびつな発展を遂げている・・・。なんですか?」

『儂。お主のそういう所は嫌いだ』

「はぁそれで?何か、ギフトの様な物はもらえるのですか?先程からの話を聞いていると、貴方様は、俺に”転移”して欲しいのでしょう。それで、”ノルマが達成できる”と、いう事ですし、”依頼”でもあるのですよね?」

『そうだな・・・お主・・・チョット待っておれ』

「はぁ」


 チートすぎるのも生き難いと思うけど、何かしらの”力”がないと、俺なんてすぐに死んでしまうだろうからな

 喧嘩なんて、高校の時以来していない・・・精神的な喧嘩なら、散々やっているけど・・・。

 国を作って、王様になんてなりたくないし、勇者になって魔王に立ち向かうなんて柄じゃない。食べるに困らない程度稼げて、プラプラする位がちょうどいいな。あぁあと使命とかもいらないな。


『お主の希望通りになるかわからないが、いくつかのスキルが付く事になったぞ』

「え?あっありがとうございます。魔法は?」

『魔法に関しては、ほとんどの人族が使えるから安心してよい』

「属性とかは?」

『魔力がある限り、属性は関係なく使える”らしい”ぞ』

「え?”らしい”?」

『違った、属性は関係なく、スキルがあれば、使える世界だぞ』

「はぁ・・・俺、魔力なんてありませんよ?」

『地球での、精神力が魔力に相当する、お主の鍛えられた精神力ならかなりの魔力量になると思うぞ』

「へぇ・・・それで、他には、言葉は、読み書きの問題はないのでしょうか?後、スキルやステータスを隠蔽したりはできますよね?」

『隠蔽か・・少しまっておれ』


 もう面倒だよ。

 その別の世界の神と交渉しているのなら出てきてくれればいいのに、何かできない理由でもあるの?


『何度も悪いな。隠蔽はできるが、パーティを組んだ者には見えてしまうそうだ。偽装スキルを身につければいいそうだが、偽装スキルは、今品切れだそうだ』

「品切れ?」

『あぁお主が向かう世界は、スキルを通貨のように使用する世界だ』

「え?通貨が無いのですか?」

『いや、通貨はあるにはあるが、そうだ、基軸通貨が、スキルだと言えば解るか?』

「はぁ・・・。でも、スキルだと、価値の有り無しが問題にならないのですか?」

『それは大丈夫だ。スキルのレベルで、価値が決まっている』

「へぇそうなのですか・・・それだと、別の人には無価値でも、俺には価値があるスキルでも、”同じ価値”と、いうこともあるのですね」

『・・・。詳しい事は、向こうで聞いて欲しい』

「わかりました。それで、俺にはどんなスキルを?」

『それも、向こうで聞いて欲しい。自分で説明すると言っておる』

「え?あっわかりました。それで、転移は”いつ”始まるのですか?」

『もうそろそろのはずじゃ』


 ”神”のセリフを聞いてから、足元?を見ると、何やら光りだした

 魔法陣が浮かび上がってきている。


『そうだ。一つ、お主』

「転移していただける事、感謝いたします。それと、地球での人生も、いろいろありましたが、楽しかったですよ。”心残りがない”とはいいませんが、満足できる人生です」

『そうか、感謝する。セカンドライフだと思って、楽しんでくれ。使命も何も無いと聞いておる』


 足元の魔法陣の光が強くなる。

 光が、俺を包むようにさらに強く光る。暖かい陽だまりの中にいるように感じてしまった。


 眩しさから目をつむってしまって、光が弱まった感覚があり、目を開ける。


『おぉ目を覚ましたか。客人。すまないな』

「いえ、大丈夫です。私も、」『客人よ。我に、敬語は必要ない』

「はぁそれで?」


 目の前に、いる女性は、名前を名乗らなかった。なんでも、名前は認識でない上に、無理に聞いてしまうと、良くて廃人で、悪くすれば死んでしまうという事だ。死んでいるにも近い状況なのに、さらに死んでしまうとは・・・と、思ったが、それは言わないで置くことにした。


『それで客人。汝が、我の世界に来てくれるのだな』

「はぁそうなります」

『それは重畳。奴から話を聞いておるのか?』

「まぁスキルが通貨代わりになっているとか、文化レベルが、地球の中世レベルで、面倒な宗教があるという事は、聞いています」

『・・・(あやつ)』

「え?」

『なんでもない。それ以外は?』

「魔法があるとか、魔物がいるとか、程度です」

『そうか、(全部説明するのは面倒だな)それでは・・・知識を与える』


女神になるのか?女性が、俺の頭に手を置いた。瞬間何かが流れ込んできた


「っ!」

『ほぉ面白い特性を持っているようじゃな』

「特性?」

『固有スキルと言ったほうが、今の客人にはわかりやすいかな?』


 何やらニヤニヤしてる。

”固有スキル?”

 その瞬間に、目の前にARがの様な物が広がった。


「え?」

『そう言えば、客人がいた世界では、スキルはなかったのだったな』


 中には、

// 固有スキル:魂に結びついたスキル。回数制限がない


 そう表示されていた。

『見られたようだな』

「これは?」

『鑑定スキルじゃ』

「鑑定?俺、鑑定なんてしていませんよ」

『サービスじゃ』

「・・・あの・・・申し訳ありません。説明になっていませんが?」

『面倒じゃな。今のは、スキルを一つ付与しておいた結果だ』

「え?あ・・スキルは、使うとなくなるのでは無いのですか?」

『そうじゃよ。あぁそうか、説明じゃったな。客人のスキルに、”固定化”が有ったのでな確認したら、枠が開いていた。そこに”鑑定スキル”を固定した』

「あ・・・ありがとうございます」

『それで何を聞きたいのだ?』

「え?あっ」


 スキルの使い方や、固定スキルの事。今、聞きたい事が全部わかった。


「あのぉ・・・それで、俺につけてくれる”スキル”は?あと、本当に何も使命とかはないのですか?」

『そうだった。そうだった。客人は、魔力も通常の人族よりも大幅に多いし、エルフ族よりも多いようだな。どんな、生活をしたら・・・まぁよい。使命じゃったな』


 そんな事知りませんよ。

 社畜になったつもりは無いですし、ブラック企業ではなかったと思うのだけど、そこで、20年以上みっちり鍛えられただけですよ。


『使命は・・・』

「はい」

『特にない。好きに生きてくれ、あとできたらで構わないが、客人がやりたいと思った事は、我慢せずに実行して欲しいだけじゃ』

「え?でも、地球の中世程度ですよね?オーバーテクノロジーだったり、時代が変わったりしてしまいませんか?」

『大丈夫じゃろ。スキルがある世界だし、客人が素材から作ってしまうような事はできないじゃろ?』

「そうですね。家電なんて物はできないでしょう」

『家電か・・・地球の神に自慢されたが、似たような物なら、スキルを付与した道具で実現できるのだけどな』

「え?」

『なんじゃ?』

「いえ・・・。”できるのだけどな”とおっしゃいましたが、現状はないのですか?」

『そうじゃ。領主や豪商が、数点持ってはいるが、庶民が持つような物ではないな。作り方は、客人ならわかるだろう?』


 確かに、知識として与えられた中に、スキルの付与方法がある。

 これを使えば、便利な道具を作る事ができるのだろう。


「あのぉ・・・それでスキルは?」

『客人は、せっかちじゃの・・・この世界ができてから、初めての客人で、皆楽しみにしているのに、もうちっと話をしてもいいじゃろう?』

「俺は、それでも構わないのですが・・・」

『そうじゃな。なる早と言われている事もあるからな。一気に説明するぞ、まず、客人。自分に鑑定をしてみなさい』

「あ!はい」


名前:九十九万人つくもかずと

性別:男性

年齢:10

種族:フューム

パーティ:なし

称号:客人

固有スキル:固定化(レベル2)

固有スキル:眷属化(レベル1)

固有スキル:創造(レベル1)

スキル枠:鑑定

スキル枠:----

スキル枠:----

スキル枠:----

スキル枠:----

スキル枠:----

スキル枠:----

スキル枠:----

スキル枠:----

レベル1:火種(10)

レベル2:

レベル3:

レベル4:隠蔽(3)

レベル5:

レベル6:

レベル7:

レベル8:

レベル9:

レベル10:

体力:H

魔力:A-


「眷属化?創造?」

『見られたようじゃな。手元に、偽装がなかったのでな、隠蔽で我慢してくれ』

「え?あ、ありがとうございます。眷属化と創造というのは?」

『客人は、猫と言ったか、魔物を使役していただろう?それと、ぷろぐらま?だったか、何か作り出す事を、なりわいに、しておったそうじゃな。それをスキルとして魂に刻んだ有効に使ってくれよ』

「はぁありがとうございます」


 訂正するのも面倒だから、そのまま流す事にした。

 それよりもだ!


「それで、年齢は?なぜ10歳なのでしょうか?」

『あぁ客人の年齢は知っておるが、その年齢のままだと、固有スキルがとんでもないレベルになってしまって・・・魂を若返らせた。何か不都合でもあるのか?』

「いえ、それはいいのですが」

『なら気にするな』


 何か、重大な事を聞き忘れているような、ごまかされているような感じがしてならない。

 年齢も年齢だし、なんとかなるか?


「わかりました。後は、いただいた知識とスキルでなんとかしてみます」

『そうじゃあと、適当にスキルを与えておく、他に何か要望は?』

「そうですね。慣れるまで時間がかかると思いますし、確認作業もしたいので、人が少ない所で、魔物も比較的弱いか居ない所に転移していただければと思います」

『了解じゃ。他に何もなければ、転移を始めるぞ』

「あぁ大丈夫です・・・あっ」

『なんじゃ』

「いえ、いろいろありがとうございます」

『よいよい。それでは、転移を始める』

「お願いします」

『我。スクルドが命じる。彼の者を、我の世界へ』


 詠唱なのだろうか?

 スクルド?


 足元に、魔法陣が浮かび上がる。

 身体が光に包まれる。


 あっ防具や武器や攻撃スキルの事を聞き忘れた!!!!

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