第4話 前編 Cruising&dog fight

それはとてもとても鮮やかで、優しくて残酷だった。


遠い過去に閉じ込めた記憶が蘇る日が来るのだろうか。


白い着物を見に纏った少女は何もせず、愛車NSXのバケットシートに身を任せていた。


寒緋桜を想わせる桃色のホイール、特徴的なエアダクト。

NSXのルーフ後部に取り付けてあるエアダクトはワンオフ品で、レース用に作られたパーツを参考にして作られたのだろうか、これは同じ型のNSXのレースカーに付いている物とほぼ同じと言っていいだろう。

ホイールはワーク・マイスターS1で、五本スポークのホイールだ、リムはシルバーで、ホイール本体は桃色だ。

フロントバンパー・サイドスカート・リアパンパーは圭オフィスのパーツで、リアスポイラーはマルガヒルズのGTウイングが装着されている。

またミラーも変わっており、クラフトスクエアのエアロミラーが装着されている。

車体両サイド後部にはステッカーが貼ってあり

PROJECT μ・ TEIN・ TRUSTの順で貼り付けてある。

そしてドア両サイドにはレカロスポーツのステッカーが貼ってあり、同じくフロントバンパーには通常のレカロステッカーが貼ってある。

リアスポイラー上部に無限ステッカーと同じくフロントガラスとリアガラスに無限ステッカーが貼ってある。


チューン内容は以下の通りだ。


: レース仕様 約700馬力


レース用スリックタイヤ FALKEN


レース用ブレーキパッド PROJECT μ


レース用サスペンションキット TEIN


NA(タービン未装着のことを指す)


レーシングマフラー TRUST


CPU アペックス


エンジン 競技用パーツ使用NSX NA1型エンジン(V6 VTEC改)


ギア 最高速仕様セッティング チューンド


軽量化 アクリルガラス化 カーボンドア その他内装肉抜き


ボディ補強 ロールバー・タワーバー装着済み :


NAで700馬力を捻り出すモンスターマシンを駆るのは、木南冬桜、彼女の名は冬に咲く桜にちなんで付けられた名前らしい、冬の桜と書いてかずさと読む。

冬桜はNSXのギアを一速に入れクラッチをミートさせゆっくりとその車体を前進させて行く。

多板クラッチのシャリシャリ音がチューニングカーである事を証明するかのように唸る。


白のNSXはその太いレース用のスリックタイヤを軋ませ、VTECサウンドの爆音と共に薄暗い闇へと消えていった。



「平賀さん、調子はどうですか?」

俺はこの間の事故の怪我が治り、その時の事故で大破したRX-7の様子を見に、平賀さんのショップへ足を運んだのだ。

「ちょっと色々あったけどね、悪くないわ。あぁ、そう言えば見せたいものがあるの」

平賀さんはそう言うと古い方の倉庫の扉を開けて、倉庫の中を見せてくれた。

するとそこにはブルーシートを被せられた一台のマシンと、もう一台見慣れないマシンが停まっていた。

「このコルベットは・・・WESTコルベット?」

俺の目の前にあるのは黒のコルベットだった。

「いいえ、これはWESTコルベットじゃありませんよ、WESTコルベット仕様です」

そう俺に言ったのは平賀さんではなく、可憐なメイド服に身を包んだ一人の少女だった。

肌はとても白く、左目には眼帯をしていた。

両腕の手首から腕には包帯が巻いてあり、包帯には血が滲んでいる。

「私は西條珠里って言います、しゅりって呼んでもらって結構ですよ」

と少女は言い、優しく微笑んだが、何処か寂しそうにも見えた。

「あ、珠里って言うんだ、名前聞くのすっかり忘れてたわ」

平賀さんがこのメイド服の少女の事を色々思い出したようにそう言った。

「じゃあ珠里ちゃん、あとは頼んだわよ」

と言うと平賀さんは早々と倉庫を去っていってしまった。

その後しばらく俺はメイド服の少女に付き合っていた、そして少女は色々な話をしてくれた。

車の話から人生経験の話まで、そして何故ここに居るのか、そんなような事を二人で話し合っていたら、いつの間にか日が暮れていた。


「もうこんな時間になってしまいましたね」

と珠里は言う、そして俺も同じことを思っていた。

「あの、良かったら走りに行きませんか?貴方の車直ったばかりって聞いたので、慣らしついでにどうですか?」

と珠里は言う、俺は断りたかったが、せっかくなのでその黒いコルベットとつるんで走ってみたかったので一緒に走る事にした。


夜の首都高速、新環状線。

街灯が進路をぼんやりと照らし映している、今日はバトルではなくクルージングだ。

一般車両が疎らに走っていた、タクシーやトラックが多い。

車内の時計は午後八時を指していた。

一般車の中に紛れて走り屋と思わしき車も居る、GT-R系のマシンが多かった。

そして中には珍しい車もいる、70スープラや20ソアラ、そして初代MR2やランサーターボ・・・挙げたらキリがない、要するにここは車好きにとっての最後の楽園という事を改めて実感させられる光景が広がっていたという事だ。

しばらく走り、新環状線から湾岸線へと路線を変えた。

三車線になり視界が僅かに広がった気がした。

そして湾岸線をしばらく道なりに走っていると、背後から超高速で接近して来るマシンを捉えた、四つのヘッドライトにロックオンされている様だった、機影と言うべきか、右車線・左車線を超高速で走行しているようだ。

機影が近づいてくる、俺と珠里は中央の車線へ緊急回避、間一髪で迫り来る影をかわした。

空気が割れ、地が揺れる、そこに残ったのはテールランプの残光だけ。

二台が俺のマシンを通り過ぎる瞬間、ほんの僅かな時間ながら、車体が見えた。

白のNSX NA1とバイパーバイオレット パールコートのダッジ バイパー。

その二台は間違いなく本物の走り屋、そして首都高ランナーだった。


またしばらく走り、高速を降りた後、コルベットの窓を開け、手で合図をしてきた。

意味は(私のコルベットの横に貴方のマシンを並べ、この信号が青になったら向こう側の信号までアクセル全開で走り抜ける)

要するにゼロヨンだ。

(3・2・1・・・GO!)

珠里の指の合図と共に信号が青になった、俺のFDと珠里のコルベットがタイヤを軋ませロケットスタートした。

強いGと共に身体がシートに押し付けられる。

一瞬にして景色が後ろへ飛んで行った、比喩ではなく本当に飛んだ。

向こう側にあったはずの信号がもう手前にある、先行はコルベットだった。

信号を抜け、決着が着いた。

ゼロヨンに勝ったのはコルベットだった。

あっという間の九秒だと感じた、俺はアクセルを抜き、習性だけでマシンを走らせていた。

ふと気がつくと、俺のFDの横に黒のコルベットが並走していた、珠里だ。

珠里は再び手で合図をしてきた、今度は(残念でしたね、また今度)という意味と思われる合図をして、交差点を左に曲がり、コルベットと共に夜の闇に消えていった。

俺は車内の時計に目をやった、時間は午後十時半を指していた。

「やべぇ、絵里花に怒られる・・・」

俺はそう呟き、急ぎ自宅に帰るのであった。

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