第19話 予感

 夕方、生徒が皆帰宅するこの時間帯、唯子は一人、特別相談室のチェアーに座り、デスクに突っ伏していた。

いつも彼が座っていたこの椅子。

 今日ここに彼はいない。いや、もうこの世に彼はいない。私を残して、彼はこの世を去ってしまった。

 私一人だけの特別相談室。ここはもう、何もない世界に等しい。

 唯子は彼がいつも使っていたデスクに突っ伏しながら、涙を流す。

声を枯らして。誰もいないこの世界で。

 しかしその声が彼に届くことはなく、延々とこの世界でこだまする。

 その涙の雨に、唯子は溺れそうになるのだった。


 はっとそこで、唯子は目を覚ました。額から落ちる汗を手で拭う。そのじんわりと暖かい両手を見つめて、ほっと安堵の息をつく。

な、なんて夢だ……。あの特別相談室の風景も、夢の中でのあの私の……とてつもない喪失感と絶望感も、とてつもないリアリティを持っていた。

 近しい人を亡くした経験はないが、きっと、あんな気持ちになるのだろう。いや、ただの友人では、きっとあんな感情にはならない。あれは……。

そう考える途中で、唯子は頭をふるふると横に振った。

何を考えているの。私は。今は、常盤さんのことについて調べることに集中しなければ。 


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