第19話 予感
夕方、生徒が皆帰宅するこの時間帯、唯子は一人、特別相談室のチェアーに座り、デスクに突っ伏していた。
いつも彼が座っていたこの椅子。
今日ここに彼はいない。いや、もうこの世に彼はいない。私を残して、彼はこの世を去ってしまった。
私一人だけの特別相談室。ここはもう、何もない世界に等しい。
唯子は彼がいつも使っていたデスクに突っ伏しながら、涙を流す。
声を枯らして。誰もいないこの世界で。
しかしその声が彼に届くことはなく、延々とこの世界でこだまする。
その涙の雨に、唯子は溺れそうになるのだった。
はっとそこで、唯子は目を覚ました。額から落ちる汗を手で拭う。そのじんわりと暖かい両手を見つめて、ほっと安堵の息をつく。
な、なんて夢だ……。あの特別相談室の風景も、夢の中でのあの私の……とてつもない喪失感と絶望感も、とてつもないリアリティを持っていた。
近しい人を亡くした経験はないが、きっと、あんな気持ちになるのだろう。いや、ただの友人では、きっとあんな感情にはならない。あれは……。
そう考える途中で、唯子は頭をふるふると横に振った。
何を考えているの。私は。今は、常盤さんのことについて調べることに集中しなければ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます