第14話 揺れる名門校
学校が視界に入ると同時に、正門前に報道記者たちが押しかけているのが見えた。ニュースで見た時よりは数は減っていたが、それでも尋常でない光景だ。テレビではよく見る光景だが、まさかこれが自分たちの学校で現実のものになるなんて……
周囲にいた登校中の他の生徒たちも、唯子と同じような顔つきだった。
門の前には教員たちが数人がかりで記者たちを抑え、登校する生徒たちを門へ誘導している。
門にもう数歩というところで、近くにいた記者が唯子の顔を見るなり、撮れ高の高い顔だと思ったのか、お、と声を挙げ、すぐさまカメラマンに手で合図して、突然迫った。
「あ、すいません! 神代高校の生徒さんですよね?」
まさか自分の元にくるとは思っていなかった唯子は、無遠慮に迫るリポーターと、生まれて初めて向けられるテレビカメラを見てしどろもどろになった。
「ええ、あの、ええっと……」
「今回転落した常盤くんとは面識があったりしたのかな? 彼の死についてどう思う?」
「あわ、あわわわ」
リポーターとカメラの照準は完全に唯子一人に向けられている。唯子は頭が沸騰するくらい熱くなり、目を回した。
「すいません! 生徒への接触はご遠慮くださいといったはずです! さあほら、早く校舎に入って!」
飛び出してきた男性教員に救われ、なんとか唯子は窮地を凌ぐことが出来た。
学校内も、世間と同じように騒然としていた。三年の常盤真一の死を巡ってはクラス内でもいろいろな論議が交わされた。
しかし、クラス内に常盤真一と面識のある人物は一人もいなかった。唯子たちとは学年が違うということも勿論あるが、彼はどこの部活動に所属するでもなく、特に目立つような行動をとる人物でもなかったらしい。だが、面識はなくとも、その名を知っている人物は二年生の間でも、少なからずいた。なぜなら、常盤はこの学校の三年生で、常に成績において学年一位を争っている人物だからである。だがあくまでそれだけで、それ以上のことは誰も知らなかった。
ん? とそこで、唯子の頭の中に何かが突っかかるものがあった。
三年で、学年一位を争う……
はっと、そこで周船寺佳一の顔が浮かんだ。そうだ、彼も、成績で常にトップを争っている人間なのだ。
彼なら、きっと何かを知っているはずだ。
そう思索していたところで、ホームルームの時間になり、担任教師が慌てた様子で大きく音を立てて教室に入った。
「お前ら! 今日は全授業中止だ! 代わりに、今から体育館で全校集会を行う! すぐ向かってくれ」
全校生徒が集まった体育館は、かつてないくらい人の声が響き合っていた。普段なら、進学校なだけあって、こういう場でも、静かに行儀よく教師の登場を待つ生徒たちだったが、今日ばかりは、例のニュースの話題を近くの生徒と論議し、浮足だっていた。
そんな喧騒の中、体育館前の壇上を、教頭の立花がゆっくりと上がっていくのを唯子はとらえた。しかし周囲のほとんどが、おしゃべりに夢中で壇上の方を見ようともしていない。
「ええ、みなさん、お静かに!」
マイクを通して響く声で、生徒たちは初めて教頭の登場を認識し、喧騒は段々と静まっていく。
「教頭の立花です。皆さん、もうとっくにニュースでご存知だとは思うが、当校の生徒が先日、屋上から転落して死亡すると言う事故が起きました」
事故、という単語で、生徒たちの間で、一瞬どよめきが起きた。
「ええ。現在も警察の協力の元、調査を進めています。もし生徒諸君の中で、彼の事故について何か心当たりのあるものがいれば、迷わず職員に伝えてほしい。担任でもそうでなくてもかまわん。どんな些細なことでもいい」
そこで一度、立花は咳払いした。
「それと、現在マスコミたちが学校を取り囲んでいるのは皆も承知だと思う。中には不躾な質問や強引に迫ってくる輩もいる。彼らの質問に答える義務は君らには一切ない。なにか聞かれても、何も知りません。と答えるように頼みたい。それでもしつこく迫ってくる場合には警察や、我々職員を呼ぶなどの対処を心掛けてほしい」
その口ぶりから、穏やかでない雰囲気が感じ取れた。この教頭の言葉にも、どこかいつもと違う緊張感が漂う。
このアクシデントは、この学校の職員たちにとっても大きなインパクトだったと思うが、この教頭は終始冷静な声音だった。その落ち着き払った説明に、唯子を含む全生徒はどこか安心感を覚えたようで、皆から不安げな顔が消えていた。
……あの校長より、よっぽど器の大きそうな人だ。
しかし、事件の詳細についてはうやむやにされたまま、全校集会は終わった。
続く
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