第5話 唯子の困惑
周船寺に連れられて唯子は、手芸部の部室に向かった。目的は、鈴木里佳子という人物に会うためである。
鈴木里佳子は、財布盗難の被害者たちと共に先月遊んでいたメンバーの一人で、唯一、被害にあっていない生徒だった。
この男は、彼女こそが犯人だと言うのだろうか。確かに、彼女だけが被害を受けていない状況を考えると、彼女が最も怪しいといえる。
どうか、どうか、彼女が犯人ではありませんように。唯子は顔の前で両手を握って、天に祈った。
あまりにも気がかりだったため、廊下を歩く最中、唯子は周船寺に尋ねた。
「その鈴木さんが、犯人だとおっしゃるんですか?」
「いいや。彼女じゃない」
あっさりと否定する周船寺に、唯子は虚を突かれる。
「え、でも彼女だけ遊んだメンバーの中で唯一被害にあっていないのですよ。ていうか、犯人に会いに行くんじゃ?」
「まあ見てれば分かるよ。彼女に会うのは、犯人の目的をはっきり確認したくてね」
唯子は首をかしげる。彼女に会って、いったいどうして犯人の目的を確認できるというのだろう。
手芸部は本校舎にあるため、特別相談室からは遠く、到着するまでにしばしの時間を要した。
鈴木里佳子は黒のロングヘアを静かに伸ばした、いかにも文科系の部活に所属していそうな、大人しげな生徒だった。
周船寺は意外にも、今までの被害者に聞いたような質問はいっさいせず、他愛もない雑談を少し交えた後、本題に入った。
「あなた、先月ご友人たちと遊んでいた時、何かを発見しませんでしたか?」
「え?」
鈴木は周船寺の質問に、目を丸くさせた。思わず唯子も横やりをいれる。
「突然、何を聞いてるんですか、あなたは」
「君は黙ってなさい」
どうもふざけているわけではないらしい。
鈴木は首をかしげて、周船寺を不思議そうに見つめていた。唯子には周船寺の質問の意図が全く分からなかったし、この様子だと、聞かれている鈴木本人も理解していないだろう。
「ならこういえばいいですかね……先月遊びに行かれた時に、その友人の新たな人間関係を示す何かを拾ったとか?」
まるで、突き刺すような声のトーンだった。明らかに今までの質問とは、声にこもる重みが違う。今までのは牽制で、これこそが本当の狙いだとでも言うように。
「……!」
分かりやすいくらいに鈴木里佳子は周船寺の言葉によって動揺した。はっと何かを思い出したように口を開いては、それを抑え、周船寺の方を気まずげに見返す。
「ど、どうして……」
それをみた周船寺は納得したように不敵な笑みを浮かべて、くるりと背中を向けて、何も言わず、手芸部の部室を後にした。
続く
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