第6話 または75-2
「ミノア、先も説明した通り、痛みなどはない。だが万が一ということもある。その時はいつでも言ってくれ。」
連れてこられた先は、いつかの世界で見たけんきゅうじょみたいで。
そこのベッドに私は横になっていた。
これから私は、スーゴによる改変を受け入れる。
それがどんな影響になるか、私にはわからない。
それでも。
それでも変化を受け入れたくなったのだ。
「スーゴ。」
彼の名を呼ぶ私の声は、震えていた。
気持ちがぐるぐると回ってて。
きっと全部を口にしたら、最後には泣いてしまいそうだから。
たった一言に、何もかもを込めて。
「お願い。」
眠りについた少女の身体は記憶に残る彼らと相違なく、無茶をすれば壊れそうなほど儚く見える。
先程少女に説明した通り、彼女の身体のスキャニングはすでに10割終えている。
解析した結果、10割すべてが理解でき、シミュレートによる結果を出すことさえ可能だった。
しかし、不可解なことだが、そのシミュレートでさえも、異世界転移の中断、不老不死のオンオフ。
これらを事実とさせる情報だけは出てくるのだが、変更することが出来ないのだ。
いや、これは正しくないか。
項目としても、動作としても、存在しないのだ。
まるである種の変化を受け入れるかのごとく、否、変化のための項目を見せられてるようにしか見えない。
だからこそ。
この短時間でこちらを信頼してくれた少女のために。
できる限り尽くそう。
「覚醒したようだな、ミノア。」
目を開けた私に即座に声をかけてくる。
「・・・何を変えたの?」
私に自覚できる変化はなかった。
だから、スーゴへと問う。
「もちろん、順序立てて説明しよう。まず君の体そのものから転移や不老不死を消すことが出来ないことは説明したな。」
「しかし、一部は改変することが出来ると判断したために、付いてきてもらい、真実改変は終えた。」
少し驚いた。そんな簡単に終わるなんて、思ってなかったから。
「手始めに君の適応阻害を外させてもらった。」
「うむむ、なんといえばいいか。・・・これまで君はそこで得られる経験、これはつまり、極めてファンタジーな話なのだが、例えばそこで身につけた技術や身体能力といったものを体が覚えたままに渡ることが出来なかったんだ。」
「つまり、君がもし経験していたら辛い記憶かもしれないが、君の身を守る術を得ることができるようになった。」
「もちろん、君の修練が大事ではある。」
「次に、君自身の許容量の増加。」
「これは単に君の成長限界を取り払ったということ、そして物品をもっていくことだ。それでも、肉体年齢の成長は出来なかった。本当にすまない。」
「・・・ありがとう。そして最後にだが、勝手ながら私自身を君とした。」
「はは、まあそういう顔になるな。だがこれは君へのお願いでもある。」
「私はこの世界の人間に再び会いたいのだ。」
「我々の創造主である人間に会い、我々はここまで来ることが出来たと、報告したい。」
「そのために君について行かせて欲しかった。」
「・・・そして敢えてほかの理由を話そうか。」
「私を連れていく事で残り滞在時間を把握出来る。」
「君が連れていくと決めた者を連れていくことが可能となる。」
「そしてなにより。」
「私が気に入ったのだ。」
スーゴの表情はわからない。
その視線も、感情も。
それでも、私から見れば彼は人だ。
わからないことが多い彼だけど、その声音に含まれてる不安に、気付かないわけがない。
「・・・人の醜いところも見ることだってある。それでも」
しかし彼は、遮ってまでこう言いのけた。
「それでも人間を手助けする。そして私はただ創られただけの道具ではない。自分で考え、導き出した答えだ。・・・もちろん、君が嫌であれば、我々で何とかするさ。」
そう言われて。
私は何かをわかった気がする。
こう、胸にストンと落ちたような。
あるいは、問題の答えを見つけてスッキリしたような。
「・・・これから長く、とても永く、一緒にいることになると思う。」
「時には意見が合わなくて、仲も悪くなることだってあるかもしれない。」
「それでも私は。」
「・・・ううん、そうじゃない。」
「ありがとう。とっても・・・とっても嬉しい。」
だから。
「よろしくね、スーゴ」
「ああ、よろしく、我が最高の友にして半身ともいえるミノア。」
ただ。
「・・・その言い回しはやだなぁ。」
少しづつでいい。
「ふむ、あまりオーバーな表現は好まないか。」
永い時間がかかっても。
「それじゃあミノアよ。」
理解者を得たのだから。
「うん?」
私も理解者にならなくちゃ。
「この世界で準備をしていこうじゃあないか。」
ううん、違うや。
「うんっ!」
だって。
私にとっては。
まだ何も返せてないもん。
だから。
友達に・・・なるんだ。
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