第5話 または68-5

世界はまだまだ捨てたもんじゃない。


そんな当たり前のことに、今更気づいたんだ。

彼女達の力は凄まじいし、その領域に何の力も持たないボクが立ち入ることなんて、一生かかってもないだろう。


だけど。


その領域に立つ必要なんてなかった。

彼女達は彼女達の、ボクにはボクの。

出来ることなんて限られてるのだから。


それを教えてくれたのはあの子だ。

・・・会いに行かなきゃ。

まだ間に合う。

いや、間に合うなんかじゃない、間に合わせなきゃ。

だって、それがボクの義務・・・

義務・・・?

なにをいってるんだ、ボクは。

義務なんてものは、ボクが勝手に思ってるにすぎない。

そんなの、単なる押しつけじゃないか。

・・・いや。

押しつけなんだ。

押しつけでいいんだ。

あの子がそこにいるっていうのは、ボクの想像に過ぎないけれども。

なんにもない、闇の中なんだ。

それをただただ諦めてしまって。

だから。

一つの光に、いや、なんでもいい。

闇じゃない何かにさえなってくれればいいんだから。

あの子に会えばきっと。

なにかがかわるんだから。

ボクはだから。

あの子の元へただ走る。

それこそが贖罪なのだと信じて。

そして───



そして、少女の保護という名の隠蔽活動に静寂が訪れる。

彼女はただ、隠れ蓑にされただけだ。

戸籍のない人物。

ただそれだけの理由で。

不穏分子を粛清する、そのための贄なのだから。

「先輩・・・」

今日が初陣だという後輩の不安な、あるいは後悔のような声に、どこか、諦めや悲しみという感情を向けてしまう。

「・・・わかったか、現実が。名誉だとか、誇りなんてもんはねえ。あるのはただ、薄汚ぇ殺しの事実と腐った国の裏側だけなんだよ。」

「だからって、明らかに無関係な人まで殺さないといけなかったのですか・・・?」

「それが任務だ。・・・ただな、その気持ちは捨てんなよ。」

俯いたままの後輩が、顔を上げる。どこか、泣きそうな、歪んだ顔をして。

「その気持ちがある限り、俺達は人でいられる。」

そこからは、いうことはなく、ただただ黙祷をするかの如く、静寂がふたたびあたりを包んだ。


・・・最後に殺した少年。

少女の知り合いのようだったが、何のために来たのだろうか。

・・・不思議な事だ。

あの少女が知り合えるとすれば、我々が確保する前なのだから。


未来を作るのが子供なら。

未来を潰すのが大人なのだから。

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