第16話

「何でもつく……」

勢いでナギさんを抱きしめた。

やっぱりボトムの裾が濡れてる、走ったんだ。この雨の中を出会った時みたいに走ったんだ。

どうして自分ばかり無茶するんだろう。

傘をちゃんと差せばいいのに。

何からも避けられる傘を持っているのに、人に貸さないでくださいよ。

たまには自分を優先してくださいよ。

「迎えに来てくれてありがとうございます」

「……ああ、別に」

「好きです」

ああ、言ってしまった。

拒絶されたり、嫌われたら今の生活は破綻する。だけど感極まった。

「はいはい」

え?

背中をぽんぽんされている。

違うんです、甘えているんじゃないんです。

「あの! 本当に好きです!」

「分かったから。苦しいし暑いし、うるさい」

「あ! すみません!」

嫌われましたよね、これ、絶対。腕を離したけど顔が見れない。

何て事をしてしまったんだろう。

心臓の鼓動が激しい、自分の衝動に駆られた言動が恥ずかしい。


「ほら」と傘の柄を持たされた。

「帰るぞ」

呆れた声でもない、いつもの声音。

今の無し、ですか。まあ、いいや。元々、相手にされていないし。後見人だしな。

何故か心はもやもやしない。妙にすっきりしてしまった。

言いたい事言ったからだよな。でも、いただいたご恩を仇で返したような感じ。

本当にすみません。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る