第12話
オレが何か作りますと言うのに「座ってろ」と命令されて仕方なくソファーで小さくなっていたら、ナギさんがローストビーフとアボカドのサラダを作って出してくれた。見た目も鮮やかだし、バターを焦がしたようないい香りがする。
「いただきます」
「どーぞ」
両手を合わせたら「きちんとしてるな」と褒められた。誰かと食事をするのは楽しいな。
「ああ、あとこれも」と見慣れたミルクパンにチーズとホワイトソースがかけられた謎のお皿も出された。半分に切ったプチトマトとレタスが添えられている。美味しそうだけど何だろ。
「食べた事無いか? クロックムッシュ」
え。ナギさん料理上手。女子力がいかんなく発揮されてる。
圧倒されるけど、自分はサラダしか食べないんだ。でも、フォークを持つ細い指が綺麗だなー。
「何見てるんだ? 俺の指に急用があるのか」
「ひい」
「おかしくなったか。味付けが良くなかったかな」
そんなに眼鏡をいじるなら、いっそ外してください。気になります。
「そんな事はありません、美味しいですよ、でもナギさん」
「ああ、俺は晩御飯は炭水化物を取らないんだ」
また、女子力。
糖質制限か? あれは長くやると脳に影響があるんだぞ! それに、大体!
「あなた、そんな華奢な体して何言ってるんですか! 食べたほうがいいですよ」
「広軌と違って、おっさんだからな。代謝がよくないんだよ」
「こんな可愛いおっさんはいませんよ! 本当にあなたは自分を知らないんですよね」
「いるだろ、その辺に。駅が近いし、ぞろぞろ歩いてるぞ」
あー、苛立つ。
「俺の妹も、そんなおかしな事をたまに言うなあ」
妹? 兄妹なの。
「少し前は泊まりに来たけどね。だから1室確保してるけど、いい相手が見つかって結婚するって言うから良かったよ」
「聞いてもいいですか?」
「何でもどーぞ」
「その、ナギさんは妹さん抱えて面倒見て進学されたんですか」
聞いてはいけないかな、でも気になるし。
「1つ違いだから、苦にならなかった。妹は高卒で働きに出たし。妹が決めた事だから俺は口出ししなかったけど、進学したいって言われたら俺は身を削って働いて行かせようとは思ったよ」
あ、それでオレを拾ってくれたのか。オレが妹さんと重なって見えたんだ。
「その妹にも広軌みたいに、ガンガン訳の分からない事を言われたし、あいつの服を試着させられて着せ替え人形扱いするし」
「はいっ?!」
聞き捨てならない。ドキドキする。妄想が爆発しそうだ。
「スカートとワンピースは着なかった」
良かったです。性癖が目覚めそうでした。
しかし持ってるグラスより自分の口が異常に小さいとか磨いているその爪とか、色々自覚してください。
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