第10話
忘れていたけど『俺も』だったんだよな。
ナギさんも親御さんがいなくて、オレと同じで苦労して大学行って今、会社にお勤めか。
オレみたいに施設に入っていたのかな。仏壇があるって事は、お墓とかもあって管理してるのかな。大変だ、そんな苦労してきた人に甘えていいのかな。
しかし、こんな広い部屋に寝泊まりか。布団も持ってこなかったな。寝袋でいいかと思って。
ぽかーんとしてしまう。フローリングの床が綺麗だな。
カーテンも持って来なかった……あれ?
「ナギさん!」
バターンと勢いよくドアを開けたら、リビングに居たナギさんが身震いした。
「何だ、騒がしい」
「あなたねえ、何だじゃないですよ、カーテン買ってくれたんですか? すみません、ありがとうございます!」
「お礼を言うような感じじゃないな、飛びかかりそうに吠えてるぞ、おまえ」
「うわ、すみません!」
「落ち着け。コーヒーでも飲むか?」
ナギさんが腰に手を当てて「ふう」とため息交じりにキッチンへ向かうので慌てた。
「オレがやりますよ、座っててください」
追いかけたのに手で払われた。揚げ句に「座れ」と凄まれた。
甘やかすとか言わなかったかな。
「まあ、この広い部屋に来て気が動転するのも分からないでも無いが。リビングダイニングだけで14畳くらいか」
リビングだけで14畳とか言った。さらりと。
あなたいつもなにしてるんですか。普通の仕事じゃないですよね。怖いんですけど。
「おまえの部屋でもあるんだぞ、広軌」
組んだ足に肩肘つけて見つめられると、自分の愚行がまざまざと蘇って悲しくなる。
それにしても、可愛いなあ。目の毒だな。保養か。もう分からない。
年上で、だけど年下にしか見えない人に変な感情を抱きそう。
「だから、安心して過ごせばいい」
安心出来ません。
「俺は手を出さないし」
こっちが危険です。思春期真っただ中の盛んな獣を飼うようなものですよ。
今日から楽しくて幸せで、高ぶるのを堪える生活が始まるんだな。精神がもつかな。
「広軌、具合でも悪いのか?」
頬を撫でられて体温が直に感じられた「ひゃっ!」もう、トびそうだ。
「……有頂天なのか? 今日は早く寝ろよ」
呆れ顔のナギさんは隙がありすぎる。こんな人に甘えたらアクセル踏むようなものだ。
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