第8話
へええっ?
そういえばLINEアカウントは違ったぞ、シンガプーラだ。なんだそれと思ったけど。
ナギでも五泉でも無い、本当になんだそれ。
「で、おまえは? あ? 何、混乱しているんだ?」
「いえ、すみません。石田 広軌(こうき)です」
「印象が硬いな、意外だ」
何が。
「広軌か。何か面倒だ」
オレの名前完全否定?
「親が付けた名前か」
「はあ、多分」
「んー。なら、仕方無いな」
仕方無いとか、普通言うかな? あ、本当にねじ曲がったんだ。この人。
「じゃあ、広軌」
げっ。間近の上に真正面で名前呼ばれると照れるんですけど。
「……は? 顔が赤いぞ、パンを喉に詰まらせたか」
普通、そうなったら顔色悪くなると思います。
「結論だ。おまえは俺と同じように進学して就職の道をたどるなら、俺以外頼れる者はいない。早々に荷物をまとめて、来るんだな」
「本気ですか? だって、昨日今日の会話でオレを信じるんですか?」
「自分の嗅覚は確かだと思うが。広軌は俺を騙しているのか?」
「嘘は付いていませんけど」
「だろう? なら、決まりだな」
え? いいの? 赤の他人なのに、面倒見てくれるって、いいのかな。
「混乱しない。おまえは俺に何でも相談したらいいんだ」
あ、LINEの着信。
「地図、送信した。今週の土曜日、14時までに荷物と俺の傘を持ってこい」
無茶振りだ。賃貸アパートの退去は1か月前に管理会社に連絡しないとまずいでしょう。
「俺はその間に家庭裁判所に申し立て準備をする」
「家庭裁判所ー?」
「ああ、親族以外の利害関係者として手続きをするから、広軌、悪いけどおまえの住民票と戸籍謄本、親の死亡が分かる除籍謄本を市役所で申請して写しを貰って、それとおまえの通帳のコピーを合わせて早急に俺のマンションのポストに投函しておけ」
LINEでくださいよ。
覚えきれない。
「俺との利害関係はでっち上げる。元ご近所で昔からのお付き合い」
通るのか?
「で、念のため。反対する親戚はいないな?」
「いたら施設に入ったり、1人で住んでいませんよ」
「えぐるようで悪い。これからは俺が保障する」
ナギさんが「貰っていいか」とフォークでサラダのレタスを刺して口に入れた。咀嚼するとき、口を手で隠すので可愛いけど『女子』と思った。
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