第5話

「おまえ、珍しいな。高校生なんて肉ばかり食べると思ったが」

ホウレン草やレタスにチリソースのかかったカラフルサラダを食べていたら、興味を持たれた。

「1人暮らしなので。外食の時くらいしか野菜を食べる機会が無いんです」

肉も好きだけど、食事内容が偏るんだよな、1人暮らしだと。

「高校生なのに1人暮らし?」

あれ。益々、興味津々かな。

黒い瞳がオレを観察している。何か、食べづらくなってきた。

「親は反対しないのか」

「あ、オレ。親がいないんです」

「……」

うわ。空気凍ったか。

必要の無い打ち明け話になってしまった。下手に気の毒がられたら嫌だな。そんな配慮、散々されてきて、その度にかえって現実を知らされてへこむんだ。オレには親がいないんだよなって。

『大丈夫?』とか『頑張って』とか親切な振りして傷付ける言葉があるんだ。これ以上、何をどうしたらいいんだよと聞きたいのを作り笑顔で誤魔化してきた。口が滑ったどころじゃないな。


「俺も、そうだ」

「はい?」

想定外の相槌。

そして腕が伸びてきて何かと怯えたら、がしがしと髪を掴むように撫でられた。

「よく耐えた」

えっ?

それは言われた事が無い。気持ちを汲み取って貰った感じがする。

「俺みたいに性格が曲がらずに、まっすぐ育ったな」

「まっすぐ、ですか? 会って何時間も一緒にいないのに、そこまで言えますか?」

誉められてるのか、心配されているのか判断出来ない。

「気配りが出来るから。パン屋で会った時もそうだ。普通はしないだろ、だから違和感がした」

あなたの背が低いから落としたらまずいと思った……言わないほうがいいな。


「俺はたいして長く生きていないが、おまえと立場が同じだからあえて言う」

「何ですか」


「周りを見て困った人を助けようとするのが身についていると推測した。習慣だ」

え。

「それは自分が誰かに傷付けられた痛みがあるから、それを補うように誰かを助ける事により、自分の精神を保とうとする防御本能だ」


言葉が出ない。胸に秘めたものを、ずばり言い当てられると返事に窮する。


「責めていないぞ。顔を伏せるな、おまえは正しい行動を取っていると思う」

そう言われても、とへこんでいたら「だから」と低い声がする。

「よく、耐えて生きて来たと、誉めているんだ!」

また、がしがしと強く髪を掴まれ撫でられた。こんな経験、初めてで狼狽えた。


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