第3話
小雨が降る中を「じゃあ、また」と言い残して少年が駆け出した。水滴を散らすような様が、やけに爽やかで強く印象に残った。
雨や風に押し流されてしまいそうな、華奢な体つきなのに、立ち向かう感じが頼もしいとさえ思った。抱えているパンの袋が濡れなければいいけど。指穴パーカーから覗いた親指が可愛かったな。
「あれっ?」
借りた傘を開いたら大きい。172センチのオレでもすっぽり入る。直径125センチくらいありそうだな。しかも10本骨。これ、あの少年だと差すのは重くないかな。
それに会社員が使うような渋い色した大人の傘。子供らしくない、背伸びしているのかな。
カバーは撥水加工がしてあるらしく、水滴が跳ねる。雨は憂鬱だと思っていたけど、この感じは素敵だ。水たまりをわざと歩いた子供時代を思い出す。
『可愛い子だったな』
灰色の空から降る無色の雨に、色彩を見出したような気分だ。
しかし、あの少年。夜なら時間を空けるって、どういう事だ。塾とか行かないのかな。
まあ、オレも進学先を決めてから気が抜けてバイトしているから、同じタイプなのかも。同級生か、1つ下くらいだと思うけどな。17か16才か。
お店でスライスして貰った山食ミルクパンを1枚取り出して口にし、そういえばトーストと言われたと思い出して、レンジに入れるとトースターを指定した。じわじわと焼けていく様を見ながら、やけに、あの少年が気になると思った。
『濡れて帰ったよな』
ふと見た玄関には借りた長傘が雫を零していた。小さな水たまりを作っていた。
『悪い事したなあ』
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