第2話
日曜日の昼下がりなら空いているかなと出向いた、駅前にマンションを備えた大型商業施設内のパン屋さん。思惑通り、お客は少ない。でも、総菜パンは残り少なかった。致し方ない、食パンでも買おうかと壁面の棚に目を向けた。
フードを被っている小柄な人が1番高い棚の2斤食パンをトングで取ろうとしているのを見た。袖から覗く親指が可愛い。
『指穴パーカーを着てる。女子かな』
下心では無くトングだと落としそうだと思い「オレが取りますよ」と声をかけて「どれが欲しいんですか?」と尋ねたら「……山食ミルクパン」あれ? 声が低いな。
「はい、どうぞ。これ、美味しいんですよね。もちもちしてて」
「ありがとう」
見上げる顔に驚いた。
え。男子?
フードであまり顔が見えないけど、繊細な顔立ちの少年だな。黒目が可愛い。幾つだろう。
お使いかな? 気にかけながら精算して店を出ると、雨が降りだしていた。小雨が風に吹かれて髪を湿らせる。
「降ってるな」
思わず声に出したら「傘、持ってないのか?」と声がした。
あ、さっきの少年だ。店先でまた会えた。
「貸す」と少年から長傘を手渡された。
「え、でも」
「俺はフードを被っているから平気だし部屋が近いんだ。さっきの礼もしたかったし」
「じゃあ、また会えます?」
「は?」
あ、勢いに任せてしまった。
「いや、傘を返さないといけませんし。それに、ここのパン屋さんのパンを使っているカフェがあるので、お礼にどうかなと思いまして」
自分でも、どうして少年をナンパしてるのか分からない。
見知らぬ人だから、子供相手に敬語を使う自分もおかしいとは思う。
でも、ご縁だと思った。言葉遣いは気になるけど佇まいの良さに、何故か惹かれた。
「……カフェもいいな」
乗ってきた。警戒心は無いのかな。
「たまには外で食べるのも良さそうだ」
「さっきの山食ミルクパンも出してくれますよ。日替わりですけど」
何だか、オレ、必死じゃないか。
「分かった。ああ、1つお勧めがある。山食ミルクパンはトーストするとさっくりするんだ。試すといい。俺は、夜ならいつでも時間を空ける」とスマホを出した。
「連絡先、教えろ」
あ、成功した。ちょろすぎるけど、いいのかな。
「傘を返して貰わないと」
そうだよね。でも、いい口実になった。
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