モアレ
今日は水たまりに溶けた、とぽん。はじまりの音はそれだけ。
しゃがんでいた彼の後ろから、覗き込んだら目があった。その時とぽんと音がした。彼は口を動かした。何を言っているのかわからない、聞こえない。ここはもう水の中だから。
彼の向かうところは、知らないものばかりだ。しずむ、うかぶ、たゆたう、ちょっと、おぼれそうにもなる。上を泳ぐのは小さな生き物たち。ふしぎな形。きっと昔から、こんな形。ころころとまぶしい光、手のひらに降りてくる網目模様。
彼の口からこぼれる泡と、わたしの口からあふれる泡が、交差しながら水面へ向かっていく。生き物たちが揺れる。ここは水たまりの中。空は多分、透き通った青。
そうしているうちにそろそろ、水から上がらなくっちゃ、彼はすいすいと、かんたんに、上へ泳いでいく。いやだなあ。それでも仕方がないから私は泡をひとつぶ、つかんで、にぎって、のぼっていく。ざばんとあがったらそこはふつうの屋上、空はやっぱり晴れ。ポロシャツとスカートは、一瞬通り抜けた風でかわいてしまったよ。上靴の足跡が続いていく、わたしは追っていく。彼が振り向いたから私は手に持っていた飴玉一粒を彼の口に入れた、かった。でもやっぱりできないや。また行きたいなあ、もうはじまってしまったから。
2012.08.13 (2018.08改稿)
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