第16話

競馬場に帰ってきた。

兄さんや先生が早速様子を見に来る。

もう大丈夫だよ。どこも痛くないし。少し体も大きくなったからね。

ボクはそう言って胸を張った。


兄さんは「わかったわかった」って言いながら、ボクを部屋に連れて行く。

着いた先は前にいた部屋。

お向かいのスータさんが「帰って来たんだねー」って迎えてくれた。

「一度ここから出るともう帰ってこないのもいるからね。ミツはどっちだろうって思ってたんだよー」

心配かけてごめんなさい。帰ってきました。

「早くレースに出て一人前の競走馬にならないとだねー。いっぱい走って畑やるんだろ?」

畑をやるには、スータさんみたいな一人前の馬にならなくちゃ、ですよね?

「ボクみたいにはならなくていいんだよー。休み休みでしかレースに出られないし、久しぶりに出たらみんな覚えてるかなーって気になるぐらいなんだから」

そうなんですか……。

「だから、ボクよりもずっと丈夫でいっぱい走れるようにならなくちゃだぞー」

ハイ、頑張るです!

「ミツがボクのクラスに上がる頃には、ボクも少しは上がれてるかなあ……」

ボクは聞かなかったことにした。

スータさんも大変なんだなあ……。


競馬場での練習は、育成場にいるのとあまり変わらない気がする。

大きな坂がない分、少し物足りない感じもする。

いつも同じところを走っておしまい。もちろん、ペースが違ったりはするけどね。

でも、毎日同じことばっかりなんだなあって思ったりもするんだ。

それでも練習終わって帰ってきたら、疲れてるなって思うときもある。

とはいえ、ボクの場合はお腹いっぱい食べて眠れば大丈夫。すぐに元気になっちゃうんだ。

今日もご飯の桶と牧草のかごを目の前に置いて、いっぱい食べるんだ。

ボクはいっぱい食べても大丈夫って育成場のおじさんに言われてるからね。

たくさん食べて体を大きくするのも大事なこと。

でも、どこまで大きくなれるのかなあ。


部屋にはまだなんだかわからないものがついてる。

そしてこっちを見てる気がする。

なにかボクに悪さをするわけじゃないんだけど、なんだか気になるんだ。

それがわかったら、少しはスッキリするんだけどね。

そいつには目みたいなのがついてるから、見られてる気がするんだろうな。

ホントにこっちを見てたらどうしよう。

見られて恥ずかしいことはしてないけどさ。気にはなるじゃない。


練習が終わって部屋に戻ったボクの顔を、先生がじっと見てる。

そして兄さんに「次の新馬、登録するぞ」って言ってた。

ボク、レースに出られるんだね。

練習いっぱい頑張らなくちゃだ。やる気出て来たよ。

ミツオー兄ちゃんみたいになるための第一歩だ。

どんな相手が来たって、ボクが一番速いってとこを見せてやるからね。

がんばるよ。

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