第14話

今日から脚の痛いのを治すんだって。

おじさんとお姉さんがボクに薬を入れる。

これで治るのかなあ。


脚になにか当ててる。

なんだろうね。

たぶん、これをやれば良くなるんだろうな。

ボクにはよくわかんないんだけど。


なんだかわからないうちに部屋に戻される。

そして、ボクの口にはかごみたいなのがつけられる。

「鎮静打ったからしばらく食べられないよー」ってお姉さんはかごをつけながら言うんだ。

え?

食べちゃいけないの?

それは困るなあ……。


せっかく脚元においしい牧草がいっぱいあるのに。

ボクの鼻先には大きなかご。

これが取れないうちはなにも食べちゃいけないんだって。

なんだか情けないよ。

どうにかして食べる方法はないもんかなぁ……。


……あ。

かごに小さい穴が開いてるね。

吸い込んだら牧草入るかな?

何もしないで諦めるのは嫌だもんね。

よし、やってみよう。


鼻を床に近づけて。

大きく息を吸い込んで……。

あ、牧草が入ってきたよ。

2.3本だけど食べられるのはありがたいね。

やっぱり、何事も諦めちゃダメなんだ。

またひとつ賢くなった気がするよ。


お姉さんたちが「仕方ないなぁ」って顔して見てたみたい。

でも、お腹すくのはもっと仕方ないよね。

ボクは育ち盛りだから、もっともっと食べなきゃいけないと思うんだよ。

ボクはたくさん食べても大丈夫って前に聞いてるからね。

いっぱい食べて大きくなって、早く競馬場に戻らなくちゃ。



何日か経った。

脚の痛いとこを治すのはまだ続いてる。

かごはつかなくなったけど、まだ外に出られないんだって。

外に出ても寒そうだから、中にいてもいいんだけどさ。

でも、少し体動かしたくなってきたよ。


そういえば。

競馬場の部屋にもあったやつ。

ここの部屋にもついてるんだねぇ。

いったいなんだろう。ずっとボクを見てる気がするんだ。

気にしても仕方ないのかもしれないけど、なんだか気になるね。

なんだろうなあ……。


もう少しで治るねーってお姉さんは言う。

ボクとしてはすぐにでも治ってほしいんだけどね。

早くいっぱい走りたいし、競馬場にも戻りたい。

早くレースに出たいんだよ。


焦ったらダメなんだろうなあとは思うんだ。

でも、走りたいしレースにも出たいよ。

早く良くならないかなあ……。

廊下側の柵にお尻をくっつけて考える。


「諦めちゃダメだぞー」

不意にジパング先輩の言葉を思い出す。

うん、こんなことで諦めちゃいけないよね。

ボクには畑やるって大きな夢があるんだから。

早く治るようにがんばるしかないよね。

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