第12話

試験に合格して、なんだかボクも大人になった気がするよ。

先生もこのままレースまで鍛えるって言ってたし、ボクもようやく一人前のサラブレッドになったのかな。

曳き運動してても、なんだか胸を張って歩いちゃうよ。

周りの馬が変な目で見てる気がするけど、気にしないよ。

だって、ボクもレースに出られるようになったんだからね。


とはいえ、スータさんに言わせれば「レースに出てない馬は一人前じゃない」らしい。

ちょっとしょんぼり。

そうだよなあ。ボクはまだ試験に合格しただけなんだよね。

これからレースに出られるように、いっぱい練習しないとだね。


普段は練習が終わったらシャワーを使わせてもらって部屋に戻る。

そしてスータさんとおしゃべりしたりうとうとしてるうちにご飯が来る。

ご飯を食べてると世話してくれる兄さんがやってきて、ボクの体の手入れをしてくれる。

ブラシをかけてくれたり、不思議な水を体にかけて拭いてくれたり。

ボクたちも汗をかくとすぐ体がかゆくなるから、ありがたいんだよ。


でもね。

体の左側を触られるのが苦手なんだ。

すぐくすぐったくなっちゃう。

だから体を寄せてやめてって言うんだけど、兄さんすぐに逃げちゃうんだ。

なんとかしたいんだけどなあ……。


部屋の壁にあるものが気になるなあ。

あれ、なんだろうね。

この間から気になってて、スータさんに聞いたけどわからないって言われたんだ。

それじゃあボクもわかるわけないよね。

気にしてちゃいけないものなのかもしれないな。


練習はだんだんハードになってきてる。

いくら走るのが大好きでも、少し疲れたかなあって思うときもあるんだ。

今日もなんだか右の前脚が痛い感じで、なんだか熱いような気もする。

こういうときはなめて冷やしちゃおう。


それを兄さんに見られてたみたい。

兄さん、急いでどっかに行っちゃった。

ボク、悪いことしちゃったかな?


しばらくしたら、お医者さんがやってきた。

ボクの右脚を調べてる。痛いのバレちゃうなあ。

そして兄さんや先生になにか言って帰ってった。


それから何日も経たずに、ボクは競馬場を離れることになった。

今は車の中。やっぱり車の中は自由に動けないし、退屈だよ。

車に乗る前に聞いたんだけど、ボクは育成場に戻されるんだって。

そこで脚の痛いのを治して来いって言われたよ。

痛かったの、バレてたんだね。

レースに出ないうちに戻るなんて、なんだか申し訳ない気がするよ。

お兄さんやお姉さんになんて顔したらいいんだろう……。


重たい気持ちを抱えたボクを乗せて、車は育成場に向かってる。

ボクはどんな顔をして戻ればいいんだろう。

みんながっかりするだろうなぁ……。

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