第11話

ゲートはだいぶ上手にできるようになったよ。

この間からみっちり練習して、もう大丈夫。

狭いのは狭いけども、ゲートの中で暮らすわけじゃないからね。

育成場でお兄さんとやったことを思い出したら、なんだかできるようになったんだ。


先生がボクの部屋に来てくれて、ボクの顔をじっと見てる。

どうしたんだろうと思ってたら、先生こう言ったんだ。

「次の能検出せるな」って。

何のことだろうって思ってたら、スータさんが「次の試験出られるってさー」って教えてくれた。

ボク、次の試験に出られるんだね。

少しだけホッとしたよ。

だって、試験に出られなかったらレースにも出られないんだもんね。


それからは毎日試験勉強。

ゲートもやったし、走るのだって目一杯やった。

おかげで毎日部屋に帰るとお腹ペコペコでね。

ご飯と青草を並べてもらって、かわりばんこにがっついて食べるんだ。

桶が馬栓棒に当たってガランガラン言うんだけど、気にしないで食べる。

たっぷり食べないと体が大きくならないって知ってるからね。

周りの馬たちも賑やかに音立てて食べてるし、ボクも少しぐらいいいよね。


試験の前の晩。

スータさんがいろいろとアドバイスをくれる。

「この間も言ったけど、ゲートで1分待たされるからね。そこだけ気をつけたらいいよー」

わかりましたー。で、レースの方はどうすればいいの?

「それは背中の人におまかせすればいいんだよー。ボクらは一生懸命走るだけさぁ」

そんなんでいいの?

「いいんだよー。負けたって背中の人のせいだしねー」

スータさん、サラッとブラックなことを言ってる気がする……。

もっとも、試験は勝ち負けじゃないって聞いてたから少しは気が楽なんだ。

ボクより強い仔がいるかもしれないからね。

勉強はがんばったけど、どこまでできるかもわからないし。


……あれ?

スータさんの部屋の上になんかついてる。

ボクの部屋の中にも同じようなのがあるね。

なんだろう。

気にしても仕方ないものなのかな。

でも気になるなあ……。


次の日。試験当日。

装備をつけてもらって気合が入る。今日は頑張らなくちゃいけないからね。

部屋の前には見たことある人達がいる。

ボクと関わりあるのかな?

よくわかんないけど、頑張ってくるからねーって言って部屋から出たんだよ。


パドックはこの前下見に連れてきてもらったな。

大きな建物があって、最初に来たときはびっくりしたんだ。

でも、もう大丈夫。

地下馬道ってとこを通って本馬場に出るよ。

一緒に走るのは4頭かな。よろしくね。


背中の人が遅れたみたいで、ボクは最後に本馬場に出たんだ。

遠くで車の音がしてるはずなんだけどな。

ゲートに近づくまでなんにも聞こえない。

ボク、だいぶ緊張してるかもしれない。

失敗したらどうしよう……。


ゲートでもそんなことばっかり考えてたら、もう1分経っちゃった。

ふっと我に返ると、背中の人が合図を出してる。

もうすぐ出るよーって言われて集中する。


ガシャン。

ゲートが開いて、ボクは勢いよく飛び出したんだ。

だけど、背中の人は「そんなに頑張らなくてもいいよ」って手綱で教えてくれる。

え?本気出さなくてもいいの?

ならいいんだけど。


前に1頭いるね。

横から1頭上がってきた。

2頭の間に入れって合図が来る。

いいよ。抜いちゃっていいんだよね?

いいって言われたから抜きにかかる。

本気出したら、ボクが一番速いんだから。


手綱はまだまだって言ってるけど、普通に走ってたら内側のは抜いちゃった。

外のに追いついて抜こうかってところがゴール。

こんなもんでいいのかな?

なんだか拍子抜けしちゃった。

でも、勉強の成果は出せたと思うんだ。

背中の人がポンポンって首筋を叩いてくれたからね。


部屋に戻って一息ついてたら、部屋の外がなんだか賑やかだ。

お向かいのスータさんが教えてくれる。

「ミツ、合格だって!よかったねー!」

あ、合格だったんだ。

うれしいよりホッとした。

これでレースに出られるんだもんね。

頑張って走っていっぱい勝って。

そして畑やらなくちゃだ!

おいしいものいっぱい食べたいからね。


もちろん、育成場のお兄さんやお姉さんにもいいところ見せたいしさ。

そのためには、もっともっと頑張らなくちゃいけないよね。

でも、今日はだいぶ頑張って疲れちゃった。

じゃあ、またね!

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