第10話

ボクのいる大井競馬場はとっても大きなところ。

朝になれば人も馬もいっぱい。

だいぶ慣れたとは思うんだけど、やっぱり前にいた育成場とは違うんだなあって思うこともいっぱいある。

走るのはどこでも一緒だし、ボクは走るの大好きだからそれはいいんだけどね。


ゲートがね。

育成場にあったのより大きくて、馬が何頭も入れるようになってるんだ。

音も少し大きいような気がするし。

これに慣れなきゃなあって勉強してるんだけど、なんだかしっくり来ないんだ。


それを見ていた先生からは、「能力試験を一回先延ばしにして、その間じっくりゲート練習しような」って言われちゃった。

つまり、次の試験は受けられないってこと?

うわぁ……。


しょんぼりして部屋に戻ってきたら、スータさんが心配そうにこっちを見てる。

こんなわけで次の試験は受けられないって言ったんだ。

そしたら……。


「だーい丈夫だよ!なにもレースに出られないって決まったわけじゃないし、次の試験までにゲート慣れすればいいんだから!」

こう言って励ましてくれる。

そう言ってもなかなか難しいですよねぇ……。スータ先ぱ、いやスータさんはどうだったんですか?

「ボクはそんな難しいこと考えなかったからなあ。世話してくれる兄さんやお世話になった人たちに喜んでもらいたいなーってだけだったなあ」

それだけ?

「ボクが頑張ればみんな喜んでくれるからねー。みんなニコニコしてたらボクもうれしいんだ……って兄さん兄さん!ボクと遊んでよ!ほら、ミツもやる!」

ボクもかまってーってやったんだけど、相手にされなかったよ。

うーん……。


でも、スータさんのおかげで少し気分転換できた。

今度は人間を呼ぶのにどうすればいいかを考えてみる。

部屋の入口に鎖がかかってる。ボクの体のお手入れするときに使うもの。

ボク、知ってるんだ。

この鎖、いい音するんだよね。

口でくわえて引っ張ってみる。

ジャラン。

結構大きな音がするね。

これで呼んでみよう。きっと誰か来るよ。


さっきのスータさんの言葉を思い出してみる。

「みんなニコニコしてたらボクもうれしいんだ」

育成場のお兄さんやお姉さん、まぶしいおじさんを思い出す。

ボクが頑張ったら、みんな喜んでくれるかなあ。

でも、ボクが頑張ったのどうやって教えたらいいんだろうね。


……あ。

教えるのは人間の役割だよね。

ボクの役割は頑張って走ること。

そのためには試験勉強頑張らなくちゃだね。


次の日。

ゲートの練習。

いつもより集中してゲートに入ったんだ。

育成場でお兄さんと勉強してたことを思い出した。

狭くて怖いけど、お兄さんが大丈夫だよーって教えてくれたっけ。

あの時と一緒だ、きっと出来る……。


ガシャン。

ボクはきちんとスタート出来たみたい。

背中の人が首筋をポンポンとなでてくれる。

この感じを忘れないようにしないとね。


次の試験に受かれば、ボクはレースに出られる。

先生やお世話してくれる兄さんたちや育成場のみんなが喜んでくれて。

そしたら、こんな嬉しいことないよね。

そのためにも頑張るからね!


もちろん、畑やるのも忘れてないからね。

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