第11話 友達の作り方を教えてください。
とは言っても、友達は欲しくない??
脈絡のない話に定評がある柳奏音ことわたしです。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
友達欲しいよねえ、せっかく高校生なんだからさあ。
今のところわたしの友達といえば、お友達から始めましょうという定型句をまるまる信じて一緒にお昼ご飯を食べてくれる可愛い後輩の男の子しかいない。いつまでも渡くんに依存しているわけにはいかない。というか、渡くんの気持ちを利用しているようで心苦しい。
試しに隣の席の八代くんに「友達になってください」なんて言ったところ、「馴れ馴れしいんだよ、あんた」と顔をしかめられた。傷ついた。
あと、冬樹くんはちょっとハードルが高い。わたしの意識的な問題で。
あー、友達欲しい。欲を言えば同性の友達がいい。こんなわたしだけど、こんな……ガーナ出身(違う)のわたしだけど……友達が欲しい!!
「プルリン……友達の作り方教えて」
「カノンは前の世界で、友達すらいなかったプル?」
「“すら”ってなんだ。言葉の端々に悪意を仕込むな」
「友達なんて、男がいれば必要ないプル」
「おーっと、極論」
わたしは机に突っ伏して、「ふえええええ由依に会いたい」と呟く。由依とは、前世でのわたしの親友である。
「カノンはすぐホームシックになって扱いづらいプル。だいたい、何プルそのユイとかいう女は。そのユイとかいう女が一生養ってくれるプル? 探すなら生涯の伴侶一択プルよ」
「もうやだこの鳥。何の夢もないよ……ビジュアルはめちゃくちゃファンシーなのに」
「とにかく、過去のオトモダチのことなんか早く忘れて、この世界に馴染むプル!」
わたしは黙って、プルリンのつむじ(らしきところ)を指でつつき続けた。プルリンは「やめるプル! ハゲるプル!」と騒ぐ。
お昼ご飯の時には渡くんにも相談した。「どうやったら友達ができるのかなぁ」と。
「それ、前にも言ってましたよね。先輩の魅力に気付かないなんて、周りのやつらが馬鹿なんですよ!」
「いや、そういう心持ちの話じゃなくて」
「あの時はああ言いましたけど、無理して友達なんか作らなくていいと思いますよ。ボク、考えたんです。友達枠も彼氏枠もボクが埋めればいいじゃないかと」
「あのね、わたしはときどき渡くんのことがこわい」
そーですか? と言いながら渡くんは焼きそばパンにかぶりついている。渡くんはわたしの知っている限り毎食焼きそばパンを食べているけれど(この前たまたま登校時間に会ったら、その時も焼きそばパンを食べていた)、飽きないんだろうか。夜は何を食べているんだろう。
わたしはと言えば、今日はカレーパンを食べている。ちなみにみんなは、揚げカレーパンと焼きカレーパンどっち派? わたしは断然揚げカレーパン派かなぁ。揚げカレーパンをレンジでチンして油でべちゃべちゃになったやつが好き。あっ、興味ない? そっか。
「センパイ、勉強はどうですか」
「後輩に学力を心配されるの割と響く……ありがとうね、何とかやってます……」
渡くんは? と聞けば、彼は「あはは」と笑ってごまかすだけだった。たぶんこの子も相当やばい。
教室に戻ると、八代くんが気まずそうに空咳をして「さっきは悪かった。言い方を少し、間違えた」と言ってきた。わたしはポカンとしてしまって、まじまじと八代くんを見る。
えっ、午前中の話? もしかしてずっと気にしてた?
いい人すぎる。何なんマジで。やっぱ絶対この人と友達になりたい。
「じゃ、じゃあやっぱ友達になろうよ」
「それはちょっと」
なんでええええええ。絶対友達になる流れじゃん。流れだったじゃん。え? フラグ建設してぶっ壊すのが趣味の人ですか?
「別にあんたが嫌なわけじゃなくて……女って何考えてっかわかんねえから苦手なんだよ」
そう、ちょっと顔を赤くして八代くんは言った。
なるほどなるほど。何となくわかった。
「じゃあさ、いまわたしが何考えてるかわかる?」
八代くんは大変な難問とぶちあたったような顔をして、じっとわたしの顔を見る。それからため息交じりに「そういうのが苦手なんだよ」と答えた。
あ~~~把握把握。わかる気がする。てか今のめっちゃウザ絡みだったね、ごめん。
「わかった! なるべくストレートに言うようにするわ」
「まあ、その方が助かるが」
「ちなみに今は、八代くんと何としてでも友達になるぞって気持ち」
「……裏がないと思っていいのか?」
「裏???」
そんなこと初めて言われた。わたしってバカだから。
「まあ、お前にはないかもな」と言って八代くんは仕方なさそうに笑った。
とりあえず八代くんとは友達となった(最後まで『馴れ馴れしい』と断られたが、わたしの中では友達になったということにした)ので意気揚々と放課後の廊下を行く。今日も先生が勉強を教えてくれるのだ。
「ちょっとそこの、転校生!」
呼び止められて、振り返る。
ダボついたカーディガン、短すぎるスカート、ルーズなソックス。あまりにも、あまりにも、典型的なギャルだ。典型的なギャルが3人いる。わたしは思わず喉を鳴らした。
いいな~~~~!!! すっごい可愛いじゃん!!! えーわたしもあれやりたい!!!
そうだわたしもスカートをもう1つ折って、先生にバレないようなうっすいメイクして、爪をきれいにしよう。そうしよう。
「聞いてんの?」と言われてわたしは「はいっ」と答えた。
ギャルのうち1人が、わたしに近づいてくる。「あんた、なんか外国から来たんだよね? ガーナだっけ」と言われたので、内心では『それは誤解です隊長!』と叫びながらもうなづいた。
「まあその、何というかその、ガーナというか」
「何よ」
「いろいろ手違いがあってガーナなんですけど」
近づいてきたギャルはじろじろとわたしを見て、それからわたしの腕をつかんだ。恐れおののくわたしの手を開かせて、そっと何かを握らせる。
「飴玉あげる。あんたも大変だね。日本もいいとこだから、がんばろーね」
うっかり泣いてしまった。「うわ~なんか目にゴミが」と言いながら飴玉を握りしめた。「ありがと。なんかほんとごめんね」と言ってポケットにしまう。
「いいってことよ。うちらも色々あるし、あんたもいろいろあるってことっしょ。あと、目に傷がつくのやばいからちゃんと診てもらった方がいいよ」
「わぁ……もうほんといいひと……攻略対象かな??」
「こうりゃくたいしょー? よくわかんないけど、クラスメイトなんだしそんな気にすんなって」
そう言ってギャルたちは踵を返した。
わたしはポケットの上から飴玉をなでて、それをぼんやり見る。「あ、あのっ」と自分でもびっくりするほど大きな声が出た。
「田中さん、東雲さん、近藤さん!」
3人はゆっくりと振り向く。
「友達に、なってください! よろしければ! 不束な転校生ですが!」
顔を見合わせて噴き出した3人が、「名前、知ってたんだ。話したこともないのに」と少し嬉しそうに呟いた。
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