空っぽで、無意味。

仮面の破片を拾い上げ、もう残ってもいない接着剤を塗り重ね、直そうとした。

どう足掻いても、この仮面は直るはずがない。

ワタシには、この仮面を諦める選択肢しか残っていなかった。



ある感情が頭をよぎった。

……仮面があったところで、中身がなかったら意味ないじゃない。




いくら勉強が出来ても、どれだけ運動が出来ても、交換留学生に選ばれても、何か入賞した経歴があっても、八方美人で上っ面だけで人望があっても。


中身のワタシがなかったら意味がない。

仮面のワタシは、中身のワタシがあってこそのモノでしかない。

仮面のワタシがどれだけ生きてる意味があっても、中身のワタシには生きてる意味はない。

中身のワタシには、何も残らない、残してもくれない。


仮面のワタシが大事で必要で、だから、だからって、

削って、捨てて、壊して、捨てて、殺した先には、

もう何も残ってはいなくて、全て空っぽで。

清々しいほど、人間の汚さはなくて、でもワタシは消えていた。


作り上げた仮面のワタシしかいなくなった。

完璧で立派で美しい、ワタシの自慢の仮面。


でも、周りの人間はワタシを嫌う。


「ウザい」「消えろ」「死ね」「気持ち悪い」「インチキ」

そんな言葉は空っぽだからこそ、よく響く。


でも、どうでもよかった。

言わせておけばいいと思った。

あいつらはワタシに意味がない人間だって。

あいつらはくだらない人間だって。


言いたい奴らには、言わせておけばいい。

くだらない考えを持って、汚い感情を出して、みんなと同じだって安心すればいい。


だってワタシは空っぽだから、傷つかない。

響くだけで、考える中身も、心も、もう無い。


ワタシはその間も、仮面を更に完璧に作り上げている。

仮面のワタシを作り上げるために、頭を作り、心を作り、感情を作り上げる。


勉強も、成績も、何もかも、ワタシを作り上げる上での副産物に過ぎない。

そんなモノあったって、意味なんて持たない。


中身のワタシを殺していくたびに、安堵を繰り返した。

その裏で、空っぽであることの虚無感を感じ、苦しみ続けた。


それなりに感情を繕って、喜怒哀楽をコントロールしておけばいい。

そうすれば、ひとまず、また明日も安全に生きることができる。


そんなワタシに、生きている意味も価値もないし、

生きていても、死んでいても、意味が生まれるわけでもないけど。


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