第9話 傘と自転車を買ったことが無いとは……
今日は昔、バイト先で出会った人のお話です。
コレ、自己紹介系な話じゃないけどいいよね。
まず表題。「傘と自転車を買ったことが無い」とは?
学生なら、親に買ってもらったから自分では買ったことが無いかもしれない。お金持ちの人なら、他の人に買いに行ってもらうから、自分で買ったことが無いかもしれない。
でもね。この台詞を吐いた奴は30歳位の女性だったのだよ。しかも、自慢げに言い放った。
俺は最初意味が分からなかった。そりゃそうだろ。意味わかんないさ。最初に言ったお金持ちのパターンかとも思ったが、弁当屋の配達のバイトに来る奴でお金持ちなんていやしない。
話を聞くと理解できた。
「傘なんて、一杯傘立てに刺さってるじゃん。良さそうなの勝手に持って帰るんだよ。自転車もそう。自分で買うなんて馬鹿みたいじゃん」
( ゚д゚)ポカーン
ああ、この人、窃盗犯だったのね。しかも、その自覚が全くない。こんな話を普通の職場で自慢する神経が分からない。
いやね。人によっては貧しくてそうするしかないような境遇だってあるかもしれないよ。でも、自慢はしないだろ。
彼女の話はさらに続く。某、ジャニーズ系のタレントの追っかけをしていたことがあるらしい。ちょっと熱心過ぎるくらいならよくある事かもしれない。しかし、こいつの場合は悪質だった。
コンサートとかTVの撮影とか、そういうのを追っかけるなら可愛いじゃないの。しかし、こいつは目当てのタレントの住居情報を入手する。それから、郵便ポストやゴミ等を漁る。そして郵便物とか個人情報を盗む。鍵付きでもなんとかするらしい。
((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
いやさ。好きで追っかけたいとか、その人の事なんでも知りたいとか、分かるけどさ。これ、犯罪じゃん。それに、ここ、弁当屋だけど普通の堅気の真面目な職場だよ。ここで自慢してどうするのさ。その犯罪行為を。
これは、中高生なんかの悪ガキがやる万引きした戦利品自慢みたいなもんかな?そうだよね。まあ、中高生の頃の出来心でって話ならまあ仕方ないとも思うんだけどさ。君、もう30だろ?
こいつは自己中で文句だけは一人前に言うくせに、職場の改善とか前向きに取り組む気などさらさらない奴だった。一回、病院に行くと連絡したっきり一ヶ月以上も音沙汰無しで退職。誰も相手にしてなかったから居場所が無かったと感じていたのかもしれないが、そんな犯罪行為に同意する奴は普通いない。
後で、妊娠して子供ができたからだと言い訳していたらしい。妊娠は事実だったらしいが、言い訳しても誰も同情しなかったな。
もう一つ別のお話。その職場では定時制の高校に通っていた男の子がいたんだよ。俺に懐いてて、ガンダムのアレコレとか、マジンガーのアレコレとか話してたし、気にったコミックを持って来て貸してくれたりもした。将来大学に進学したいとか言ってたので相談にも乗った。そいつは気の毒な境遇で、母子家庭だったし生活保護を受けていた。大学なんて夢のまた夢だっただろう。当時は、バイトしてお金が入ると生活保護の方がマズイことになるからって家を出たがっていた。そんな話はだけは聞いてやれるが、何か助けてやれることなど無い。しばらくして俺はそこから別の所へ転職して付き合いが無くなってしまった。
その半年くらい後だったか、そいつが母親を刺したと聞いた。バイトの件、家を出る出ないの件、それらが原因だったのかもしれない。彼は逮捕された。母親が死亡したと報道されていないから殺してはいなかったんだろう。
母親を刺すなんてどんな心境なんだか想像がつかなかった。俺の携帯番号もメールアドレスも教えてある。一切変更していない。しかし何も連絡して来なかった。アドレスが変更されているのか俺からのメールは届かなくなっていた。
もっと話を聞いてやれば良かったのか、転職しなければ良かったのか、そんな事を考えてはみるが、多分関係がなかったのだろう。俺は関係なかったのだと、そう思い込んで忘れることにした。
あれ、何だか重い話になったな。
まあいいや。たまにはこういう思い出話もいいよな。
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