第7話 Super姉貴

 私には姉がいます。2歳年上ですよ。

 彼女は東京オリンピックで東洋の魔女を見て、それに憧れてバレーボールを始めたんです。よくある話だと思うのですが、彼女にはもっと好きなものがありました。


 漫画です。


 正直な話、めっちゃ上手かったですよ。絵は抜群でしたね。

 自分の描く下手くそな落書きと違い、かなり様になっていたと思います。


 しかも、付き合うお友達はほぼオタク系だったんですよ。

 当時オタク女子という言葉は無かったと思うんですが、もうオタク女子会が我が家で何度も開催されておりました。

 皆さん見た目は悪くないんですが、そこはオタク女子。何というか地味な印象で男には興味が無いっていうのが丸わかりなのですよ。うちの姉は特にそういう傾向が強く、弟の自分から見ても結構綺麗なんですが、本人にはその気が全くない訳です。姉に想いを寄せていた男子先輩は何人かいたようですが、まあ、普通に気付かない感じでしたね。なので、恋愛経験は無し。男をとっかえひっかえ遊びまくれる容姿だったのですが、その美貌はまるで活用されませんでした。


 さて、このお姉さまですが、漫画が大好きなのです。そして絵が非常に上手い。当然漫画家か芸術系を目指すと思うでしょ?でも、非常に生真面目なのですよ。この人は。

 つまり、親に迷惑はかけられない。趣味を押し通すわけにはいかない。そう考えていたようですね。

 姉が短大生の時、一大決心をしたようです。大きい出版社の公募に作品を出して当選すれば夢を追いかける。落選すれば諦める。

 とあるお正月を挟んだ冬休み中、漫画原稿を書いてました。え?俺ですか?当時高校生だったのですが、当然のごとく強制お手伝いをさせられましたよ。べた塗りを死ぬほどやらされました。

 こういうところはさすが姉ですね。恐らく世間様での姉の共通項ではないでしょうか?


 弟は自由に使役できる駒であると!!


 さて、どの出版社のどの賞だったか忘れましたが、講談社とか集英社みたいな大きい所だったと思います。当日消印有効だったと思うのですが、ぎりぎりまで原稿を手直しし、コピーを取って郵便局が締まる直前に書留で送ったと思います。

 

 結果はどうだったのか?


 最終選考には残ったものの賞は逃した。


 残念でした。詳しくは覚えていないんですが、大賞1本、佳作3本には入らず、その次位だったと思います。賞の本数は適当ですが、こんな感じでしょう。一応、最終候補作として小さく紹介されていたんじゃないかな?編集部のコメントもついていたと思う。


 これってすごくないですか?

 すごいですよね。


 色々な賞に何回も応募すれば、どこかに引っかかる可能性があったと思います。また、アシスタントとかに応募してそのまま努力すればプロになれた可能性があると思います。普通の人は最終選考に残らないもんですよね。漫画と小説との違いはあると思いますが、その辺の事情は皆さんよくご存知でしょう。


 姉は漫画家を諦め普通に就職し、お見合いで大人しい男性と結婚しました。

 

 世間にはプロ並みの才能がありながら、開花せず埋もれている人が沢山いるって話です。漫画でも小説でも。


 このSuper姉貴には付随エピソードがあります。


 自分が小学生の時、姉の真似をして漫画を描いたことがあります。鉛筆で3ページ位描いたかな?それを姉に見せると……。


 添削されて、いや、新しく描き直されて返ってきました。


 その出来の良さと言ったらもう……。


 その時心が折れた気がします。自分にゃ漫画家は100%無理だと……。変な夢見ずに済んだと思っています。

 

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