第6話

 何をしているんです!?


 とうとうボクは心のゆとりと決別します。自ら、手放すことを選択しました。自分を追い込むことでこそ、底力が発揮できるというものです。

 そう、ボクはまだ本気で助かろうとしていなかったんです。本気を出せば、ここから自力で脱出できるはずです。

 それにゲームでも、映画でも、こういうシチュエーションスリラーには、必ず何かしらの抜け道が用意されているものです。穴があるはずです。

 あるわけないじゃないですかそんなこと!


 頭痛は激しさを増すばかりです。あまりの痛みに顔が歪みます。涙が出てしまいます。いけません、これ以上の脱水は。泣いてはいけない。一度出た水分は、もう二度と取り戻せないのに。

 戻ってこないじゃないですか。


 持てる力を振り絞ります。身を起こしました。脳髄が重力に引かれ、引きちぎられるようです。外を目指して、ボクはドアに体当たりしました。持てる力を振り絞ります。ボクはドアに体当たりしました。持てる力を振り絞ります。ボクはドアに体当たりしました。持てる力を振り絞ります。

 そんなことをしたって一文の得にもならないんですよ!?


 もう、体の全てを使って、ドアにぶつかります。頭だろうと顔だろうと構いません。何もかも壊してしまうぐらい、壊れてしまえというぐらい、夢中になります。

 このままだと、本当に死んでしまいます。


 それから、あらん限りの声で叫びます。助けを求めます。口を塞がれているので言葉にはなりませんが、とにかく音を発します。外に聞こえれば何でもいいのです。


「んんんぅぅぅ―――ッ! んぁぁぁんんぅぅぅぅぅ―――ッ!」


 唸るように叫びながら、体当たりも続けます。頭を打ち付けると、頭痛が和らいだような気がしました。脳髄が捻転します。脳漿が飛沫を上げます。

 あるわけないじゃないですかそんなこと!


「んんぇぇぇんぅぅぅぅぅ―――ッ! んぁぁぁぁんぅぁぅぁぁぁぁ―――ッ!」


 助けて。死にたくない。

 そう叫んだつもりでした。

 いやそう叫んでいます。


 助けて!

 助けて!

 助けて!


 どれだけの時間が経ったのでしょう。


 死にたくない!

 死にたくない!

 死にたくない!


 死にたくないなら、死なせません。

 このままだと、本当に死んでしまいます。


 体当たりはやめません。体温は際限なく上昇し、汗を散らしますが、なおもドアに体という体を打ち付けます。ぶつかるたび、汗でその箇所が濡れているのを感じます。けどなんだか鉄の香り。

 やめてしまうと全てを諦めたことになってしまう気がしましたから。

 何よりこれ以上、じっとしていることができませんでしたから。

 いいことなんてありません。

 あるわけないじゃないですかそんなこと!


 頭痛、頭痛、頭痛。止まりません。頭を打ち付けます、頭を打ち付けます、頭を打ち付けます。止まりません。汗、汗、汗。止まりません。

 額から流れ落ちた汗が、鼻の穴や口に染み込みました。貴重な水分の還元です。でもどこか鉄の味。

 センパイだってそれぐらいわかるはずです。


 どれだけの時間が経ったのでしょう。


 ボクがこんなに苦しんでいるのに!


 どれだけの時間が経ったのでしょう。


 どれだけの時間が経ったのでしょう。


 どれだけの時間が経ったのでしょう。

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