第5話

 頭痛がします。内側から割れるような、がんがんと激しい痛みです。

 いよいよ熱中症と脱水症状でしょう。起きているのも辛くなってきたので、ボクは身を横たえました。どれだけ頭痛が和らぐのかは定かでありません。

 汗がとめどなく溢れています。全身、濡れていないところがありません。服に染み込み、下着までぐっしょりとしています。

 これ以上の汗の流出は、避けねばなりません。いよいよ頭痛が耐えがたいものになっています。心なしか気持ち悪くもなってきました。嘔吐でもしたらさらに水分を失ってしまいます。

 少しでも流れ出た水分を取り戻そうと、汗を舐め取ることを考えました。手足を縛られては肌を舐めるのも困難なので、地面に染みたものを吸い出そうとします。もはやなりふり構ってはいられません。

 横になったまま、地面に口を当てようとしました。それが口を塞ぐボールに阻まれ、猿轡を噛まされていたことを思い出します。舌を伸ばすことすら叶いません。そんなことも忘れるぐらいには、判断力も落ちてきたのかもしれません。


 どれだけの時間が経ったのでしょう。


 センパイは一向に戻ってくる気配がありません。何かあったのでしょうか。自分をこんな目に遭わせている人間を心配している? いえ、心配しているのは自分の身だけです。もうあんな奴センパイでも何でもありません。まさにあんちくしょうです。

 しかしすでに、すごく長い時間を過ごしたような気がします。実際はそれほど経っていなくても、苦痛を受ける時間が長く感じられる、というものでしょうか。

 もう数時間は待っているつもりですが、その実数十分しか過ぎていないのかもしれません。時間の感覚などとっくに失って久しいものです。ひょっとしたら、数十分程度の久しさ。


 どれだけの時間が経ったのでしょう。


 暑いです。喉が渇きました。頭も痛いです。総じて、苦痛を極めています。それでもなお留まることがありません。より痛み、より渇き、より暑くなっていきます。


 このままだと、本当に死んでしまうじゃないですか。


 死ぬんですか? 本当に? ボクが?

 でもセンパイは戻ってくるはずです。


 どうしてそう言い切れるんですか?


 だってボクが死んだら困るだろうから……。


 もし死んでも構わないと思っていたら?


 あり得ません。


 あるいは、死なせることが目的だったら?


 あり得ません。


 あり得ません。


 あり得ません。


 あるわけないじゃないですかそんなこと!

 ボクが殺されるわけないじゃないですか!

 そんなことをしたって一文の得にもならないんですよ!?

 人を殺したって損をするだけです。

 いいことなんてありません。

 センパイだってそれぐらいわかるはずです。

 そこまで軽率ではないはずです。

 誘拐殺人なんて下手をしたら死刑ですよ。

 死にたくないなら、死なせません。

 真夏の車内に人を閉じ込めていく、軽率な人間なのに?

 でもこれから戻ってくるから、つまり助ける気があるので軽率ではありません。

 戻ってこないじゃないですか。

 いや来るはずです。

 センパイでなくたって、警察が来てくれます。

 何をしているんです!?

 ボクがこんなに苦しんでいるのに!

 どれだけの時間が経ったのでしょう。

 このままだと、本当に死んでしまいます。

 死にたくないなら、死なせません。

 警察が来てくれます。

 あるわけないじゃないですかそんなこと!

 センパイだってそれぐらいわかるはずです。

 いいことなんてありません。

 ボクがこんなに苦しんでいるのに!

 ボクが殺されるわけないじゃないですか。

 どれだけの時間が経ったのでしょう。

 いいことなんてありません。

 あるわけないじゃないですかそんなこと!

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