『血路』三
ザァザァと振り続ける雨。
空の援護に向かったホープさんと、地上で暴れるマキロンさん。
燃やし、爆発させ、掃射。
いつの間にか中衛だった筈の私達が最前線です。
シルヴィアさんはアレをスクラップだと言っていましたが、そうは思えません。
『オッサン! この戦争は魔王とやらを倒せば終結するそうじゃないか! 道は開く! シルヴィアを引き連れて古城に乗り込め!! 俺の攻撃は魔力エネルギー依存、つまりは有限だ!』
ギュィィィンとタイヤが回転し、魔王軍を轢き殺しました。
今現在優勢なのは中央付近だけ。
マキロンさんの戦闘能力も最後まで持つ訳では無いのでしょう。
もしかして、全体は押されている?
こんなに殺しているのに??
このままだと負ける?
――魔王を討つ。
誰が……?
今この瞬間、マキロンさんに言われるその時まで。
そんな事は全く考えていませんでした。
確かにソレは幼少期から憧れていた〝勇者〟に最も近い行動です。
ですが私が行くという事は――。
「勇者様、行こっ!」
「リア……」
「――ふんっ、私はご主人様の意志に従うぞ」
「折角だ、敵の大将の顔を見るのもいいんじゃないか? って言うのが定番か」
「シルヴィアさんに、アロエさんまで……」
そう。
今行くという事は……。
今この場に居る仲間達を、最も危険な場所に向かわせるということ。
「命知らずばっかりだなァ! まっ、アタイも賛成するけどな!」
「行こう!」
アルダさんに、リオンさん。
次々に声が上がる、元賞品剣闘士だった仲間たち。
それを実行する事で死者が減るのなら。
最善を尽くす為に、やれる事を、やるしかありません。
「オッサン! その作戦、俺たちも連れて行ってくれ!」
「ボクらなら足手まといにはならないよ!」
「知り合いでござるか?」
「シュンヤくん。この人、強襲作戦の時にいた人ですわ」
「なるほどでござる!」
ライゼリック組のヨウさんとニコラさん。
それにプラスして、お二人の知り合いらしき二人組。
「ついて来られる者は来てください! では、マキロンさん!!」
『任せておけ。行け――キサラ!』
ハッチが開くと、無数の何かが空を飛翔しながら戦場に舞い降りました。
空を舞う白い羽根。
普通の者が見れば、それは美しく舞い散る白い羽根に見えるのでしょう。
しかし今の私には、粉塵爆発が起きる手前の光景にしか見えません。
『『『コケコケコケコケコケ』』』
「コケー!」
羽ばたくニワトリとキサラさん。
フラッシュバックする、数々のトラウマ。
それと同時に思い出す、数多の記憶。
――校舎横で見た雨の日の紫陽花。
鶏たちは直線状に飛んでゆき――――大爆発――――。
鼓膜が破れそうな轟音と共に、多くの魔王軍を吹き飛ばしました。
『全武装制限解除――GO!!』
ミサイル、レーザー兵器、両腕の機銃掃射。
マキロンさんの乗っている機体のすぐ近くまで戻ってきたホープさん。
ホープさんも魔王城側に向けて――フルバースト。
それによって完全ではないにせよ、魔王城までの道ができました。
「行きます!!」
私とナターリアとおっさん花が駆け出して、それに続く仲間達。
恐らく魔王を倒しても世界が平和になる事はありません。
それは元の世界でも証明されてしまっている事。
しかし、ほんの一瞬。
勝利の喜びに満たされている、その一瞬だけでも……。
世界に平和を、もたらしてみたい。
――響く、妖精さんの笑い声。
「地獄への片道切符、わたし達も付き合うわよぉ~」
「……サポートくらいしか出来ないが、まぁ援護は任せろ」
左右から迫る魔族の波を切り分け合流してきたのは、リュリュさんとポロロッカさん。
何度も助けてもらって、また今回も、一番危険な道を手助けしてくれる。
アークレリックの町に帰ったら、ジェンベルさんの酒場でお酒でも奢りましょう。
「はい、任せました!」
私はただ、迫る敵をおっさん花を操って薙ぎ払い、進むだけ。
「止メロォ! トロール隊、前へッ!」
『『『ヴオォオオオオオオ!!』』』
道を塞ぐ壁になるように出てきたのは、大盾を構えたトロールの部隊。
トロールは人間をゴリラにしたような、そんな姿の魔物です。
こういった事態に備えて後方待機していたのかもしれません。
――囲まれる前に、それを突破できるでしょうか?
不意に頭上を通過した――黒い影。
一瞬ワイバーンかとも思いましたが、違います。
「【エクスプロージョン!!】」
トロール部隊の中心で起きた大きな爆発。
それは鶏単体の爆発よりも、かなりの広域に影響を及ぼすものでした。
頭上を通過した黒い影の正体は――漆黒の巨大な烏。
「お客さん! 私は戦争に来たんじゃなくて、お客さんを助けに来たんだからね! 今後とも、ウチを御贔屓にー!!」
魔道具店の店主である〝ダヌアさん〟。
アークレリック防衛戦での出来事。
それで戦争に対するトラウマができたから、戦争には参加しないと言っていた筈。
それなのに助けに来てくれた。
戦争の報酬が入ったら必要な物から要らない物まで、買い揃えてみせましょう。
「突破しますよ!」
左右から押し寄せる魔王軍の波を、シルヴィアさんを中心に掻き分けて進みます。
後ろは完全に埋まりました。
部隊は孤立中。
魔王城に辿り着けにければ、包囲殲滅されてしまうのは確実です。
私以外は誰も生き残れません。
――魔王城の扉が破れなければ?
――中にもギッチリ詰まっていたら??
「ギャ!?」
「ぐぁっ!」
「あぁ!!」
「止まるな! もう助けられん!!」
確実に数を減らされている部隊員。
不確定要素の塊である、この強行作戦。
作戦と言っていいのかどうかも不確かで、リスクばかりが高い強硬策です。
とはいえ、もう後戻りをするのには遅すぎるタイミング。
残されている選択肢は――全滅か成功か。
私が今可能な事は、道を切り開くのみ。
唐突におっさん花との視界共有が繋がり、複眼的に見える視界。
その二人分の視界は血でも入ったかのように真っ赤です。
喧騒が遠のき、意識だけが妙に覚醒しているこの状態。
「行きます」
全ての触手を操りって正確かつ一突きで、迫りくる敵を刺し殺します。
不意に……何かよく判らないものが、完全に繋がった感覚。
ナニカ理解出来ないものを理解し、おっさん花に近づいてしまいました。
おっさん花の全てを完全に掌握し、寸分たがわぬ精密な動きを実現します。
迫る敵を刺し殺し、それを別の敵に投げつけながら、また別の敵を攻撃。
「まだ、まだまだ全然……!!」
全ての視界をギョロギョロと動かし、仲間が一人でも減らないようにカバー。
気が付くと全ての視界が紅く染まっています。
鼻から血が垂れてきたのか、何かが唇を濡らす感覚と口に広がる血の味。
一体のおっさん花の触手を拳の形に形成します。
潰し、薙ぎ払い、殴打、殴打、殴打ッ!!
――城門は目の前。
しかしこのまま入っても、敵と団子状態なのは変わりません。
「シルヴィアさん!」
「ふんっ、魔力を全て使うからな。【範囲操作】【
シルヴィアさんを中心に瞬間的に広がる、命をも凍て付かせる圧倒的な冷気。
一行を取り囲みつつあった魔王軍の殆どか氷像と化したかと思えば……。
それらが肉体ごと割け、開花。
血の色が違うのか、赤、青、紫、緑、と透明な氷の花が咲いています。
「ふんっ!」
渾身の力を込めて魔王城の扉を足でノックしたシルヴィアさん。
――バゴーン! という凄まじい音を響かせて破壊された魔王城の扉。
私の率いる元賞品剣闘士の部隊は、魔王城への侵入に成功しました。
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