『はないちもんめ』三
一応の身格好を整え、宿の扉を開けて外に出ました。
そこに居たのは、案の定のレバンノンさん。
貴族はクリムゾンな性騎士の聖騎士である……おやっ、名前を忘れました。
「オーク好きの貴方は、なんというお名前でしたっけ?」
「おいバカ! 誤解を招くような事を言うな!! ロベリー・ヒンデルブルク、だ!!」
「そうでした」
「ったく……」
オークが性的な意味で好きだという点は間違っていないとは思いますが。
まぁ、今はいいでしょう。
それよりも今一番の問題なのは――もう一人の純魔族。
「昨日ぶりですね? レーヴェちゃん」
「こんにちは、ぼーけんしゃのお兄さん」
偶然誘ってきた女の子が、たまたま上の者だった?
――否。そんな偶然、あるわけがありません。
「最初の接触は、偶然じゃあなかったのですね」
「ぼーけんしゃさん、勘が鋭いんだね」
「という事は、やはり……」
「幹部を全員倒した貴方とセイレイに興味があって、仕組ませてもらったわ」
ドレイクンの隣に立っている純魔族の少女。
つまり彼女には、それに近い戦闘能力があると思ってもいいのでしょう。
私は、また騙されていたのでしょうか。
そしてまた、仲間に危機が及ぶような失敗を……?
「一緒に遊んだ子供達は?」
「何も知らない普通の子供よ」
「では、二度目の冒険者に襲われていたのは?」
「あれは偶然。あの時は本当に助かったわ。……ねぇ、そんな目しないでよ」
「……そんな目って、どんな目ですか」
「貴方がわたしに向けていた優しい目。それを見て作戦を取り消したのに」
あの時、目の前に居る女性に絡んでいたゴロツキ冒険者。
コトに及ぼうとしていたら、どう転んでいても死んでいたのは間違いないでしょう。
ある意味あの時の彼らは、一番の最適解を出して離れて行ったのかもしれません。
「わたしの本来の役目は、虐げられた者達を纏めてゲリラ戦を仕掛ける事」
「戦場で暴れ回っていなかったのは……」
「うん、メインの戦闘に参加しなかったのはそれが理由」
「それで今の貴方は――誰なのですか?」
「わたしはこの町の領主。表の顔はレバンノンがしていたわ」
「全く、何もかもが想定外だ」
「ええ。でも貴方が逃げ出さなかったのが、一番の想定外ね」
「ぐ、ぐぅぅぅ……」
レーヴェさんに睨まれて怯む、高貴なドレイクンであるレバンノンさん。
目の前に居る純魔族の女性は、まさか、彼よりも強いのでしょうか?
「この町が平和的に占領されているのは、貴方の御かげだって聞いたわ」
「私の御かげ……? 本気で身に覚えがないですね」
「そうなの?」
「ええ、そもそも作戦に口を出す権力もなければ、口を出す勇気もありません」
「おいっ! すっとぼけるなよオッサン!」
「ロベリーさん……?」
唐突に口を挟んできたのは、ロベリーさん。
真面目に話しているので、性騎士さんには静かにしていて頂きたいところ。
「人族全体を敵に回しかけてまで純魔族の子供を助けたのは、どこの誰だ!」
「あっ……」
「気が付いていなかったようだが、私もあの審議会には居たのだぞ!!」
「本当ですか?」
「ああ、勇気というよりは蛮勇に見えたけどな」
バッチリやらかしていました。
申し開きのしようがないくらいにやらかしています。
空での最高戦力を有している私の、あのタイミングでのあの行動。
とどのつまり――。
この町が殲滅ではなくて人道的な占領が行われているのは……。
あの時の行動が影響していた?
もしかしたら、虐殺をすると裏切られるとでも思われたのかもしれません。
「ロベリーさん」
「なんだ」
「疲れたので座ってもいいですか?」
「今の空気でよくもまぁそんな台詞が吐けたな?」
「縄跳びのしすぎで疲れているので……」
「しかも戦争と全然関係の無い部分で疲れてるだと!!? お前の心臓は鋼鉄製か!?」
「いえ、普通に肉の心臓でしたよ。自分で見たので間違いありません」
「はぁああああ??」
素っ頓狂な声を上げたロベリーさん。
ロベリーさんの視線が、私を見るダイアナさんと同じものになりました。
やはりロベリーさんはダイアナさん似の騎士さん。
貴族ではあるのかもしれませんが、リュポフさんの三倍は軽い気持ちで関われます。
「言われてみればそうね。立ち話もなんだし、向かいの酒場で続きを話そっか」
「わかりました」
「……またその目。もうわたしのこと、信じてはくれないんだね」
「警戒しているだけです。裏切りを受ける事が多かったので」
「縄跳びも花一匁も、たのしかったのになぁ……」
「…………」
――彼女と同じかそれ以上に、私も本当に楽しかったです。
しかし彼女は魔王軍の側に立っている人物。
この世界で経験してきた事の全てが、彼女を信用できない要因になっていました。
「……移動、しよっか」
「はい」
すっと伸ばしてきた手を優しく遠慮すると、悲しそうな顔になった純魔族の女性。
あと一押しで泣いてしまいそうな、そんな表情です。
しかし彼女は三十歳を超えている立派なレディー。
いえ、年齢だって嘘かもしれません。
彼女は自分の事を子供だと言っていました。
子供なのに、この町の領主様……?
嘘だと疑わない理由がありません。
……一度断ったのに、また伸ばされてきた震える小さな手。
私は……。
私は――。
「いや、その顔はずるいですって……」
静かに手を取って、向かいの酒場まで引っ張って頂く事にしました。
もし彼女が子供ではなかったとしても。
もし、これが嘘だったとしても。
女の子が流す涙は――少ない方がいいに決まっています。
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